第5話 かわいい物体
列車は中世ヨーロッパ風な街の中の併用軌道の上を馬車をミュージックホーンで煽りながら走り、フォーロムターミナル駅に滑り込んだ。
駅にはフライングスコッツマンを思わせる英国風の緑色の蒸気機関車が牽引する木造の客車列車がいくつも停まっている。
駅のホームを歩いている人達も、西洋甲冑や魔女服、尖った耳など、ファンタジー情緒たっぷりである。
そんな中、近代的な気動車であるこの列車は明らかに浮いていた・・・そりゃもう、異物と言われても可笑しく無いくらいに。
まぁそれは置いといて、列車が停車すると座席車の1、2、3号車の扉が開き、乗客がぞろぞろと降車していく。
パンフレットには、座席車は一般乗客用の列車として運行されていると説明されていたので、一般の乗客だろうか・・・そして、彼等は個室車輌、しかも一等車に乗っている私を好奇の目で見ながら通り過ぎていく。
当然だろう、4号車以降は特別列車として運行され一般の乗客は乗ることができないし、更に一等車ともなれば、乗っているのは大抵VIPの大物である。
まさか私がひきこもり中学生だとは思うまい。
♪~名鉄チャイム~♪
スノウ(車内放送)
「4号車ご利用の〃守崎 夢〃様、準備ができましたので、6号車〃レインボー〃までお越し下さい。」
♪~名鉄チャイム~♪
どうやら朝ごはんとレクチャーの準備ができたらしいので、私は部屋を出て、食堂車に向かった。
途中、他の乗客に出会わないか心配だったが、どうやら4号車以降の車輌の乗客は私だけのようだ。
6号車の内装は、北斗星のグランシャリオやトワイライトエクスプレスのダイナープレヤデスに良く似た構造になっていて、厨房横の狭い通路の奥に食堂の入口があった。
そしてその入口の扉の脇には、細い草?に覆われた植木鉢が飾られており、何とも言えない異様な存在感を放っていた。
何だろう、色的には若草色で植物っぽいんだけど、髪の毛っぽくねこれ・・・
そう思いながら、徐にそれに触れてみる。
草?とも言えず髪の毛?とも言えない何とも微妙なさわり心地・・・
むくむくむく・・・
その時、鉢植えの緑色の草の様な塊が動き、その中から小さな顔が出てきた。
スッポン・・・
更に鉢植えから身体を引き抜いたそれは、身長約30センチ位で、緑色のクリクリお目目と長い緑色の髪の毛の天辺に2枚の葉っぱを生やした可愛らしい女の子であった。
な・・・何このかわいい物体は・・・
思わず抱き上げてしまった。
かわいい物体
「おお、知らない人に抱っこされたぞ、誘拐されるのか?お持ち帰りなのか?」
しゃべり方が、アホの子っぽくて更に可愛らしい。
愛でて良いよね?もう、これ愛でまくって良いよね?
・・・というか萌え死しそうです♪
私は、抱き上げたその子を思う存分撫でくりまわす。撫でられるのが好きなのか、その子も撫でて撫でてと言わんばかりに身体を擦り寄せてくる。
これ以上はいけない・・・本気でヤヴァイ・・・
萌え死寸前となった私は、その子を降ろし〃またね〃の意味を込めて頭を撫でてから食堂に入った。
今度は、ちゃんと鼻栓を持ってこよう。
食堂のテーブルには、朝食のサンドイッチやサラダが配膳され、その傍らにはスノウが控え、私に一礼し椅子を引き出してくれた。
なんという御嬢様対応!もうスノウさんに頬擦りしたいです!やらないけどさ・・・
取り敢えず〃どっこらせ〃っと(おやじくさいとか言うな!)椅子に腰掛け〃いただきます〃をしてから、サンドイッチをはむはむと食べ始めた。
スノウ
「それでは、この世界についてのレクチャーを始めさせて頂きます。」
私が朝食を食べ始めたのを確認したスノウが、優しいトーンで話し始めた。
前から思ってたけど、スノウの声って綺麗だよね・・・ボーイソプラノとか余裕でいけそう。
おっといかんいかん、話しに集中せねば・・・
私は、スノウの話しに集中する。当然、サンドイッチをはむはむしながら・・・てか、美味しいなぁこのサンドイッチ♪