第19話 勇者再生
夢にぬっ殺されかけた勇者達のその後です。
大天使ウリエル
「この世界は今、魔王軍が姿を変えたSKBEに侵略されているのです!」
大天使ウリエルは、召還した勇輝以下4名の勇者達のへし折られた心を蘇らせるため、この世界〃ヴィーケ〃の現状(十字教会主観)を詳しく説明していた。
SKBEがこの世界にとってどれだけ危険な存在か。
そして、このままではエアール(勇輝達の住んでいた世界)も完全に侵略されてしまいかねないこと。
それを食い止めるためには、勇者達の協力が必要なこと。
まぁ、ぶっちゃけてしまえばカルト教団が信者に終末思想を植え付け洗脳して狙い通りの行動をさせる、お得意のアレである。
補足をすれば、かつて強大な力を持つ魔王〃バフメド=ラッテ〃が率いたのが魔王軍である。
その魔王軍は強大な力を背景に〃ヴィーケ〃の世界各地を次々と侵略していた。
その状況を危惧した大天使ミカエル達7大天使は、エアールから勇者達を召還し武器を与え〃バフメド=ラッテ〃を倒させた。
その際に、統率を失った魔王軍は崩壊している。
その後、世界は十字教会による人間中心の世界となり、それ以外の種にとての暗黒時代となり、SKBEが台頭するまでそれが続いた。
ちなみに、SKBEの総帥は魔王バフメド=ラッテと人間の女性の間に産まれた〃フラウ=ラッテ〃が務めている。
これを切り取って、ウリエルは魔王軍が姿を変えたと言っているのであるが、実際には全く異なる性質の組織である。
その証拠に、SKBEの主目的は多種多様な種族の共存と共栄である。
しかし、ウリエルは重要なそれを一切伝えず、SKBEが行った攻撃等を侵略として伝える事により、SKBEが非常に危険な存在であることを勇者達に認識させようとしているのである。
真理
「それって、夢さんも知ってるんだよね?」
ウリエル
「それは解りません。」
紗綾
「攻撃に迷いが無かったし、洗脳されてるんじゃ?」
勇輝
「十分に考えられるな。それなら説得して洗脳を解けば・・・」
紗綾
「できると思う?あんなバケモノの相手なんて二度とゴメンだわ。」
美樹
「そうよ!私達は選ばれた勇者で、無敵じゃなかったの?何で夢なんかにボコボコにされなきゃいけないのよ!!」
真理
「ウリエルさん、夢さんは何故あんなに強い力を手に入れることが出来たのですしょうか?」
これは不味いとウリエルは思った。
何とかもう一度戦うように仕向けたかったが、〃守崎 夢〃に成す術無く敗北したことがトラウマとなりそれを拒んでいるようだ。
元々勇者達は、強い力を得る為の大きな器を持っている。
故に器に見合った武器を与えられれば、圧倒的な強さで敵を倒し勝ち続ける。逆に言えば負ける経験ができないのである。
そして、初めての敗北があの惨劇である・・・トラウマにならない方がおかしい。
だが、戦って貰わなければ・・・
ウリエル
「〃守崎 夢〃さんは、皆さんとは異なりSKBEを守護する双子の邪神に召還された闇の勇者です。残念ながら、今の皆さんを凌駕する力が与えられているようです。」
4人の顔が強張った、それを確認したウリエルは一呼吸おいて・・・
ウリエル
「しかし、心配ありません、皆さんはこれから各世界を解放する戦いをするのです。その戦いを通し皆さんは成長するはずです。そうすれば、皆さんは〃守崎 夢〃さんをも倒せるようになるはずです。」
と言った。
これは嘘ではない、勇者の持つ器は成長し大きくなる。そうすれば、桁違いな器を持つ〃守崎 夢〃に四人掛かりでなら勝てるかもしれないからである。
・・・まぁ、駄目なら次の勇者達を召すれば済むことだ。また一から育てる面倒はあるだろうが・・・
紗綾
「ふざけないでよ!死にかけたのよ私達!それなのにまたあのバケモノと戦えってどうかしてるわ!」
美樹
「そうよ!無敵ならまだしも命懸けなんて御免よ!」
真理
「お願いします!私達を元の世界に!」
ウリエルは思った・・・コイツら本気で言ってるのかと。
最初に力を与えた時は、意気揚々として勇者となる事を引き受けた筈だ、だがそれは自らが傷付かないという保証があっての事だと言うことなのか?
〃これは、処分して次を探すべきか?〃
ウリエルがそう考え始めた時
勇輝
「駄目だよみんな!僕達が戦ってSKBEを倒さないと僕達の世界も侵略されちゃうんだよ!そうでしょウリエルさん!」
おや?これはこれは・・・ゴミに埋もれた宝石を見逃す所でしたね。
そうこれです、我々の言うことを盲目的に信じる純粋な心・・・勇者に必要な物はこれなのです。
ウリエルはそう思い、深くうなづいた。
勇輝
「だから・・・頑張ろうみんな!」
勇輝の眩しい笑顔と共に差し出される手・・・
紗綾
「馬鹿じゃないの!・・・ま、まぁ一応ほっとけないから行ってあげるけど・・・勘違いしないでよ!好きとかそんなんじゃ無いんだからね!」
真っ赤な顔で、その手を取る紗綾。
それは、幼馴染みに寄せる淡い恋心ゆえの行動だった。ただ、照れ隠しで仕方なく行く体をとっているが・・・バレバレである。
真理
「怖いけど・・・勇輝君となら・・・」
頬を紅くして、真理もその手を取る。
何だかんだで、勇輝の事が好きで放っておけないようである。
美樹
「ちょ、紗綾!真理!解ってるの?死ぬかもしれないのよ!忘れたの?」
真理
「大丈夫!勇輝君が守ってくれるから!」
紗綾
「あ!それ私のセリフ!」
美樹は、動揺しながら死ぬ危険を説くが、二人の中では勇輝が守ってくれる事になっているようで聞く耳を持たない。
勇輝
「美樹も行こう!一人でも欠けちゃ駄目なんだ!」
更に勇輝が無意識に美樹の外堀を埋める。
もう完全に行かなきゃ駄目な空気になってしまった。
そして、美樹も渋々勇輝の手をとった。
いわゆる、日本人特有のみんなやってるんだしってやつです。
これを見ていたウリエルは、勇輝に感心した。
あれだけ打ちのめされ、後ろ向きだった空気を再び前向きなものに建て直した。
やはり、勇輝はウリエルの求める理想の勇者そのものだったようだ。
これで彼の懸案事項が1つ解決し、次の手を打てる。
ウリエル
「それでは、皆さん達を砂漠の世界〃シャール〃の〃ターラン〃という街に送ります。そこで地下教会のジャミル神父に会いなさい。」
勇者
「分かった、行くぞみんな!」
紗綾、真理
「おー!」
美樹
「・・・」
勇者達の身体が、ウリエルの生み出した光の中に消え、その場に静寂がおとずれた。
そして、ウリエルは大きくため息つくのであった。
〝とりあえず、面倒事が片付いた〝・・・と