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49 ならず者の巣窟で出会いを求めるのは間違っているだろうか

井口裕香さんの歌なら白金ディスコが好きです。

アクセスありがとうございます。

 ☆


 エルフ娘はレベルが上がった。

 自分が少しだけ飛べる魔法を覚えた。

 風の力で対象物を吹っ飛ばしたり優しく運んだりする魔法を覚えた。


 そういうわけで、黒エルフ&トカゲ男連合艦隊は、新たな戦力を手に狭間の里の中央部に進出することになった。

 上陸接岸場所の選定は、捕虜オークを締め上げて人気の少ないポイントを調べた黒エルフ親父に任せている。

「オークたちの吐いた情報が嘘っぱちで、屈強な奴らが多数待ち構えてたらどうするんだ」

「そんときゃあ豚野郎どもをサメの餌にして、一目散にずらかるしかないわな」

 軽い世間話のノリで俺は聞いただけなんだが、親父の目は本気だった。


 先行する忍び船の面子、黒エルフたちが上陸して安全を確認した後、トカゲ男たちからも幾人か続いてもらう段取りのようだ。

 ならず者たちの島に乗り込むなんて穏やかではないが、話が通じる相手ならもちろん話し合ってことを進めるにこしたことはない。

 俺たちの目的はあくまでも情報収集であり、暴力に訴えるのはやむにやまれない場合の最後の手段、しかも自衛と逃走のためだからな。


 白エルフの親父どのは、この機会に狭間の里の勢力も調伏してしまって近隣海域の治安を安定させたい目論見があるようだが。

 それも相手の勢力規模をきっちり測ってからの仕事になるだろう。


 

「西側の岸壁が入り組んどって、船が見つかりにくいっちゅう話じゃけえ。そこに停泊して崖を登って島の内部に入ることンなるのお」

 ハードな肉体労働になりそうだ。

 栄養ドリンクが欲しくなるな。ファイトぉー、いっぱぁーつ。

「一人ずつなら、私の力で運べると思うぞ!」

 エルフ娘のドヤ顔がマジウザい。


 夜を待ち、いよいよ島の西側、崖のある地帯に船を横づけする。

 待っている間に俺と料理長くんは持って歩ける限り大量に即席めんを仕込んでおいたり、食料の準備時間にあてた。

「ほんじゃあ、ワシが先に崖を登って合図を送ったら、うちの若いモンを嬢ちゃんの力とやらで運んでくれるかのお」

「第一陣の最終は、俺とジローさんたちになるっすね」

 黒エルフ親子にそう促されて、俺たちは周囲を警戒しながらこそこそと崖からの侵入を試みた。

 船の甲板から崖の中腹まで、エルフ娘の力で黒エルフの若者たちが、ひょいひょいと運ばれて行く。

 イメージとしては船の甲板から崖に向かってジャンプした黒エルフの背中を、風の力で押して手助けすることでジャンプ力を増大させている感じだ。

 なおかつ、着地の際に衝撃を和らげるため、着地点にもなんらかの風の力が働き、クッションのようにふわりと飛んできた相手を受け止めている。

 そのおかげで黒エルフたちは崖の凹凸を難なくつかんだり、足をかけたりして、ロッククライミングの要領でさらに登って行けるのだ。

「地味だけどスゲー。ところで料理長くんの魔法はなんだっけ?」

 知ってて聞く俺。

「少量の水分を凍らせる程度の、冷気を操る力でございますが……」

 そんなに暗い顔で答えるなよ。

 少量の、とかつけてあえて自虐するあたり、相当凹んでるな。


 ☆


 黒エルフの若い衆を何人か崖の上まで送り、親父さんからの合図を受けて俺たちもいよいよ狭間の里、本拠地エリアの島に飛び移る。

「俺を送るときだけ失敗するとかマジやめろよ」

「どうかな。少し疲れたので手元が狂うことはあるかもしれん」

 そんなこともなく、無事に空中浮遊して崖の凹凸に捕まることができた。

 俺の力で飛んだわけではないが、やはり空を(少しでも)飛ぶってのは気分がいいもんだな。

「お嬢さまに精霊魔術の素養があることはあるじから聞き及んでおりましたが、まさかこれほどとは……」

 どこの世界にも、なんでこんな奴にこんなとびっきりの才能が、って不条理はあるもんだな。


 崖を登った先は雑木林である。

 獣、小動物の匂いや物音は感じるが、人の気配や民家が近くにあるような光源はない。

「帰り道、迷わねえか心配だな」

「安心するっす。俺たちは星が見える限り方向を見失うことはないっすよ」

 俺の不安を払しょくするように、黒エルフ長男くんが頼もしいことを言ってくれる。

 凄い技能ではあるが、俺たちのいた地球でも夜の星を見て方角を知ること自体はできたはずだったかな。

 とりあえず北極星が北だ。

 北極星は北斗七星の端っこの星、ひしゃくのふちを形作る部分の延長上、少し離れたポイントにあったはず。

 目立つ星でもあるし、特徴的な星座を形成しているので、子供の頃は北斗七星を夜空でちょくちょく探して喜んでいたものだ。

 

 そう思ってなんとなく空を見てみると、俺は今いる異世界の空にも、ひしゃくの形に似た七つ星を見つけてしまった。

 しかし、それは俺の知る北斗七星とは少し違った。

 どう違うのかと言うと、表裏反対と言うか、鏡写しになっているのだ。

 ひしゃくの柄を左、水をすくう部分を右とした場合、本来の北斗七星なら水をすくう部分は上向きになるはずである。水がこぼれない向きと言うことだな。

 しかし俺が今頭上に見ている七つ星をひしゃくに見立てると、柄を左とした場合に水がこぼれる向きになる。

「お、ジローさんも星を見てるっすね。そうっす、あっちに見えるのが大さじ座と小さじ座っす。そこに南の一つ星もあるんで、基本はそれを見れば大まかな南北はわかるっすよ」

 北じゃねーのかよ。

 俺の行動に直接的にはどうでもいいことで異世界ショック。

 しかも大さじ座と小さじ座って。そのまんま過ぎるだろう。

 まあ南と北ってのは結局のところ方位に対する仮称だから、どっちをどう呼ぼうと不都合はないんだがな……宇宙単位で見れば上も下もないわけだし。

 そもそも、俺がこの世界の言葉をなぜか喋れている、聞き分けることができている時点で色々と理屈をすっ飛ばしているのだ。

 南と言う言葉と北と言う言葉の意味が入れ違っている可能性も無きにしも非ず。

 考えれば考えるほど色々混乱してくるので、気にしないことにした。

「今日は大さじ座の傍らに小さく光る星が見えるっす。あれが見える夜はいいことがあるって、俺らの間では昔から伝わってるっすよ」

「そ、そうか。そいつはなによりだ」

 世紀末を救世して伝説を作るのかもしれないな。

 そうなるとここは修羅の国と言うことになってしまうんだが……。 


 ☆


 森と言うか林と言うか、そんな立ち並ぶ木々の間を縫って奥に進むが、静寂そのものである。

 たまに小動物の鳴き声が聞こえたり、コウモリに似た影が飛来するくらいだ。

 上陸するなり名もなき修羅に出くわして全滅したりしない分マシだが、このあたりには何者も住んでいない、と言う情報しか手に入らないな。

 樹木の植生自体は、果樹よりもドングリやクルミに似た種子をつけるものが多いようで、エルフの森なんかとは少しばかり雰囲気が違う。

 もっとも、エルフの町や村の周囲に広がる林は膨大な量の果樹を管理して植えているのだろうから、人工的な林とも言える。

 こっちは手つかずの自然に近い広葉樹林といった感じで、日本の田舎のさらに奥の山の中に似ているな。

「島の面積とか外周自体はどれくらいなんだ」

「そうっすねえ。夜だし船から見た感覚でしかないっすけど、馬を走らせれば……」

 俺の疑問に対して説明してくれる長男くんの言葉から計算すると、およそ半径100キロメートルほどの大きさ、やや弓なりに曲がった楕円形に近い島らしい。

 日本で言うなら四国の半分くらいの大きさだろうか。

「もっとも、まともな道がない感じなんで、実際にぐるっと回るとなると結構かかると思うっすね。ここの森の様子なら、食うものは調達できるんで長丁場になっても俺らはなんとかなるっすけど」

 その言葉を証明するかのように、長男くんは投げナイフででかいネズミのような生き物を仕留めた。

 夜だぞオイ……。

「他のモンも木の実とか食べられそうな草とか集めながら進んでるんで、食うものの心配はしなくていいっすよ」

 タフすぎるわこいつら。


 ☆


 時計がないので何時間歩いたと言うのはわからないが、体感的に数時間は歩いた。

 途中で一度食事休憩をはさみはしたが、結構な時間が経過したのは確かで、うっすらと空が白み始めている。

 そのとき、長男くんがなにかに気付き、俺たちの歩みを制止した。

「親父がなにか見つけたみたいっすね」

 黒エルフたちは等感覚に散開しながら、手信号を用いて連絡を取り合い森の中を探索している。夜でもお互いにそれが見えてるのが恐ろしいが。

 その中で先頭を行く親父さんが異変に気付いたらしく、しんがりを歩く俺たちにまで合図が無言で回ってきたのだ。

「……建物……小さい……中に気配あり……ふむふむ」

 まあるでニンジャか自衛隊の特殊部隊かと言うように、最小限の動き、合図で連絡を取り合う黒エルフたち。

「これから親父たちが突入すると思うんで、中にいる連中が逃げないように少し包囲を詰めるっす。なるべく俺の後ろにいてくださいっす」

「普通にノックして『ごめんくださーい』じゃダメなんかよ」

「こういうのは先手必勝っすよ。隙を見せたら負けっす」

「なるべく刃傷沙汰はやめてくれよ」

 ともあれ指示通りに俺もエルフ娘も料理長くんも、黒エルフ長男につき従って前進する。

 目的の建物と言うのが見えてきた。木の柱や板で作られた三角屋根の粗末な小屋だ。確かに小さい。

 外から見た感じだと、中の間取りは6畳から8畳ほどの一室で完結していそうだ。

 未明から明け方に変わろうかというこんな時間帯だが、小屋の中から外に灯りが漏れている。

 中に誰かがいて、ランプなりろうそくなりで起きて灯りをつけているのか?

 黒エルフ親父を含む3人の男たちがその小屋に音もなく近付き、壁越しに中の様子をうかがう。

「親父が中に突入するっす。なにが飛び出してきても驚かないように心構えをしておいてくださいっす」

 ハンドサインを受け取った長男くんが呟く。

 ごくり、とエルフ娘が喉を鳴らす音が聞こえた。

 こいつはこういう、スペクタクル的な冒険がしたくてたまらなかったんだろうからなあ。感無量だろう。


 しかし、黒エルフ親父は小屋の中に入って行かなかった。

「じゃあおっかあ、行ってくるべ」

 小屋の住人があどけない声でそう言いながら、扉を開けて出て来たのだ。

 当然、扉から中に入り込もうとしていた黒エルフ親父と鉢合わせの格好になり。

「!!」

 親父、驚いて一瞬だけ硬直。

「ほえ!?」

 出てきた人物、扉を開けたら見知らぬコワモテが目の前にいて混乱し。

「ふんぐも!!」

 あっという間に組み伏せられ、口をふさがれた。

「ん、んーーーー! んーーーーー!!」

 オッサンの動きは一連の流れになっており、おそらく考えたり躊躇したりという余地がまったく挟まっていなかったのだろう。

 そこに駆け寄り、俺は叫んだ。

「待てオッサン! 子供だ! しかもそいつ、多分俺たちと同じ人間だ!」

 

 遠目で、薄明だったから自信はない。

 しかしエルフのような特徴的な長い耳、モデルのようなすらりとした体のラインでもなく、ドワーフのようにオッサン、オバサンめいた容貌でもない。

 直感的に俺は、小屋から出てきた人物が俺やすみれと同じ人間なのではないかと思ったのだ。



次回予告

50「エルフを狩るジジイたち」 

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