第15話 憎悪
狭い入り組んだ建物の中を下へ下へと駆け抜ける。
エレベーターなんて便利な物は無く、全ては狭い急な階段だ。
だけど、疲労は感じない。
理由は、私の右手に握られた漆黒の刀身をもつグラディウスサイズの短剣である。
魔剣ゾディークV3・・・事前のスノウ君の説明では、刀身はウランとオリハルコンを使って作られるウラルコン合金で作られていて非常に重い、かつ表面を強化ミスリル合金の層でコーティングされているため非常に硬く頑丈である。
そして、その重量と強度を生かし短剣でありながら、大型の武器並の破壊力を発揮するというのが第1形態のスタイルらしい。
ウランが使用されてる非常に危険な一品なのですが、破壊されない限り、被爆する事は無いのと、惑星同士の衝突に巻き込まれても壊れない強度を持っているので、まず心配する必要性は無いとの事・・・
まぁ、その前に生きて無いだろうしね。
そして、この尋常じゃない重量物を本来の私が振り回すのは、物理的に不可能なんですが、そこは魔剣ならではの邪神様特製の特別な術式で物理法則の影響を受ける事無く振り回す事が可能なんだとか・・・
確かに、持った感じは玩具みたいに軽く感じる。
後は、肉体強化や魔力強化やら、物理障壁や魔力障壁やらが自動的にかかり無敵チート状態になるそうな・・・
という訳で、無敵チート状態な私が、こんな階段程度で息切れなんてしないって事です。
・・・良いのかな・・・絶対にズルっ子だよね。
後は、魔剣に組み込まれた術式回路を使って、特別な知識が無い私でも魔法使いたい放題・・・
苦労して魔法を学んでいる魔法使いの方々に謝りたい気持ちでいっぱいです。
まぁ、そんな訳なので、死ぬ事は無いので安心して暴れろってリアンお姉さんが・・・
何だろう、考えるのが馬鹿らしくなってきた。
そんな事を考えたら、地下の操車場に到着しました。上にある違法建築の要塞を支える為に無駄に頑丈な構造になっていて、ぶっとい支柱がこれでもかって感じで並んでいて、その間を縫うように線路が走っています。
また、高さも十分にとっていて、ダブルスタック(アメリカで使用されている二段積みの大型貨車)が入れる様になっていますが・・・機関車にM62(旧ソビエト連邦制の機関車で、公害レベルの煤煙と騒音を撒き散らす迷惑機関車、ちなみに北朝鮮では今でも主力機関車らしい)を使っているので、とっても煙いです。
そして、この立ち込める煤煙の視界不良と立ち並んだ支柱の見晴らしの悪さのせいで敵を探すのも困難な状況です。
リアン
「とりあえず別れて探すのは得策じゃないな・・・」
伽藍
「敵もおんなじだろうしな・・・」
纏まって行動する作戦みたいです。
私もそれに賛成です。敵の力が判らない以上、各個撃破の危険は冒せません。
チート状態でも油断禁物です。後・・・独りだと恐いから・・・
リアン
「上だ夢!」
リアンお姉さんの声に反応して上を見ると、誰かが剣で私に斬りかかろうとしてました。
咄嗟に、ゾディークV3で弾き返しました。
??
「くっ・・・何て重さだ!」
剣を弾かれ吹っ飛ぶ際にその人が漏らした声・・・何か聞き覚えがある・・・
しかも、嫌な思い出とセットで・・・
夢
「須藤 勇輝・・・」
勇輝
「なっ!何故俺の名を?」
着地したそれは、慌てて顔を上げた。
思った通りだ、いかにもな勇者ファッションに身を包んでいるが、あの忌々しクラスメイトの一人〃須藤 勇輝〃に間違いない。
正直言って、私はコイツが嫌いだ。
あの時も、虐めを受ける私を助けようと正義面して関わってきた。
その結果、虐めは見えない所で悪化していった。
当然彼を避けるようになった私にコイツは〃君にも問題があるんじゃない?〃と言いやがった。
お前が引っ掻き回して悪化させたんだろと言いたかったが、この天然正義感野郎に言ったって無駄だろうし、結局泣き寝入りするしかなかった・・・
そうだ、調度良く手元にあるコレ(ゾディークV3)
でぶち殺しても問題無いよね・・・
夢
「死ね・・・クソ野郎♪」
おもいっきり跳躍して、勇輝に斬りかかった・・・多分これ以上無いくらいの素敵な笑顔だったと思う。
あは♪勇輝の野郎の顔が恐怖でひきつってるよ♪
そーれ、このまま死んじゃって♪主に私の為に!
脳天から真っ二つにするつもりで力一杯、ゾディークV3を降り下ろした。
ガキィィィン
金属音と共に、何かに引っ掛かった。
何が起きたのかを確認すると、別の一人が割り込み、槍の枝で私の重い一撃を受け止めていました。・・・が、槍の枝にヒビが入り、次同じ事をやったら見事に真っ二つになるのは確実ですね。
そして、その槍を支えながら苦悶の表情を浮かべるコイツも見覚えがある。
同じく忌々しいクラスメイトの一人〃秋月 紗綾〃である。
コイツは、自分が一番でないと気が済まない性格で、私に成績で負けた事が気に入らなかったらしく、事ある度に私に突っ掛かってきていた。
仕舞いには、〃地味な癖に成績が良いのがムカつく〃とか陰口言いまくりやがった。
それが原因で、虐めが始まったのは言うまでもない。
紗綾
「どういうつもり夢!いきなり斬りかかるなんて!」
自覚無いんだね。
君が作ったきっかけが原因で私が地獄を見た事に。
何かそのいかにも私は正義の味方ですって顔がムカつくよね。
お前が正義だったら、そのせいで地獄を見た私は何なのさ!
更に力を込めてゾディークV3を降り下ろした。
キンッ
渇いた金属音と共に僅かな引っ掛かりを感じたが、ゾディークV3の刀身は地面にめり込んでいる。
・・・という事は
パラッ
ブシュゥゥゥ
槍が真っ二つになり右腕が肩から切り落とされ血が吹き出した。
紗綾は、一瞬何が起きたか解らないキョトンとした表情をしたが、無くなった腕に気付くとこれ以上無いくらいの良い悲鳴を上げ、転げ回ってくれました。
良いね♪良いよそのリアクション最高だよ♪
その最高のリアクションに免じて今までの事は忘れてあげるよ。
あ・・・でもその出血量じゃ助からないし、意味無かったね。
取り合えず、後はこのクソ野郎だけかな・・・どうしてくれよう・・・
そう考えながらゾディークV3を地面から引っこ抜く。
なんか凄いね、コンクリートの地面なのにプリンみたいに刺さっちゃったよ。
勇輝
「ひ・・・あ・・・たすけ・・・」
その光景を見た勇輝が、腰を抜かしたまま後ずさる。
中々面白い絵になってるんじゃないかな♪カメラさんが居ないのが非常に残念でなりません。
夢
「脚・・・手・・・真っ二つ・・・好きなの選んで・・・」
勇輝
「い・・・イヤだ!たすけて!たすけて!!」
立ち上がれず、喚きながら手足をバタつかせる勇輝・・・これは最高傑作だと思う。
これは積年の恨みも晴れるかも知れないね♪
でも、そろそろ飽きて・・・
パンパンパン
リアン
「夢!終わったんならこっちを手伝ってくれ!」
伽藍
「魔法使いの二人組だ!」
リアンお姉さんと伽藍おじさんが交戦中みたい・・・命拾いしたね勇輝君♪
・・・ただ、次私の視界に入ったら命の保証はできないけどね♪
そう思いながら私は、銃声のする方に走りだした。