第2話 何処までも行ける切符
真っ暗な森の中を聞こえて来るエンジン音を頼りにしばらく歩くと、木造の駅舎が見えてきた。
駅舎の奥にあるホームにはアイボリー色の車体に黄色いラインを纏い、窓回りがブラウンの7輌編成の列車が停車していた。
その列車にはパンタグラフは無く、代わりにディーゼルエンジンのアイドリング音を響かせていた。
いわゆる気動車と言われる列車で、この列車のエンジン音を頼りに私は暗闇の中をここまで歩いてきたようだ・・・
列車と駅舎からは、優しい光りが漏れていて、光りが恋しかった私は、それに誘われるかのように、歩く足を速めた。
駅舎にたどり着いた私は、駅舎の電球の優しい光りを浴び安心した。
そして、駅舎の中を見回してみる。
国鉄次代を思わせる木造の駅舎だが、貼られているポスターや案内には見たことの無い文字が並んでいる。
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「คุณเป็นหนึ่งคนที่คุณที่คุณได้เดินที่นี่?」
不意に後ろから声をかけられ、慌て振り返った。
そこには、色白で白髪のまるで人形のように可愛らしい男の子が立っていた。
よくみると、耳の部分にはアンテナの突き出したヘッドホンの様な物が付いているし、瞳はうっすら青い光りを放っていて、間違いなくこの子が人間ではない人工物である事を主張している。
男の子
「أنت واحد، الشخص الذي كنت قد تجولت هنا؟」
男の子が、優しい口調でまた何か話しかけてきた。
別の言語の様だが、その言語も私は理解できない。
男の子の服装をみると、赤を基調とした列車の乗務員を思わせる制服とロングコートそれに合わせた色の昔の軍帽を思わせる帽子である。
もしかしたら、この列車の乗務員?な訳ないよね・・・私よりちっこい子供だし。
とりあえず、言葉が理解できないという意識を込めて私は首をかしげてみた。
男の子
「あ・・・もしかすると・・・えっと、お姉さんはここについさっき迷い混んだ方ですよね?」
男の子は、私の意思表示に気が付き、更に別の言語で話しかけてきた。
それでは紛れのない日本語である。
どうやら、私が今さっきここに迷い混んだ者かを確認しているようだ。
その通りなのでとりあえず頷いておく。
男の子
「それでは、恐縮ですが、パスの提示をお願い致します。おそらくポケットの中だと思いますが・・・」
パス?何の事かは分からないが、とりあえずポケットの中を確認してみる。
すると、トレーナーのポケットに見覚えの無いSuica位の大きさのカードが入っていた。
カードには〃守崎 夢〃という私の名前と〃有効区間及び期限 無制限〃という文字が刻印されていた。
とりあえず男の子にそれを渡してみた。
男の子
「これは珍しい、このパスは何処までも行く事ができる特別なパスです。」
・・・銀河鉄道の夜ですかね?まぁいいや・・・
男の子は、驚きながらパスを確認して、それを再び私に返しこう言った。
男の子
「改めて、僕は〃Snow Express〃TCAI(Train Control Artificial Intelligence)のIFD(Inter face doll)のスノウ=オプテラと申します。よろしくお願いいたします゛守崎 夢゛様。」
TCAI?IFD?そもそも何故私の名前を知っている?
?マークだらけの私の表情を読み取ったのか、スノウと名乗った男の子は更に説明を加えた。
スノウ
「簡単に説明すると、あの列車を自動制御しているシステムがTCAIといって僕の本体です。この身体はお客様や乗務員等々の情報入力の窓口となるインターフェースとなっており、IFDと呼ばれます。その他、お客様の情報はパスに記録されているものを参照させて頂きました。」
要は、スノウは列車に組み込まれたシステムが本体で、目の前の身体(ロボット?)を遠隔操作してコミュニケーションを取っているらしい。
何だろう、とんでもない事を普通に言われた気がするが、多分こういう場合は気にしたらダメなのだろう。
スノウ
「間もなく発車致します、御乗車お急ぎを。」
スノウはそう言うと、私の手を引き列車内に案内する。私もそれに従い乗車する・・・が、変だ何時もなら人と話すだけでも恐怖を感じるのに、何故かスノウにはそれを感じない。
それはさておき、私が乗り込んだのを合図に扉が閉まり、列車はカミンズエンジン特有の甲高い過給機音混じりのエンジン音を響かせてゆっくりと動き出した。