第29話 天国と地獄
◇◇◇紗綾◇◇◇
みすぼらしいフード付きのマントを着る事を条件に、地下教会地区から出ることを許可された。
正直、あそこの生活は最悪だった。
衛生状態は最悪で、地面には汚泥が蓄積し酷い悪臭を放っていて、居るだけで気分が悪くなる。
外の街の新鮮な空気を吸えて本当に良かったと思う。その点では勇輝に感謝している。
さっきは感情に任せて積もりに積もった不満をぶつけてしまった・・・私達の為にあんなに頑張ってくれたのに・・・後で勇輝に謝らないと・・・
今は自由行動で、日が暮れる頃に広場に集まれば良いと勇輝は言っていた。本当は勇輝と行動したかったが、さっきの件があるので気まずい。
仕方ないので私は、独りSKBEのターミナル駅前に広がる市場を見て回っている。
品物が溢れ、活気のある場所だが、私にはそれを買う事ができない。
何故なら、私はこの世界で使えるお金を持っていないからである。というのも、私達勇者は十字教会の支援を受ける事を前提に行動しているので、十字教会の勢力圏で行動していた時には困る事はなかった・・・
だから今まで大して気にならなかった、だが今はSKBEの勢力圏内だ・・・十字教会の支援はほとんど期待できない・・・目の前にある物を見るだけで買うことができないこの情況は、非常に惨めだと思う。
ただ、周りの人が獣人だというのが救いだった。
〃ここは私達人間の世界じゃない〃
と自分に言い聞かせ、惨めさを誤魔化す事ができるから・・・
そう思っていると、絶対に見たくない顔を見つけてしまった。
〃守崎 夢〃黒龍で私達全員を殺そうとした元同級生だ。
何故か私達全員を敵視しているみたいだが、私自身思い当たる節はない。
強いて言うなら毎回私より成績が良かったことに腹を立てた私が、感情に任せて八つ当たりした程度で、正直その程度の事で根に持たれる事は無いと思う。むしろ、あいつを嬉々として虐めていた美樹の方が恨まれているはずだ。
それなのに、あいつは私も殺そうとした・・・
勇輝の言っていた様に、洗脳されているのだろうか?
どちらにしても、私はあいつとは関わりたくたく無い。また半殺しの目に遭うのは御免である。
そう思い、私はあいつに見つかる前にその場を離れようとしたとき、私の頭の中で悪魔がささやいた。
〃あいつが何処にいるか判れば、勇輝と仲直りするきっかけにできるかも・・・〃
そう思ったとき、私は夢という〃化物〃の危険を忘れ、それを尾行していた・・・
◇◇◇夢◇◇◇
さっきから、妙に視線を感じますが、この人混みの中で視線の主を見つけるのは困難です。
さてどうしましょう・・・と考えながら、手に持っていた串焼きをはむはむ・・・とっても美味しいです。
何でしょう?視線に僅かな殺気を感じるようなきがします。
気にせず、はむはむ・・・どうやら、私がはむはむする度に、視線にこもる殺気が強くなっていくようです。お腹空いてるのかな?
ラズロット
「どしたですか?」
私の様子に気付いて、ラズが話しかけて来ました。
どうやら、今は私の思考を読んでいないようです。
・・・と、言う事は、声に出して伝えなければいけません・・・とっても面倒です。
後、リズは愚姉と一緒に別行動中です。
とりあえず、面倒ですが、視線の件を伝えときましょう。
夢
「視線・・・感じる」
ラズロット
「ほうほう、気付いてたですか・・・流石なのです♪」
ラズも気付いてたんだね。
まぁ、お子様にしか見えないけど、一応邪神様だしね。
ラズロット
「失礼なのです!」
思考を読み始めたようです。
何故か悪口系の思考はバレてる気がします。
もしかして〃地獄耳〃補正付きなのかも・・・
ラズロット
「地獄耳は置いといて、これを見るのです。」
ラズは、小さな手鏡を取り出した。
言われるままそれを覗き込むと、人混みに紛れ私達を尾行する紗綾の姿が映っていました。
・・・にしても、何なんで〃乞食〃みたいな格好をしているのでしょうか?
謎が深まります。
・・・とはいえ・・・
ラズロット
「ほっとくの後々面倒そうなのです。」
ラズは私と同じ考えの様です。
とりあえず、取っ捕まえて情報を聞き出しましょうかね・・・
ラズロット
「なのです♪王宮に行く前に良いお土産ができたのです♪」
ああ、成る程ね、王宮に連れてけば後は丸投げできるしね♪ラズ賢いね。
でもさ、どうやって捕まえるの?
ラズロット
「ラズに任せるのです♪」
ラズは、そう言ってスマホを取り出し、あちこちに電話して捕獲の準備を始めました。
うわぁ・・・めっちゃ楽しそうなイタズラっ子の顔してるよこの子・・・
まぁ、私も人の事言えないけどね。
何だかワクワクしてきたかも♪