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45 異世界島戦記

次回予告で二郎パートに戻るって書いたけどごめんなさい、もう一回すみれパート書きます。

せっかくなので大枠ストーリーの舞台裏とか伏線みたいなものこの機会に撒いてしまいたいので。


アクセスありがとうございます。

 ☆ ☆ ☆


 黒エルフ父はすみれの店を後にし、自分の島に戻って行った。

 正規の連絡船ではない、自分専用の船で大陸と黒エルフの島を行き来しているのだろう。まさに夜の闇に隠れるように。

「……ドワーフさんたちがこの世界を支配する、って、正直ピンとこないんですけど」

 横で話を聞いていたすみれは、思っていたことをそのまま言葉にし、白エルフ父に投げかける。

「すみれどのはこちらの世界に来て間もないから、深い事情を知らなくても無理はない。しかし近年のドワーフ族の勢力伸長は、この世界の歴史から見ると異常なのだ」


 白エルフ父は語った。


 古来より、エルフはドワーフよりも上位の種族として土地を支配し、ドワーフはその労働力をエルフたちに「使われる」立場であったこと。

 しかし白エルフと黒エルフの抗争の際、ドワーフの作った武器が大量に大陸中、あるいは諸島部に出回り、ドワーフの経済力や権益が急激に増大したこと。

 もちろん、抗争によって白黒両エルフの総数が激減したこともそれに拍車をかけた。

 そして今、諸島部に住む獣人族たちの島の防護設備の建設、あるいは物流、交通のための護岸整備や道路の建設において、さらなる労働力がドワーフから提供されている。


「ドワーフたちの手が入ると、あらゆるところが『便利』になる。そして『便利』な暮らしを経験した獣人たちは、その暮らしを維持向上するためにこれからもずっとドワーフの技術、労働力を必要とする」

「いいことだと思うんですけど」

「もちろん生活の利便性が向上するのは望ましいことだ。しかし、それはドワーフに『便利さ』を人質にとられていることと同義だ。ドワーフがそれら設備の保守費用、新たな建設費用を自分たちの都合で値上げしてしまえば、他の種族はそれに従わざるを得ない」

「今は、そうなってないんですか?」

「幸いと言っていいか、ドワーフたちは村ごと、町ごとに仕事の価格を設定し、自分たちの村、町が少しでも多くの仕事を獲得できるようにドワーフ同士で価格競争をしている。そのため、他の種族は手ごろな金銭でドワーフに仕事を依頼することができる。安く請け負ってくれる村を探せばいいわけだからね。しかしドワーフと言う種族全体が一つにまとまって、自分たちの労働対価を一律に引き上げてようとしてしまえばそうはいかない。そして今、その動きが進行しているという情報を私は掴んだのだよ」 

 今までバラバラだったドワーフの中小コミュニティが、自分たちの労働価値を高めるためにカルテルを結ぼうとしている、と言う話であった。


 なるほど確かにそうなれば、ドワーフの言い値で他の種族は仕事を依頼せざるを得なくなる。

 他の同業者と価格競争をしなくていいなんて、夢のような話だとすみれは思った。

 しかしそれが市場原理として不健全であることは重々承知している。

 大手ゼネコンが一社独占して、道路や建物といった公共インフラを一手に引き受けてしまえば、発注する側は他に選択肢がないので言い値を支払うしかないのだ。

 そして、インフラ事業と言うのはまさしくそこに暮らす者たちにとっての生命線である。

 高い技術、しかし高い価格の仕事だから発注しない、ということはできない。

 なぜなら他の地域は高い水準のインフラを整えているのだから、自分たちのコミュニティだけその発展から隔離する道を選ぶと、住民がそちら側に流出してしまうこともありうるからだ。


「ドワーフさんたちと喧嘩をせずにその流れに待ったをかけたいってことは……いろんな種族の代表同士を出し合って議会を作る、とかですか? その音頭取りをエルフさんたちが?」

 すみれ自身、特に政治的な思索が好きなわけでもない。

 しかし日本人的な一般感覚として、こういう話をまとめる場合は選挙をしたり議会を作ったりと言うのが、いわば当然の流れだろうという考えからその言葉が出た。

「おおむねそのようなことだ。そして、幾多の種族を一つにまとめるためには、共通の目標を設定し、その解決に力を合わせることが最も近道だ。白エルフと黒エルフが歩み寄って狭間の里の諸問題を解決し、沿岸一帯の安全を確保するという、今回の行動のようにね」


 話し終えて白エルフ父は、盃に残った酒を飲み干した。

 すみれも同じく自分の酒を飲み干したが、打算的な話を聞かされたせいか、酒が不味いと感じた。

「お父さんにはお父さんなりの考えがあってのことでしょうけど、アタシはそんなお話、あまり気分よく聞けないですね」

「申し訳ないと思っている。しかしきみたちが作る異界の料理は、なぜか不思議とわれわれの心を溶かすのだ。黒の族長とこの話をするのも、この店ですみれどのの料理を食べながらでないとおそらく成功しなかっただろう」

 光栄なことではある。しかしすみれは素直に喜べなかった。

 二郎もそうであるが、すみれもあまり料理の席に政治的な思惑を持ち込んで欲しくないと思っている。食い物の味が濁るからだ。

「なにも難しいこと考えずに、みんな仲良くするってことはできないんでしょうか」

「そんな幻想はありえないよ。すみれどののいた世界もそうだったのではないかな?」

 すみれは答えなかった。


 ☆ ☆ ☆


 翌日、すみれは少し遅めの起床をして、夕方からの営業の準備に取り掛かっていた。

 市場を覗くと新鮮な葉物野菜が安く大量に出回っていたので、これらを利用した野菜ラーメンを手ごろな値段で提供するつもりである。

 他のおかずと合わせてセットメニューを設定すれば、肉体労働で体力を消費したドワーフや獣人たちにも受けはいいだろう。


 すみれがタマネギに似た食材をどう使おうか、茹でたり炒めたり試行錯誤している最中に横から見知らぬ声で指摘が入った。

「おい小娘、そのゴブリンネギは湯がくと歯ごたえも食味もすべて台無しになるぞい。あくを抜きたいなら流水にさらすのじゃ」

「え? は、はあ」

 声の主は、フードつきの外套をかぶった背の低い人物だった。

 顔が見えないので種族はわからないが、声の様子からすると幼い女の子のようでもある。

「汁ものの具として使うつもりじゃな。それならばゴブリンネギだけは加熱せずに、完成した器のてっぺんに刻んで盛るがよい。他の野菜に火が通って柔らかくなっておるなら、対比として歯ごたえと瑞々しさを残すべきじゃ」

 言われた通りに、野菜ラーメンのてっぺんに生ゴブリンネギの刻んだものを乗せる。

 爽やかな辛味と瑞々しさ、シャキシャキとした歯ごたえが何とも言えない存在感を放った。

 薬味と具の機能を見事に兼ね備えた素材のようだ。

「……美味しい。焼いたお肉の上に散らして皿料理として出すのもいいかも。ありがとう♪」

 前日食べたマグロのヅケにこのネギを合わせればなお美味しくなっただろう、とすみれは少し後悔した。

「礼と言うならその試作した一杯をよこすがよいぞ。腹が減ってかなわぬ」

 返事をしないうちに、謎の童女はすみれの手から野菜ラーメンゴブリンネギマシマシを奪い取る。

 この世界の住民には珍しく箸を器用に使って、ズルズルとラーメンを食べる。

 音を立ててラーメンをすすると言う食べ方を、この世界の住民が身につけているのをすみれが見たのははじめてだった。

「ふむ。まあまあじゃの。ドワーフの岩塩を使っておるようじゃが、岳兎の浜で作っておる焼き塩を使った方が野菜との相性はよくなるじゃろ。この港でも売っておる。試してみることじゃな」

 すみれがわずかに気がかりだった味付けに関しても的確な指南を出す。

「う、うん。料理、詳しいんだねえ。ところで一人? お父さんとかお母さんと一緒じゃないの?」

 昼間で治安がいいとは言え、多くの人が行きかう港町で童女が一人、と言うのはさすがに違和感があった。

「わらわの母はこの海、わらわの父はこの大地ぞ。みな等しくそうなのじゃがな」

「あ、あはは……」

 なにやら哲学めいた言葉ではぐらかされた。

 直感的にすみれは、面倒臭いガキだとの思いをかすかに持った。


「ま、おぬしがそう思えんのも無理はない。なにせこの世界の生まれ育ちではないのじゃからな。父と母に会いたいか?」

「え?」


 唐突に胸をえぐられる質問を投げかけられ、すみれは言葉を失った。

 離れ離れになった最愛の両親。会いたくないわけがない。

「まだおぬしらには役割がある。それが終わってからじゃ。その日まではせいぜいおのれを見失うことなく、周りの言葉に惑わされることなく、おぬし自身の生きざまを全うするのじゃ」

「ちょ、ちょっとどういうこと? ねえ!?」

 子供の戯言であるとすみれは思えなかった。

 すみれの叫びに答えることなく、龍神のかまどは雑踏の中に消えて行った。

次回予告「パイレーツ・オブ・ジロリアン」


今度こそ二郎の本編に戻ります。

別サイトの競作創作イベントに参加、準備のため更新スピードが落ちることをご容赦ください。

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