第55話 姉の愛情
◇◇◇神奈◇◇◇
夢ちゃんと別れた私はある人物?に会う為に、第1列車総隊の司令直轄列車隊が展開する留置場にむかっている。
理由は、今回の列車の襲撃で大量のマナルが奪われた事を伝えるため。
要は、勇者が戦列に復帰した可能性を伝えるためだ。
夢ちゃんの前では、天然キャラのダメな姉を演じてますが、実際はこういう事が普通にできるんですよ。
でもね、私はあの娘の前ではダメな姉でなければいけません。
もしも、私が頼れるお姉さんだったなら、怠け者のあの娘は私に頼りっぱなしのダメな娘になっちゃいます。
だから私は、あの娘にバカにされようとも、ダメな姉を演じ続けなければいけません。
辛くはありませんよ♪だってたった一人の可愛い妹の為なんだから。
・・・ただ、弁慶蹴るのは本気で涙が出るぐらい痛いので止めて欲しいかな・・・でも、可愛い夢ちゃんがかまってくれてる証拠なので全力で拒否するのは気が引けるというか、したくないというか・・・
あれ?何かこれだと私ドMじゃね?
いやいやいや、私Mじゃないし・・・
そんな感じで考えながら歩いてると、目的の留置場に到着しました。
留置場に停車中の列車は、重厚で物々しい外観の戦闘列車達で、その中の数編制の列車は格納されていた大形のミサイルを立ち上がらせ発射準備に入っています。
このミサイルはヘルグランⅤ中距離弾道弾といって、放物線を描き飛翔し弾頭に格納された突入体で攻撃する戦略兵器だ。
その飛翔は、ロケットブースターで加速し高高度を目指す〃ブーストフェーズ〃、高度500km付近で加速が終了し所定の位置で突入体を分離する〃ミッドコースフェーズ〃、突入体が目標まで加速しながら自由落下し命中する〃ターミナルフェーズ〃の3段階で構成される。
そして、ミッドコースフェーズの高度200kmに生身の人間が行くのは自殺行為・・・
ターミナルフェーズの音速の10倍で飛翔する突入体を迎撃するのもPAC-3(MIM-4 Patriotで使用される対弾道ミサイル迎撃システム)でもないかぎり不可能・・・
結果的に勇者達がこの中距離弾道弾を迎撃する事が可能なのは、準備中の時間を除けば、ブーストフェーズの初期段階・・・
勇者が戦列に復帰していれば必ず妨害に現れる。
そして、狙われるのは、発射準備中から発射直後のブーストフェーズ・・・もしミサイルが全て潰される事態になれば、勇者の戦力としての有効性を実証する結果になってしまう。
それだけは絶対に避けなければならない。
なぜなら、ウリエルの勇者計画が本格化すれば、大量の勇者が召還され投入される。
結果、対勇者の戦力である黒剣士が出撃する機会が増えて、可愛い妹が危険に晒される。
それは、姉としては許せない・・・
だからこそ、私はこれから会う人物に話を付け、この第1列車総隊司令直轄部隊が被害を受けない対策をしなければならない。
そして、私は戦闘列車の中でも、一際大型で重武装の列車の足を向ける。
この列車は第1列車総隊の旗列車を勤める重戦闘列車〃グラーフアイン〃で、SKBEに存在する戦闘列車では最高クラスの火力を誇っている。
そして、その列車で第1列車総隊を指揮するのが、〃ワーグ=ラーグ〃元帥、通称〃メタボ元帥〃である。
彼の外見は、太ったヤギというか、モコモコの体毛のせいで羊にみえる。
が、彼は由緒正しき悪魔の血族なのである。
まぁ、悪食の権化ではあるが・・・
とりあえず、お土産の彼のお気に入り、鹿煎餅を持ってきたので、恐らく門前払いは無いだろうが・・・
列車の入口を警備していた兵士に用件を伝えて、ワーグ元帥の元まで案内してもらった。
彼の居る司令室の机には、いつも通り大量の食べ物が並べられている。
彼は悪食の権化と言って良いほど常に何か食べていないと落ち着かないらしい。
ワーグ元帥曰く、マグロが常に泳いでいないと死んでしまうのと同じらしいが・・・その前にメタボリック症候群で死にそうな気がする。
まぁ、それは置いといて、私は列車襲撃事件の資料とお土産の鹿煎餅をお付きの士官に手渡した。
と言うのも、ワーグ元帥は重度の肥満体型で、今座っている自走式のソファーから自力で立ち上がれないのである。
その為、彼はお気に入りの士官をお付きして、身の回りの世話をさせている。
悪食の権化とはいえ、これは酷いと思うが、それ以外は大変優秀な人材なので、総帥も目をつむっているのだろう。
ワーグ元帥
「ぐふぐふ・・・勇者が戦列復帰の可能性があるとな?」
神奈
「はい、邪神様は今回の件で間違いなく勇者・・・〃勇輝〃が出てくると予想しておられます。」
ワーグ元帥
「なるほど、それ故邪神様が黒剣士を従え此方に来られたと・・・モシャモシャ」
私の渡した資料に目を通しながらお土産の鹿煎餅をボリボリ・・・流石に無いわぁ・・・
まぁ、相手が相手だし言わないけどさ・・・
ワーグ元帥
「当方としても、勇者襲撃で損害を出すのは防面白くない・・・できれば水際で防ぎ切って頂きたいな。」
神奈
「では・・・」
ワーグ元帥
「そちらの勇者迎撃を可能な限り支援させて頂く。ヴェネ元帥にも、我から要請しておくが問題ないか?」
神奈
「問題ありません、ご協力感謝致します。」
ワーグ元帥
「礼には及ばんよ、無駄なプライドで総帥よりお預かりしている兵を失う愚行は犯せぬ。それと、邪神様に土産のお礼をお伝え願う。」
神奈
「畏まりました。ではこれにて」
一礼して部屋をでた。
呆気ない位にあっさりと話が通ったので拍子抜けです。性質の悪い嫌味位は覚悟していたのですが・・・ワーグ=ラーグ元帥、悪食以外は本当に優秀な人材のようですね・・・
ただ、面会の時位は食べるの止めようよ・・・すんごく失礼だと思うよ。
まぁ、フリーダムで変人変態の巣窟のSKBE上層部が相手だし、気にしたら負けなんだけどね。
とりあえず、この結果を邪神様に報告しないとね。
私はポケットからスマホを取り出し、報告のメッセージを送信した。
さてと、お腹も空いたし列車に戻りましょうかね。
私は、Snow Expressが停車している駅を目指し足早に歩き始めた。