第45話 敗走
◇◇◇美樹◇◇◇
王宮を脱出した私達は、地下教会地区の人達と合流し、ジマラ山脈と呼ばれる山岳地帯に展開中の十字軍の拠点を目指し移動を開始した。
完全な敗走劇だと思うのだが、何故か皆の表情は明るかった。
美樹
「ジャミル神父・・・」
ジャミル神父
「皆の表情が明るいのが気になりますか?」
美樹
「うん・・・理由が分からない。」
ジャミル神父
「それは、貴女達が勝手にとった行動とはいえ、宮殿を爆破し、SKBEに一矢報いる事ができたからです。それまで私達は、ひたすら息を潜めゲリラ戦法で相手に僅かな被害を与える事しかできませんでした。しかし、貴女達は少数で宮殿に乗り込み、そこを爆破して帰って来た。貴女達勇者は皆の英雄であり希望だと認識された証です。誇りに思って下さい。」
私達は・・・勇者・・・皆の希望・・・
そうだ!この人達がいる限り私達は正義なんだ。
何だか少しだけ迷いが消えた、あくまで私は人間なんだ、だから人間達の為に戦えばいい。
他の種族にどう思われようとも、私達は人間の正義を振りかざせばいい。
他の種族・・・それはRPGで言うところのモンスターでそれは私達人間とは違うんだ。
だから、昨日見た獣人達が逃げ惑う姿に罪悪感を感じる必要は無い、あいつらは人間じゃないし、この人達の敵なんだ。
簡単な事だったんだ、私は敵を倒しただけ何にも悪くない。そう思うと少しだけ気が楽になった。
とりあえず、私の魔法に巻き込んでしまった勇輝の事が心配なので様子を見に行ってみよう。
そう思い、勇輝が寝かされている馬車に向かった。
◇◇◇勇輝◇◇◇
目を覚ますと、馬車の中に寝かされていた。
木製の車輪からくる固い震動が馬車が移動中であることを教えてくれる。
揺れの感じからして、おそらく歩く程度の速さだろう。
とりあえず今までの事を思い出し、状況を整理する。
夢と戦い、聖剣に亀裂が入った後・・・そうだ、何かに吹き飛ばされたんだ。
そういえば、聖剣は・・・枕元に置いてあった。
鞘から刀身を抜きだし、状態を確認・・・おかしい!あの時は刀身に大きな亀裂が何本も走り、いつ折れてもおかしくない状態だったはず。
なのに今は新品同様だ・・・どういう事なんだ?
その時、ガチャリと音を立て、馬車の扉が開かれ1人が乗り込んで来た。
美樹だった。何故か申し訳なさそうな顔をしている。
美樹
「ごめん勇輝、魔法に巻き込んじゃって・・・」
どうやら、昨日僕を吹っ飛ばしたのは美樹の魔法だったらしい。それにしても、いつも強気で怒りっぽかった美樹の様子がおかしい。
何時もよりしおらしく何だか可愛くみえる。
勇輝
「わざとじゃ無いだろうし、気にしなくていい・・・それより、勝てなかった・・・夢に・・・」
せっかく、主が僕に力をくれたのに、それでも勝てなかった・・・ウリエルさんがくれた最強の聖剣が夢の持っていた剣に全く歯が立たなかった。
しかも、夢は衝撃派を放って来ただけで本気を出しているようには見えなかった。
美樹
「何時ものうざい熱血正義感はとこいった?何時も言ってたじゃん、正義は必ず勝つって。」
本当にどうしたんだ?
あんなに僕の正義感をウザがってた美樹が・・・
どうしてそんなことを?
勇輝
「美樹・・・何かあった?今日は何か変だよ?話したくないなら無理には聞かないけど・・・話せるなら聞かせてほしい・・・何があったの?」
美樹
「ゆう・・・き・・・うわぁぁぁん」
優しく問い掛けたら、紗綾が飛び込む様に抱き付き泣き出してしまった。
泣かせる様な事は言ってないはず、どうしてこうなった?
どうしようもないので、美樹が泣き止み落ち着くまで、優しく頭を撫でれば良いのかな・・・こういう経験無いからどうして良いのか分からん。
とりあえず、色々聞くのはその後で良いかな・・・