第39話 僕は勇者だ!
◇◇◇勇輝◇◇◇
美樹達とはぐれてしまった。
引き返すのも無理だ。
この状態で全員が逃げられる手段・・・
そう考えながら、巡回する兵士を避け通路を進んで行くと、近衛兵の様な格好をした兵士2人が守っている立派な扉を発見した。
近衛兵が守っているとなると、国王か少なくとも王族だろう。その時、今の状況を打開できそうな名案が頭に浮かんだ。
普段なら絶対に拒絶反応を起こす卑怯な手段だったが、追い詰められていたせいか、必要悪として受け入れる事ができた。
ここで勇者である僕が死ぬことは許されない。
僕は世界を救う勇者だから、生き残る為には仕方の無い事だ。
自己正当化をするには十分な理由だった。
〃この部屋に居る奴を人質にして脱出する〃
そう決断した僕は、一気に跳躍し近衛兵に近付き、声を出す間も無くその2人の首を跳ねた。
首から上を失った2人の近衛兵は、噴水の様に血を噴き出しながら崩れ落ちた。
やはり僕は勇者だから、この程度の相手になんて負けない、そんな自信が・・・夢に負けて失っていた自信が自分の中に蘇ってきた。
そうだ、僕は勇者なんだ!どんな事があっても必ず生き残らないといけないんだ!
自己正当化という剣が、要らなくなった日本人としての倫理観を切り刻み、そして壊していく。
だがそれは、僕が勇者になるために必用な事なのである。
そして、意を決して、目の前の扉を押し開いた。
部屋は食堂のようで、5人が会食をしていた。
子供の獣人
「الصورة من! أو أن نعرف البعوض شارلمان المملكة الأمير الأول هذا لي!」
(何者だ!この私をカ・シャール王国第1王子と知っての狼藉か!)
5人の中で一番豪華な椅子に座っていた獣人の子供が立ち上がり何か言っている。
状況からしてこいつが王族であろう。
そう思い近づこうとすると、
獣人の女性
「هذا الرجل هو شجاع! الأمير، يهرب!」
(こいつ勇者!リトナ逃げて!)
もう1人の獣人の女性が何かを叫びながら鉤爪で斬りかかってきたので、剣でその一撃を受け止めそして力一杯それを蹴飛ばした。
蹴り飛ばした獣人の女性は、派手に壁に叩き付けられ動かなくなった。
それに数秒遅れて、周りを護衛していた近衛兵が剣で斬りかかってきたが、力任せにまとめて斬り捨て無力化した。
勇者の僕は無敵なんだ!
こんな奴等に負ける筈は無いんだ!
黒い猫耳フードの少女
「リトナ・・・下がって・・・」
深々と猫耳フードを被った少女が獣人の子供を庇うように立ちはだかった。
勇輝
「邪魔するなぁ!」
一気に跳躍し手に持った剣を横に一閃する。
次の瞬間に少女の身体は真っ二つに・・・なる筈だった。
だが、
ガンッ
とてつもなく固く重たい物に、僕の剣が受け止められてしまった。
確認すると、少女の手には、その身長の何倍もある漆黒の巨大な剣が握られ、僕の剣はそれに受け止められていた。
人間の筋力で持てるような代物ではない・・・
それをこの少女は、片手で操り僕の剣を受け止めた事になる。
バケモノだと感じた・・・そしてフードから覗かせる顔を見て背筋が凍り付いた。
その顔は、間違いなくこの前僕達を半殺しにした〃守崎 夢〃だったからだ。
夢
「・・・目障り」
ドカッ
夢の呟く様な声が聞こえた瞬間、腹部に強烈な蹴りを入れられた。
その衝撃は、人間のモノとは思えない・・・トラックにぶつかったのかと思うほどの威力で、身体をくの時にねじ曲げられつつ吹っ飛ばされた。
くそっ、またこれだ!
何でまた夢が・・・バケモノが居るんだよ!
後少しの所で、再び絶望のどん底に叩き落とされた。僕は無敵の勇者なのに何故勝てないんだ!
だが、ふと思った。
そうだこれは、勇者が危機に陥って新たな力に目覚める時なんだ!
ここで新たな力に目覚めて、夢を倒してみんなを助け出して、世界を救うんだ!
勇輝
「僕は勇者だ!絶対に負けないんだ!」
声を張り上げ、勇気を奮い立たせ僕は立ち上がり再び剣を構えた。