47 癒しの風(物理)
日ハム、調子いいですね。
中田にもっと打ってもらえるとなおいいんだけど。
アクセスありがとうございます。
☆
泣きじゃくるエルフ娘の周りには、白目をむいて失神しているオーク、泡を吹いて痙攣しているオーク、土壁にめり込んでいるオークなど実に様々なオーク悶絶百景が広がっていた。
「どうなってんだこれは。まさかお前がやったのか?」
とりあえずエルフ娘に、その辺に転がっていた布でもかけてやろうかと不用意に近付いた俺が。
「いやーーーーーっ! 触らないでーーーーーっ!!」
「ぼべっ!!!」
手のひらで突き飛ばされた。
俺の体が宙に浮き、ゆうに10メートル以上は吹っ飛ばされた。
飛ばされた先にオークが倒れていたので、その肉がクッションになって壁や床との激突はかろうじて避けられた。
「殺す気か! なんだそのひっさつわざ!?」
人が珍しく仏心を出した結果がごらんの有様だよ。
「……精神的、肉体的に窮地に陥ったことでお嬢さまの魔法回路が一気に解放されたのでございましょうか」
料理長くんが見解を述べる。なんだよその都合のいい設定。
「ほお、嬢ちゃんも魔法が使えるんか。見たところ、風の精霊のようじゃのお」
吹っ飛ばされた俺の様子を見て、黒エルフ親父も驚きつつ感心している。
「ま、魔法……? え、このオークたち、私が……?」
エルフ娘は混乱していて状況がよくわかっていないようだ。
怖い目に遭ったんだろうから無理もないが。
「つーか一人くらい俺の心配もしてくれ。こっちはなんの特殊性能もない生身なんだぞ。当たりどころが悪かったら死んでたっつーの」
「当方、根拠はございませんが、ジローさまは殺しても死なぬ気がいたします」
料理長くんがわけのわからないことを言う。
実際、バイクの事故で死ぬような怪我を負ったはずなのに、何故かこんなところで耳の長い連中と一緒にいるわけではあるがな。
☆
不幸中の幸いというか、オークたちに体中をまさぐられた程度でエルフ娘の力が覚醒し、それ以上の狼藉は受けなかったらしい。
「我があるじは、お嬢さまに精霊魔法の素養があることを察しておりました。しかしお嬢さまの性格上、そのような能力を持たれたなら……」
「なんとなくわかるぜ。調子に乗って危険な冒険に出るとかなんとか言い出しかねないからな、あの姉ちゃんは」
料理長くんが小声で説明する内容に俺は相槌を打った。
しかし、さすがに臭くて汚いオークの穴蔵でいやらしいことを未遂とは言えされたことで、さすがの厨二病エルフ女も顔面蒼白で震えている。
「別の部屋でも声がしよるのお。どうやらトカゲ野郎たちとオークどもがやり合っとる騒ぎ声か」
黒エルフが相変わらずの鋭敏な聴覚で周囲の音から情報を得る。
「お嬢さまの救出も成し遂げたことですので、撤退してもよろしいかと存じますが」
俺も料理長くんの意見に同意である。こんな臭くて汚い空間にこれ以上居続ける意味はない。
「あんさんらはそれでエエかも知らんが、こっちはまだ仕事が残っちょるけえのお。その辺で泡吹いてるオークを2、3匹ふん縛って、ワシらの忍び船に連れて行くけえ、ちょっと手伝ってくれや」
狭間の里エリアの内部情報を吐かせるためだと、黒エルフ親父は言った。
白エルフ娘が内部で暴れたことと、地龍の民が思いのほか強いことが重なり、急襲作戦は上々の成果を上げた。
「ようご苦労さん、そっちも上手くやったみてえだな」
トカゲの族長さんも、オークを何人? か連行して船に戻っていた。
「他のオークはどうしたんだ。皆殺しにでもしたのか」
この世界の倫理観、道徳観をまだ俺はよくわかっていないので、とりあえずそう聞いた。
「なわけねーだろ。俺たちをどんなケダモノだと思ってやがる。とりあえず適当にぶちのめしてから武器は取り上げたし、奴らの船は粉々にしておいたから、俺たちを追って反撃するのはしばらく無理だろうさ」
「ずいぶんと温情のある沙汰だな」
「先に手を出してきたのはオークどもだが、そのときも誰かが死んだりしたわけじゃねえからな。仕返しとしてはこれくらいで十分ってもんだ」
いかついし喧嘩も強いが、トカゲ男たちは情け深い種族のようだ。
☆
トカゲ黒エルフ連合艦隊(合計2隻+小舟がいくつか)はそのまま小島に船を停泊させ、周辺の警戒と休憩、そして捕えたオークへの尋問を執り行うことになった。
その間、俺と料理長くんと白エルフ娘は、いったん黒エルフ親父たちの乗る忍び船にお邪魔する。
白娘を早々に発見できたのは黒いオッサンのおかげなので、そのお礼にメシを作って振る舞うことにしたのだ。
「ちっす。親父と妹がなんか世話になってるみたいで、これからも色々よろしくっす」
微妙に体育会系、爽やか日焼け男子にも見える黒エルフの青年にあいさつされた。
なるほどこいつが黒エルフ長男ね。
「どうもこんちは。妹さん元気?」
まずは軽く世間話。
「元気っす元気っす。最近遊んでばっかりだから太ったって言ってたっすね。またジローさんの、ラーメン? っていうのを食べたいって言ってたっすよ。俺もぜひ食べてみたいっす」
あの親父からできたとは思えないくらい、朗らかで毒気のない男だな。
戦闘能力で言えば父親より上だそうだが。
「そのつもりでこっちの船に来たんだ。親父さんは?」
「まだ尋問中っすね。呼ぶっすか?」
「よろしく頼む」
黒エルフ族長親子を含めた忍び船の乗組員に集まってもらい、自己紹介をしたり料理を作る申し出をしたり。
「メシ作ってくれるのか。そいつはありがてえ」
「しかし異界から来たやつなんて俺ははじめて見るぜ」
「耳が短いな。怪我でもして切り落としたのか? そんな耳で聞こえてんのか?」
黒い肌の精悍なコワモテたちに囲まれて質問攻め。
そりゃ、アンタらほど耳は良くねえだろうよ……。
「で、とっ捕まって怖いオッサンに脅されているであろうオークの皆さんにも食べてもらおうと思うんだが、どうだろう」
俺がそう提案すると、露骨に黒エルフ親父が渋い顔をした。
「なんであがな連中に食わせんにゃあならんのじゃ」
「腹がいっぱいになった方が気分よく喋ると思うぞ」
特に真剣に考えたわけではなく、思い付きである。
船が襲われたときも、ラーメン食って美味いって言ってたオークがいたことだし、作る俺としては食う相手が多少増えようが減ろうが手間はさほど変わらないしな。
「なるほど……オークを懐柔して狭間の里に潜り込ませて定期的に情報を伝えさせるっちゅうのも、悪うないかもしれんのお」
別に俺はそんなこと考えてねえ。
重ね重ね、メシと政治は切り離して考えて欲しいもんだぜ。
俺たちの話を聞いていた黒エルフ長男が、船室の奥からでっぷり肥ったオークを連れてきた。
「ちくしょう離すブヒこの焦げ肌野郎ども! 今日はたまたま調子が悪かっただけなんだブヒ! 本気出せばお前らなんか指先一つで昇天ブヒ!」
威勢のいいデブだった。
「ちょっとうるさいっすよ。静かにするっす」
長男くんはそう言って、無造作にオークの腹を指でつねって、ねじる。
「ぎゅ、ぎゅるふふふふぅぃぃぃ!!! やめるブヒ後生だブヒ死ぬブヒ!」
「静かにって言ってるのがわからないっすか」
さらにつねる。
「くぁwせdrftgyふじこ」
言語にならない悲鳴を上げてオークはよだれをたらし、白目をむいた。
この兄ちゃん怖い。
「メシを食わせるなら、拘束を解いたほうがいいっすね」
「もちろんそのほうがいいが、大丈夫なんか」
聞くまでもないことだが、一応確認しておいた。
「下手な真似をしたら手足の5、6本折ってやるっすよ」
朗らかにそう言われた。
手足は合計で4本しかねえよ。
前腕と上腕、スネとモモを分けて考えれば合計8本だがな。
当然のことではあるが、連れて来られたオークと離れた位置に白エルフ娘は佇んでいる。
「無理に同席しなくてもいいぞ。別のところで食うならメシは持って行ってやるから」
さすがに若い娘っ子が、ついさっき自分を犯そうとした連中と一緒にメシなんて食いたくないだろう。
そう思って提案したが、白エルフ娘は俺の心配とは裏腹に、おかしなことを言いだした。
「ラーメンには、豚の肉や骨を使っているものもあるのだったな」
「ああそうだな。とんこつやチャーシューを使うのはラーメンではごく当たり前のことだ。それがどうかしたか」
「いや、オークは豚を食ったりするのだろうかと、ふと疑問に思っただけだ」
ふむ、確かに。
オークの見た目は、立って歩く豚、もしくは豚の顔をしたデブなおっさんだからな。
豚みたいな顔の肥ったオッサンと言っても、アドリア海で飛行艇に乗っているような渋い紳士とは大きく違うが。
「どうなの料理長くん」
「当方といたしましてもさすがに交流のないオークどもの食文化は関知しておりませぬ」
悶絶しているオークを、文字通り養豚場の豚を見るような目つきで見下ろしながら料理長くんは冷たく言い放った。
直接聞いてみるか。
「おおいオークの兄ちゃん、生きてるか。お前らって豚肉とか食ったりするの? 共食いにならんの?」
「……ぶ、ブヒ? 俺たちは豚にちょっと似てるだけで、豚じゃないブヒ。失礼な奴ブヒ」
「あ、違うのか。てっきり豚から進化した生命体か何かと思ってた」
「夢でも見てるブヒか。そもそも豚が立って歩いて言葉を話したり服を着て道具を使うかブヒ。豚肉だろうが牛肉だろうが食えるもんなら何でも食うブヒよ。魚が他の種類の魚を食うのと同じ理屈だブヒ」
こんな豚野郎に正論言われて言い返せなかったから二郎くんちょっとムカついた。
食えるなら特に問題はないからいいがな。作る方としては。
そんなわけで、捕虜オークを含む忍び船の皆さんに俺のラーメンを食べてもらうことと相成った。
48「さすがお嬢さまです」
更新が遅くなったのは野球が開幕したからと言うわけじゃないんです。信じて下さい。なんでもしまry




