第35話 紗綾と神奈
◇◇◇紗綾◇◇◇
夢
「お前が、私を殺した・・・」
紗綾
「そんなつもりじゃなかったの!」
夢
「お前が殺した・・・」
紗綾
「お願い!話を聞いて!!私は夢を殺す気なんてなかったの!!」
夢
「許さない・・・」
紗綾
「御免なさい・・・あんな事になるって思ってなかったの!」
夢
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」
紗綾
「もう止めてよ・・・許して・・・夢・・・」
目覚めると医務室の様な部屋のベットに寝かされていた。
粗末なベットだけど、地下教会の固いベットに比べればはるにマシだと思う。
身体中が汗でびっしょりになっている。
きっとさっきの悪夢のせいだ・・・夢を殺したのは私なのかな・・・あいつの憎悪の満ちた眼がとても恐かったのをハッキリ覚えている。
夢は私を恨んでる・・・どうしたら許して貰えるの?
とにかく、次に会った時に謝らないと・・・でも、許さないって言ってた・・・恐い・・・夢の憎悪が恐い・・・
その時、ガチャリと扉が開いたので、入ってきた人を確認した結果、私は固まった。
入って来たのは、夢の姉、守崎 神奈だったからだ。
というのも、2年くらい前に突然行方不明となり、警察が何ヵ月も捜索したが、結局見付からず仕舞いだった行方不明者が目の前に居るのだから・・・
神奈
「はじめまして、夢の姉の〃守崎 神奈〃と言います。」
紗綾
「〃秋月 紗綾〃です。」
なんだかおっとりした感じの優しい人みたい。
・・・と第一印象に騙され油断してたら・・・・
神奈
「妹の夢がお世話になりました♪もう自殺しちゃうくらいにね♪」
紗綾
「ひっ・・・」
全身に鳥肌が立ち、血の気が引いていくのが分かりました。
神奈さんの顔は優しい笑顔のままですが、それが更に恐怖を増長しているようで、私は目を見開いたまま固まるしかできませんでした。
恐怖で身体の震えが止まらず、呼吸すら上手くできていないみたいです。
神奈
「ね♪さーやーちゃん♪」
紗綾
「ひぅっ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ひぐっ・・・ごめん・・・なさい・・・」
耳元で囁かれ、ハッとして訳も分からず土下座して必死に〃ごめんなさい〃と言い続けました。
何故か涙がいっぱい出てきてそのままうずくまって泣いていました。どうしてそうなったのか良く分からないけど、もう自分でも何が何だか分からないくらいに心の中がぐちゃぐちゃです。
神奈
「なーんてね♪びっくりした?」
神奈さんが泣き崩れてた私の頭を撫でてくれました。
てっきり、夢の時みたいに殴られたり蹴られたりするかと思っていたので予想外の展開で理解が追い付かない状態です。
神奈
「見た感じだと、夢に散々仕返しされたんでしょ?あの子、最近は容赦ないから・・・」
紗綾
「でも、許さないって・・・」
神奈
「そっか・・・ちなみに私も夢に死んで詫びろって言われてるのよね♪まぁ、私が失踪した後にあの子に散々迷惑かかっちゃったみたいだし、言われても仕方ないかな。」
何だか、神奈さんの言葉で少し気が楽になった気がする。
でも、神奈さんが死んで詫びろって言われてるなんてちょっと意外だと思う。
だって凄く優しいお姉さんみたいなのに・・・
神奈
「さてと、ここからはちょっと真面目なお話し。紗綾ちゃんがこのまま勇者として夢と戦うなら、その時は私も敵になるって思ってね。あと、今後夢を傷付けたら絶対に許さない。OK?」
私は答えられない。
夢の憎悪に満ちた眼がとても恐い・・・戦いたくない。
優しい神奈さんを敵にしたくない・・・戦いたくない。
でも、勇輝達が助けにきたら?
一緒に行こうって言われたら?
勇輝達にも嫌われたくない・・・
でも勇者として戦えば夢達と・・・
どうしたら良いの?
私はどうしたら・・・
神奈
「ま、すぐに勇者辞めろなんて言わないし強制もしないわ。辞めたくなったら何時でもこっちにいらっしゃい♪但し、夢を傷付ける前までにね。」
紗綾
「はい・・・」
とりあえず、猶予期間があるみたいで少し安心した。
何だか、十字教会よりこっちの方が良い感じだと思う・・・ウリエルさんは、危険な組織だって言ってたけど、捕まったのにそれほど悪い・・・いえ、地下教会と比べると遥かに良い待遇だと思う。
ウリエルさんの話を全部鵜呑みにして良いのか少し疑問に思い始めているのかもしれない。
勇輝達と合流できたら、それも含めて話し合ってみよう。
神奈
「それはそうと、あなた最近お風呂入ってる?ちょっと酷い臭いよ・・・」
紗綾
「・・・あ・・・その」
言われるまで気付かなかった。
・・・というか、お風呂に余り入らない生活に馴れてしまっていたため、全く気にしていなかった。
更に自分の匂いって自分じゃ気付かないっていうし・・・そんなに臭ってたのかな?
急に恥ずかしくなり、顔が熱くなっていくのが解った。
多分いま私の顔は真っ赤になっていると思う。
神奈
「とりあえず、浴場に案内するからお風呂に入ってサッパリしましょう。」
私は、真っ赤な顔のまま頷き、神奈さんの後に付いていく。
顔から火が出そう・・・