~彼と愉快なお隣さん、翌日?~
シロエのパソコンのキーボードが御臨終になった翌日、これ以上被害が出ないように子猫を胸に抱いてその日を過ごしていたが、ついに····チャットインカムから聞こえていた不穏な出来事が現実に発生した。昨日のようにけたたましくなるインターホンの音にビクリと肩を震わせつつ、玄関へ赴き扉を開けると·····、挨拶も適当に彼女達が飛び込んで来たのである。
「おはよ~シロ君、子猫はどこかな~♪」
「へぇ、以外と綺麗にしてるじゃないですか」
「スマンな、お邪魔するぞ。ああ、コレは差し入れだ」
「取り敢えずシロエの部屋を漁ろっかな~♪」
口々に挨拶を交わし、シロエの許可も取らずに上がり込む面々、カズ彦は年長者の礼儀として近くのコンビニで色々買ってきてくれたようだ。シロエはコーヒーでも振る舞おうと台所で作業をし初めた所で1人足りない事に気付いた。
「あれ、直継は?」
「忘れ物したとかで遅くなるってよ」
「ふ~ん」
シロエを手伝うカズ彦に教えられ、直継もじきにくるだろうと人数に数えて用意を始めたシロエのもとにドタバタとカナミがやって来る。
「シロ君、子猫どこ~?」
「いや、皆が来たときからココに居るから」
「わぁ♪」
カナミはようやくシロエが胸に抱いた子猫に気付いたらしい、子猫にそろそろと手を伸ばし、ゆっくりと子猫の頭を撫で始めた、子猫も大人しく撫でられて、カナミはご満悦だったのだろう表情でわかった。
「シロ、遅れてワリィ」
カナミが子猫と戯れている所に直継がやって来た、勝手知ったる友人の家とばかりに入ってきたようだ、そして、直継は手にした大きな紙袋をシロエにさしだした。
「コレは?」
「こないだ新調したからお古を持ってきたんだ、何処に仕舞ったのかわかんなくて遅れた祭りだぜ」
直継から渡されたのはキーボードだった、一世代古い型だがシロエが使っていたキーボードとメーカーも同一で使い勝手はほぼ差のない未だに広く普及されている品だ、キーボードを買い替える必要はあったが子猫をそのままにして出掛けるのも不安だったが、コレならなんの問題も無さそうだった。
「ありがとう、直継」
「いいってことよ」
用意したコーヒーをトレイに乗せ、カナミと直継とカズ彦と部屋に戻ってきたシロエは、好き勝手にシロエの部屋を漁る面々にげんなりした。
「おっかしいなぁ、シロエならベッドの下にエロ本隠してそうだと思ったのに」
「安直ですねKR、シロエみたいなムッツリタイプは参考書のカバーをかけて本棚に入れておくのですよ」
「マジか、そんな手があったとは」
「二人とも勝手な事言わないでください!!!!」
「シロん家って参考書とかみたいな本しかねぇからなぁ、いっそ俺のオススメでも持ってくるか?」
「そんな事したら、速攻で捨てるから」
シロエは呆れたように吐き捨てるが、直継はいつもこう言うことを言うわりに実際には持ってきた事などない、冗談だと分かっているのでシロエも遠慮なくツッコミを入れることが出来る、しかし······、そうではない人間がココには居たのだった。
「っていうかインティクスはもう、シロ君だって男の子なんだから、えっちぃ本は漁っちゃダメじゃない!」
「本の傾向からシロエの好きなタイプが分かりますよ?」
「私も探す!!」
「なにを吹き込んでんですかアナタはぁ!!」
「いえ、私は些細な嫌がらせを。シロエがカナミに嫌われたら独り占め出来るとか思ってますが何か♪」
「言い切った!!」
「言い切りおったな・・・」
インティクスの堂々たる嫌がらせ発言に頭痛がしつつ、シロエは用意したコーヒーを皆に渡す、部屋探索は飽きたらしいカナミ達はコーヒーを飲みながら時計をチラチラ見ていた。
「どうしたんです、時計ばっかりみて」
「ん、お隣さんは何時帰ってくるのかなぁ~?って」
「いや、そもそも今日帰ってくるとは限らないんですが」
「え~、つまんなぁい」
「ふむ、それならココでこうしているのも勿体ないか」
「ちぇ、シロエん家の美人なお隣さんを見たかったのに」
「残念ですね」
「やっぱりソッチ目当てでしたか、残念でしたね」
シロエはメガネをかけ直し、今日は何とかなりそうだと思ったのに、けたたましく鳴るインターホンが全てをぶち壊した。
「たっだいま~♪恵君お土産だよ~♪」
「は····早かったですね····」
「うん♪、しろちゃんが寂しがっちゃいけないしね♪」
そう言いながらシロエの肩に乗っかっていた子猫を抱き寄せる小池、シロエとしては後ろの方で色々ヒソヒソ話をされているのが気になって仕方がなかった、このまま終わってくれればそれで良かったのだがそうもいかず、玄関に並ぶ大量の靴に気付いた小池さんは。
「おや?、恵君のお友達かい?」
「ええ、まあ」
「なるほど、邪魔しちゃってゴメンね」
「いえ、お土産ありがとうございます、多分どころか絶対ラーメンでしょうけど」
「うん♪、その通り♪」
基本的に小池から貰うお土産はラーメンしかないので今回もそうだと思うと、つい口から出てしまった発言にシロエはしまったと思ったが、小池は得意げで自慢気に肯定するのみだった。ふと、後ろから視線を感じて振り返ると、皆が小池の事を覗き見していた。しかし、小池はそんな視線を気にしたふうでもなく、シロエにとって破壊力のある爆弾を投下した。
「初めまして、恵君家の隣に住んでる小池と言います、ココであったのも何かの縁だし、お姉ちゃんが奢ってあげるからラーメン食べにいこう♪」
「何を言ってんですかーーー!!」
「「「「「行きます!!」」」」」
「皆も何同意しちゃってんのぉぉ!!!」
シロエの絶叫も何処知らず、小池は自分の家の玄関に荷物を置くとシロエの家に戻ってきた小池は、早く早くと子供みたいに皆を急かしている姿はお姉ちゃん発言を台無しにしはしていたが直継やカズ彦にKRは効果があったらしく。
「相変わらず可愛い姉ちゃんだな」
「羨ましい、爆ぜればいいのに」
「あざとさの無いところがよい」
中々高ポイントらしい、何やら戸惑っているカナミと、思案を続けるインティクスは黙ったままだったのが逆に不安になったので、シロエは二人に声をかける。
「どうしたんです?」
「なんていうか、シロエも中々愉快な方と知り合いなのですねぇ」
「それは言わないでくださいよ」
「ねぇ」
「ん?」
カナミは何故かシロエのパーカーをキュッっと掴み、上目遣いでシロエを見ていた。カナミの謎の態度にシロエは困惑を隠せないでいると。
「シロ君はあんな人がタイプなの?」
カナミから出たのはそんな言葉だった、女性の心の機微に疎いシロエにはどうすれば正解なのか分からないでいると、インティクスから別の爆弾が投下されてしまった。
「大丈夫ですカナミ、シロエは胸派ですからカナミの方がタイプに決まってます!!」
「なにを言ってんですかアンタぁあぁぁぁ!!!!」
「前に皆で海に行った時、カナミやナズナをガン見していたでしょう♪」
「してない!!ぜぇぇぇぇったいしてない!!!」
「そっか、そうだよね♪」
「何に対して納得したぁ!!!」
シロエのツッコミも何処へやら、カナミはよしっ!と気合いを入れると玄関から飛び出した、シロエは色々と誤解を招く発言をされたので意気消沈しているが、1つだけインティクスに聞きたい事があった。
「なんであんな事を言ったんですか」
「何となくです、····小池さんよりカナミの方が勝っていると言いたかっただけなんですが」
「じゃあそういえばいいじゃないですか、何で僕を陥れるんです」
「分かってませんねシロエは」
「え?」
(カナミが知りたいのは「シロエにどう思われているか」だと言うのに)
それをそのまま教えるのも面白くないのでシロエの株価を下げるようなあんな発言をしたのだが、カナミはなにやら納得してしまったみたいだし、なるようにしかならないとインティクスも諦める事にした、未だに首を傾げて考えているシロエを見て、少し呆れつつも、インティクスはシロエの背中を叩いた。
「アナタのお知り合いでしょう、シロエが間を取り持たないでどうしますの」
「え?ああ、そうですねゴメン」
シロエはそう謝るとラーメン屋に向けて爆進する小池のもとへ行き、色々話を始めたらしい、時折後ろを振り返っているのは友人達を紹介しているからであろう。
「今日は恵君のお友達もいっぱいで楽しいね~、ね~しろちゃん♪」
「しろちゃん?、もしかして子猫の名前ですか?」
カナミがキョトンとして聞き直すと小池は「そうだよ~」と明るく返事を返す、その続きが理解出来たらしいシロエは冷や汗をかいて顔を真っ青にしていたが・・・。
「この子の名前は《しろえ》ちゃんって言うんだ~♪」
「「「「「··········」」」」」
「·········」
皆の視線がシロエに突き刺さる、シロエは目を反らして遠い虚を眺めていた、その日以降数日間、シロエに気を使った皆から「城鐘君」と呼ばれ、なにやらいたたまれなくなったシロエだった。
《小池さん》
ラーメン大好き小池さん、シロエよりは歳上だが直継からは一応歳下。調理師専門学校に通う料理人見習いでいずれはラーメン屋を開くのが夢。




