第52話 North Wide
◇◇◇夢◇◇◇
今、Snow Expressは火災事故を起こした列車の救援に向かっております。
どうやら、冗談で言っていた事が現実に成りました。
火災事故を起こした列車名は〃North Wind〃・・・使用車両はキハ183系のHETタイプ・・・しかも、同区間を運行する高性能車輌キハ2000系を使用する〃South Wind〃に対抗する為にかなり無茶なチューニングを施した代物だとリアンお姉さんが言っておりました。
某緑色の鉄道会社状態です。まぁ、あそこでは列車が燃えるのは数年に一回位で起きる恒例行事だったりしますが・・・まさか異世界でそれをリスペクトされるとは思わなんだ・・・
というか、寒冷地用の列車が何で砂漠走っとるん?
ってツッコミ入れたら、リアンお姉さんが〃極寒の世界のブリザッドが始発だからだ〃って教えてくれました。
SKBEの列車の運用は苛酷なようです。
リアン
「ちなみに、火災の原因は整備不良じゃなくて襲撃だからな・・・」
夢
「燃料配管が外れたとかじゃなくて・・・」
リアン
「おいおい、ウチを北の緑色の会社と一緒にするなよな・・・部品も全部自前で生産できてるし、予算だって有り余ってる会社だからな♪」
要約すると、〃整備不良じゃなくて襲撃受けて燃えたの!緑とは違うのだよ緑とは〃って事みたいです。
ちなみに、襲撃者は十字軍の残党の魔法兵達で、魔女の様な格好をした少女に率いられていたそうな・・・何でしょうこの嫌な予感は?
んで、その襲撃者達は列車の燃料のマナルを奪い列車に火を放って逃走したそうです。
いやいや、これ事故じゃなくて事件だよね?
火災事故じゃなくて列車襲撃事件だよね?
ってリアンお姉さんに聞いてみたら、
リアン
「ま、上の連中の面子の問題じゃね?」
って答えてくれました。
上の人達の都合で事件が事故になるそうです。
大人の世界は複雑で難しいみたいです。
それはそうと、私達は食堂車でスイーツを美味しく頂きながらお茶を楽しんでいる最中だったりします。何か周りの状況とここの状況の温度差に驚くばかりです。
とりあえず、どんな状況でも慌てちゃいけないって事なのでしょうか?
と、緊急事態の割りに呑気な私達なのでした。
◇◇◇美樹◇◇◇
美樹
「これ以上怪我人を出したくないなら動くな!」
数人の乗客に魔法の矢を撃ち込んだら列車の乗務員はおとなしくなった。
殺しちゃいない・・・だけど心は傷む。
無抵抗な人達を傷付け人質にしているのだから・・・もうやっている事がこの前のニュース通りのテロリストだ。
何故、私がこんな事を・・・
大怪我をした勇輝を助ける為・・・
その為には強力な治療魔法が必要で膨大な魔力が必要で人間の持つ魔力じゃ全然足りない・・・
足りない魔力を補えるのがSKBEが燃料として使っているマナル・・・
だから列車を襲い燃料を奪う・・・
解ってる、全ては勇輝を助ける為なんだ!
だけど、心が良心が罪悪感という重圧に軋む・・・
美樹
「エンジンを止めなさい!」
私は、SKBEの制服を着た、水色の髪の少女に手をかざしエンジンを止めるよう脅した。
この少女は人間ではなく機械だ。
ジャミル神父の話では、SKBEの列車はTCAIと呼ばれる全自動のコンピュータで制御されていて、IFDという人形を介して人とのコミュニケーションを取るらしい。
そして、この機械的なヘッドホンの様な耳の少女がIFDなのである。
少女IFD
「・・・・分かりました・・・」
遠隔操作でエンジンを停止させた少女IFDは、悔しそうな表情で私を睨みつけた。
機械人形の癖に・・・人間の真似すんじゃないよ!
バリバリバリ・・・・
少女IFD
「きゃうっ・・・」
無性に腹が立ったので、電撃の魔法を撃ち込んでやったら、痙攣するように一瞬硬直し、煙を上げながら崩れ落ちた。
機械人形の分際で私を非難するような目で睨みやがって・・・私は勇輝を救う為に正しい事をしてるんだ!機械人形ごときが何様のつもり?
怒りが収まらないので、崩れ落ちたさっきの機械人形を思いっきり蹴飛ばしたら少し気が晴れた。
エンジンが止まったのを確認した魔法兵達が、持ってきた革製の水袋にタンクから抜き取った燃料を次々と手際よく入れていく。
どうやら、マナルの強奪はうまくいきそうだ。
数分で、持ってきた水袋は全ていっぱいになったので撤収するが、逃げるときに追跡されるのが嫌なので、さっきの機械人形が居た車輌に火球弾を撃ち込み炎上させてやり、乗客達をパニックにしてやった。
こうすれば、残っている乗務員も追跡どころでは無くなったはずだ。
これを持ち帰れば、勇輝は助かるんだ!
罪悪感はあるが、それを勇輝が助かるという歓びと達成感が塗り潰していく。
そうだ、私は悪くない!勇輝や他の怪我人を助ける為に敵からマナルを奪ってきただけだ!味方のためにしたことで誇れる事なんだ!
残った罪悪感を塗り潰そうと私は自己を正当化する理由を並べながら、拠点への帰途についた。