第38話 魔法使いのプライド
◇◇◇美樹◇◇◇
美樹
「上まで逃げるわよ!」
真理
「でも・・・」
美樹
「いいから!もたもたしないで!」
催涙ガスから逃れるため、真理の手を引っ張り私は上の部屋に逃げ込むため階段をかけ上がる。
催涙弾なんてテレビのニュースとかで出てくるだけの存在立だったのに、なんで実際に撃ち込まれなきゃいけないのよ!
それに、私達は元々中学生なのよ!それなのに容赦なく機関銃撃ちまくって来るし、何て野蛮な人達なのもう!
銃弾を魔法の障壁で防ぐのが忙しくて、打ち返せないし!
ああもう!ストレスが溜まるわね!
部屋に逃げ込み扉に鍵を掛けた。
だが、そのままでは直ぐに扉が壊されてしまう・・・
そこで、
美樹
「真理!魔法で扉を強化して!」
真理
「え?えっと・・・」
美樹
「もたもたしないで、魔法で扉を強化して壊されないようにして!」
真理
「は・・・はい!」
ようやく私の言っている意味を理解した真理が、魔法で扉の強化を始めた。
全く、ノロマな真理には本当にイライラする。
私は、真理の扉強化が完了するのを確認して、飛行魔法の準備を始めた。
先ずは頭の中に正確に術式をイメージする。
この術式イメージの構築が非常に厄介で、強力な魔法ほど複雑な術式をイメージする必要があり時間が掛かるしより多くの集中力が必要となる。
加えて、一度集中を乱されればもう一度初めからやり直しとなる。つまり無防備の状態になってしまうのである。
頭の中にイメージを完成させた私は、それを魔力を使い自分の周囲に展開し安定させた。
この段階まで来てしまえば、集中する必要は無く、展開した術式を起動させるだけである。
起動させる方法は、術者の魔力により異なり、魔力の低い術者は、長ったらしい呪文を詠唱して発動させねばならないが、魔力の高い術者の場合、詠唱の代替となる膨大な魔力を展開した術式に流すことで術式を起動させる事ができる。
当然私は、後者の方法で展開した術式を起動させた。
術式を起動させた事により、私の身体がふわりと浮かび上がった。
ドゴォォォン
真理
「きゃぁぁぁぁ!」
その時、真理が魔法で強化していた扉が壊されて吹き飛んだ。真理はその衝撃波に撥ね飛ばされ気絶してしまった。
全く、使えない子ね、まぁ、飛行魔法を発動させる時間が稼げたしそれで十分かしらね。
????
「あらあら、ちょっと強く叩きすぎちゃったかしら?」
眼鏡に三つ編みの優等生っぽい女が吹き飛んだ扉が在った場所から現れた。
こいつ何処かで・・・
神奈
「夢の姉の〃守崎 神奈〃と申します。」
女は、一礼をするとベルセルクに出てくる様なアレと同じサイズの巨大な剣を構えた・・・人間の筋力では不可能な芸当だ・・・
それに、相手はどうやら夢の姉らしい・・・そう考えるとこの前の夢と同等かそれ以上の強さと考えなければならない。
神奈
「紗綾ちゃんから大体の事情は聞きました。可愛い妹が大変お世話になったみたいでお礼に参りました。みーきーちゃん♪」
背筋に悪寒が走る・・・笑顔で言っているけど言葉通りの意味じゃない事は直ぐに分かる。
最悪だ・・・よりにもよって夢の姉が出てくるなんて
神奈
「あら?美樹ちゃんは魔法使いなのね♪じゃあお姉さんも魔法で戦ってあげましょう。」
神奈の言葉に私は少しイラっとした。
舐めてるのかこの女は・・・
見るからに剣士の筈なのに、魔法で戦う?
魔法専門のこの私と・・・
美樹
「ふざけないで!」
簡単な術式で放てる〃魔力の矢〃を撃ち込んだが、神奈は難なくそれを魔法の障壁で防いだ。
その動きはまるで魔法使いで、私の神経を逆なでする。
魔法使いへの冒涜だと感じた。
しかし・・・
神奈
「じゃあまずは、その飛行魔法ね♪えい♪」
神奈は詠唱も術式展開も無しに、ふわりと身体を浮かび上がらせた。
私は唖然とした・・・相手は剣士、魔法は専門外の筈なのに私が苦労して発動させた飛行魔法を掛け声ひとつで発動させたのである。
それは、相手との圧倒的な力の差を示している。
逃げなきゃ・・・このままじゃ殺される!
咄嗟にそう思った瞬間に、私は真理を見棄てて窓の外に飛翔した。
相手の能力が上でも、私が全速力で逃げれば振り切れる!
そう思い全速力で飛行して逃走を図ったが、次の瞬間に絶望した。
私の進行方向の先に神奈が笑顔で待ち構えていたのだ。
慌てて急制動した私に神奈はこう言った。
神奈
「えーと、確か昔の漫画にこんなシーンありましたよね♪そのときの台詞は、〃これはこれはおひさしぶり〃だったかしら?」
先回りされた?
私の全速力だったのにそれ以上の速度で先回りされた?
神奈
「この後は確か・・・」
神奈が指先を私に向けようと動きだした・・・
危険を感じた私は、素早く〃火弾〃の魔法を連射してそれを阻止しようとしたが、魔法の障壁にすべて阻まれてしまった。
そして、
神奈
「ひゃぁ!」
ピシュッ
神奈の指先から何かが打ち出され、それが私の頬にかすったので確認してみると・・・
美樹
「うぁぁぁぁぁ!」
頬にザックリと切り傷ができ、血が確認した手にベットリとついていた。
慌てて、頬を押さえて、苦手な回復魔法で傷口を塞ぐ。
神奈
「もー、乗り悪いなぁ・・・そこは〃は・・・はやい〃でしょ!」
完全にふざけている・・・なのに押されてる・・・というより、相手が遊んでいるだけに思える。
本当にムカつく・・・こっちは死に物狂いなのにヘラヘラした態度でからかいやがって・・・
まるで昔の夢のようだ・・・こっちは一生懸命頑張ってるのに、いつもヘラヘラした態度で簡単に私を追い抜いてく・・・大した努力もしてないのに・・・妹が妹なら姉も姉ね・・・人をバカにしてるとしか思えないんだよ!
隙だらけになるのを覚悟で、私の使える最大最強の攻撃魔法の準備を始めた。
攻撃されたらひとたまりもないが、絶対にそれはない。
何故なら、あの女は私をナメ切っているから・・・
神奈
「へぇー、頑張るわね。待っててあげるから撃ってきなさいな♪」
狙い通りだ、あの女は私の攻撃魔法の発動を待つ選択をした。だがそれは、完全に私がナメられてる事に他ならない。
今に見てなさいよ!そのヘラヘラした顔を泣き顔にしてやるから!
私は、怒りを込めて、魔法の術式をイメージする事に集中する。