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第五話 告知

 夢を見た。

 何時ものように目覚ましで起きる。

 顔を洗い、胴着に着替える。


 鍛錬場に行き、畳の上で瞑想する。

 暫くすると親父が隣に座り、瞑想しだす。

 瞑想を終え、身を引き締めて木刀を握り、親父と稽古を始める。


 ああ・・・何時もの風景だ。

 あんなに気乗りしなかった稽古が嬉しい。

 森で死にそうになりながら生き抜いた。

 

 変な町で冒険者になってお金を稼ぐ日々。

 奴隷まで買った。


 なあ親父、信じるかそんな事。

 剣を交えながら不思議な夢の話をする。


「お前が言うんだ。信じよう」


 相変わらず豪儀な人だ。

 息子の与太話を直ぐに信じるって・・・

 少し嬉しさが込み上げる。


 稽古が終わり、朝食の準備に台所へ向かう。

 ドアノブに手を掛けた途端!


 凄まじい衝撃と閃光が辺りを包み、爆風が襲ってくる。

 鍛錬場がダンボール小屋のように、脆く吹き飛ばされていく。


「おやじ!!!」


 まだ鍛錬場に居た親父は、爆風に飲まれ吹き飛ばされ、巻き込まれた建物の破片に傷ついていた。

 腹には折れた柱が刺さり、血が吹き出ている。

 頭は半分割れて顔が血だらけだ。

 四肢は変な有り得ない角度で折れ曲がっていてる。


「お・・・親父が・・・死ぬ?」


 爆風に耐えながら見続ける。

 母を幼くして亡くし、男手一つで育ててくれた親父が死ぬ・・・

 俺は・・・俺は・・・

 呆然と立ち尽くし閃光に飲まれていった。


「何をしている」


 起きると目の前にはイリスの顔がある。

 近い!


「あの・・・その・・・ご主人様が魘されていて、涙を・・・拭いて・・・」


「いらん、そんな間があったら出発の準備でもしていろ」


「・・・はい・・・申し訳ありません」


 俺は不機嫌になってイリスに当たる。

 申し訳無さそうに準備に取り掛かるイリス。

 俺の側を離れたので、顔を隠してそっと目尻を撫でる。


 確かに涙があった。

 頬にも拭いた後がある。


 俺は泣いていたのか??

 何故??


 魘されていたのだったら夢を見たのか??

 どんな夢を??


 夢を思い出そうとするが何も浮かばない。

 どんな夢を見れば泣けるのか?


 泣き顔を見られた恥かしさと、イリスに弱みを見せた失態に嘆息する。

 気にしないでおこう。

 するべき事をするだけだ。


 身支度を終え朝食を取りギルドへ良く。

 迷宮に行くためだ。

 




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 迷宮に入る様になり、今まで出会わなかったモンスターと遭遇する。

 スケルトン・ミミック・スライム・ゾンビetc。


 前方にはレッドバット5匹とレイスリーが1体居る。

 レッドバットはレイスリーの取り巻きだろう。


「イリス、障壁で防御してレイスリーの『マリオネット』に掛かるな。支援は無理にしなくていい」


「はい!ご主人様も無理をなさらないで下さい」


「・・・わかった」


 また、あの目をして俺を気遣う。

 泣き顔を見られたあの日から、イリスは俺に何かと構うようになった。

 朝は身支度の世話から、俺の装備の着付け、果ては体を拭く事まで手を出してくる。

 不要だと言えば手を出さなくなるが、その分俺を気遣うような目を向けてくる。

 気遣う?違うな哀れむ目か?


 イリスの心境にどんな変化が出たのか。

 道具として扱っているのに、何でそんな目を向けてくる。

 解らない・・・


「ご主人様、来ます」


 イリスの声にハッとして、目の前の戦闘に意識を戻す。

 迷宮の9階層。

 平均LV20の冒険者が6人PTで挑む場所に俺は居る。

 この世界のモンスターは強い。

 同LVの場合、モンスターは2倍以上の脅威を発揮する。


 周囲に警戒しながら『索敵』で他の反応が無いか見る。

 厄介な相手である以上、連戦や乱戦は避けたい。

 『鑑定』でモンスターを再度確認する。


 【名前】レッドバット

 【LV】10

 【状態値】HP958/958・MP207/207

 【攻・防】84/54

 【スキル】耳障りLV1・吸血LV2・体当りLV1


 【名前】レイスリー

 【LV】18

 【状態値】HP2,524/2,524・MP982/982

 【攻・防】121/358

 【スキル】マリオネットLV2・冷たい息LV2・氷魔法LV3


 よし。

 モンスターの反応が目の前のレースリー以外ない。

 LVも高めだがいける。


「いくぞ、イリス」


「はい!」


 イリスに合図を送り、『マジックミサイル』を放つ。

 『マジックミサイル』には聖属性があり、迷宮に救うアンデットやゴーストに良く効く。

 レッドバットなどの闇属性を持つものにも効果が大きい。


 フェアリーが使う『マジックミサイル』は必中攻撃ではあるが威力は低い。

 なのに、俺がラーニングしてLVを上げた『マジックミサイル』は訳が違う。

 そん所そこらのエクソシストも真っ青の威力を出す。


 『マジックミサイル』の本数はフェアリーで2本。

 だが俺は10本同時に放つ事が出来、必中もそのままだ。


 俺の周りから忽然と姿を出した青白い筒は、狙いを定めたモンスターに向かって音速で届く。

 『マジックミサイル』を受けたレッドバットは直ぐに光となり消えうせる。

 残ったのはレイスリーだけだ。

 

「来るぞ!障壁を張れ!」


「はい!求めよ光を、守らん我が身を!来たれよ大いなる守護よ『ホーリーウォール』」


 取り巻きを潰すとレイスリーは必ず『マリオネット』を使ってくる。

 『マリオネット』に掛かると、レイスリーに行動を乗っ取られ、奴の意のままに動かされる。

 だから障壁で『マリオネット』を防がすのだ。


 俺は催眠耐性があるので『マリオネット』に掛かりづらい。

 イリスを人質に取られる心配を潰せば、レイスリーの対処は出来る。


「火炎剣!」


 ゴースト系のレイスリーには、聖属性の他に火が有効だ。

 物理攻撃では捕らえられないレイスリーも、炎属性を付ければダメージを受ける。

 手に持った鋼鉄の刀から炎が噴出す。


「一閃!」


 俺の得意な技。

 レイスリーの胴目掛けて繰り出される一撃は見事に決まる。

 胴を薙ぎ払われ、光となって消えるレイスリー。


 ピロロ~~ン。

 そうか、またLVが上がったみたいだな。

 フィールドでゴブリンなどを倒してもLV20以降は上がり難かった。

 LVの高さか、迷宮の経験値が高いのか解らないが、LVUPが体感で早く感じる。

 迷宮に来て10日程で6LVも上がったのだから。


「もういいぞ」


「はい、お怪我は・・・」


 イリスが俺の心配して駆け寄ってくる。


「おめでとう御座います!LV30になりました。プレイヤーはこれよりPK保護が外れ、PKが可能になります」


 な・・・んだと?

 久々に聞くあのアナウンス。

 この世界に放り出された日を思い出す。

 また勝手に進めるのか!!


「PKはプレイヤーの任意です。ただしHPが0になれば死亡します。PKで勝利した場合、倒したプレーヤーより1つだけスキルを奪う事ができます。ではこれからもラインドルアを楽しんで下さい」


 楽しめだと!

 生き死にが掛かった世界で何を言っている!


「ふざけるな!!!」


「っえ!・・・ご主人様・・・わ・・私が何か・・・」


 俺の吐き捨てるような怒声にイリスが強張った表情で身を竦めていた。

 

「・・・あ・・・すまない。違うんだ、イリスを怒ったわけじゃない」


「・・・そうですか・・・」


 俺は沸き起こる怒気を押させる為に深呼吸をする。

 考えろ!


 PKが可能になるという事は、俺以外にもこちらに来ている人間がいるという事だ。

 そして、もし仮に俺よりも先に来ていた奴がLV30を超えていたら、必ず今のアナウンスを聞いただろう。

 そうなったら普通どうする?


 決まっている。

 PKをしないと決めて常に警戒して人目に付かず暮らすか、PKされる前にPKして身の安全を確保し、俺のような奴を密かに狙っているか、最悪はPKを喜び勇んで率先して来る奴のどれかだろう。


 直ぐに『索敵』を行い周りの反応を確認する。

 モンスター以外には青点が幾つかあるが変った動きはしていなさそうだ。

 だが、このまま町に帰るのは拙い。


 PKを警戒し、且つPKされても撃退できるようにスキルを弄っておこう。

 『刀術』をLV7にして近接戦は問題ないだろう。

 あと毒・麻痺・催眠の各耐性をLV5へ。

 LV5でMAXのようだ、刀や格闘その他ラーニングはLV7に出来るのに何故だろう?

 まあ、MAXまでしか今は上げれないのだから・・・

 『索敵』もLV5にして相手より先んじる事を考える。

  

 後は何を上げる?

 考えた末、相手の耐性効果に影響しない『耳障り』をLV5にした。

 『耳障り』はレッドバットのスキルで、最初に食らった時には目も当てられなかった。

 蝙蝠の超音波なのか、気付かずに平衡感覚が失われ攻撃が当たらなくなるのだ。

 何とか必中の『マジックミサイル』で撃退したが、レッドバットの攻撃で瀕死になっていたしな。

 避ける事もままならなかったのだから。

 戦闘中イリスが『ヒール』を打ち続けてくれなければ死んでいたかも知れない。

 支援役がいて本当に良かったと思った瞬間だった。


 【名前】ハヤト・ウネハナ

 【PT】イリス(LV21)

 【LV】30

 【年齢】16才

 【種族】人間

 【状態値】HP760/760・MP482/621

 【攻・防】1,128/407

 【能力値】S108・V100・I109・A107・D108

 【スキル】

   刀術LV7(0/0)・剣術LV1(0/2)・棒術LV3(0/4)格闘術LV7(0/0)

   身体強化LV5(0/6)・索敵Lv5(0/0)

   毒耐性LV5(0/0)・麻痺耐性LV5(0/0)・催眠耐性LV5(0/0)

   鑑定・ストレージ

 【固有スキル】采華一刀流

 【スキルP】0

 【所持金】258,893,100G

 【ラーニング】

   突進LV1(0/2)・噛み付きLV1(0/2)・雄叫びLV1(0/2)

   毒針LV1(0/2)・

   鉄拳LV1(0/2)・麻痺爪LV1(0/2)

   マジックミサイルLV5(0/6)

   スパイダーネットLV3(0/4)

   水鉄砲LV5(0/5)・狐火LV5(0/6)・雷撃LV5(0/6)

   火炎LV5(0/6)・氷結LV5(0/6)・かまいたちLV2(0/3)

   三連撃LV3(0/4)・火炎剣LV2(0/3)・串刺しLV3(0/4)

   ソニックブレイドLV3(0/4)

   吸血の呪いLV1(0/2)・耳障りLV5(0/6)

   マリオネットLV2(0/3)

   吸血LV2(0/3)

   冷たい息LV2(0/3)・毒の息LV2(0/3)・あまい息LV2(0/3)

 【装備】鋼鉄の刀ATK54/皮の鎧DEF8/魔法のマントDEF6


 ステータス画面で最終確認をする。

 スキルに関しては、増えすぎたので見難かったが、【名前】欄を押したときにソート機能があったので整理たらこうなった。


 スキルPは0。

 もう何も出来ない。

 

 後はどうするか・・・

 俺のようなプレーヤーと呼ばれる者がいるのかを確認する必要があるな。

 このまま町を去り逃げても、何処かで出会ってしまうだろう。

 出会わなかったとしても、目を付けられていたら追い掛けて来るだろうしな。


 イリスに町へ戻ると伝え、迷宮を出る。

 町まで最大限に『索敵』範囲を広げMAP上の情報を確認しながら進む。


「ご主人様・・・顔色が優れないようです。少しお休みなさっては如何ですか?」


「構わない、このままでいい」


「でも、でも!ご主人様!このままでは倒れてしまいます!」


「構うな!」


「・・・っく・・・あう・・でも・・・ご主人様が・・・ぁあ・・・っく」


 俺の命令に反する事でイリスは苦痛にもがき始める。

 そんなに痛いのに何故反抗するんだ!


「ご主人様・・・やす・・・んで・・・くぁ!・・・はぁはぁ・・・っく」


 余りの痛みに脂汗を流すイリス。

 それでもまだ俺に休むように言いたいそうに、必死な視線を向ける。

 

「・・・わかったよイリス。少し休もう」


「・・・はい・・・ご主人様」


 俺が命令を撤回して休む事を認めたのでイリスの苦痛は治まったようだ。

 地面に向かってへたり込みながらも俺を気遣う様に見る。

 

「何故そんなにしてまで俺を諌めた?」


「それは・・・」


「いいから言って見ろ」


「・・・ご主人様が余りにも痛々しくて、その・・・常に壊れそうなので」


「っはぁ?」


 意外な言葉に変な声が出る。


「あ・・・その・・・無理され過ぎと言うか、ご主人様の本当のお心から、随分と離れた生き方をなさってるのではないかと・・・」


 何だろう?

 何を言っているんだ?


「俺が無理をしているだって?冗談じゃないぞ。俺はまともだ!」


「でも、ご主人様は私を無下に扱われません!口では酷く言われますが実際どんな時にも奴隷である私を人間として扱ってくださいます!」


「そんな事はない!俺はお前を道具にしているじゃないか!」


「そうかも知れません!でも・・・でもあんなに苦しそうなお顔をしていらっしゃいました。ゴブリンの巣で、迷宮で!それに・・・私を見捨てられませんでした!」


 俺が酷い顔をしていただと?

 

「見捨ててしまっては金が勿体無いと思ったからだ」


「それならどうして私を殴らないのですか?どうして私をご主人様の欲望の捌け口になさらないのですか?奴隷は何をされても命令に従うだけです。私に気を使う必要は無い筈です!」


「・・・・・・結局何が言いたい」


「・・・お助けしたいと思ったのです。私と同じように悲しい目をしたご主人様を・・・」


 俺はイリスの言葉に唖然とする。

 そんなに俺は変なのだろうか?

 悲しい目だと?


 確かにこの世界に来てから、ずっと戦ってばかりだ。 

 生きる為に非情にならなければ死んでしまう。

 俺は変ったのか?


 生きる為に、家に帰る為に俺は無理をしていたのだろうか?

 イリスの目は、何時の間にか哀れみが消え優しさが溢れていた。


「奴隷の身でありながら失礼な言葉を申し上げてしまいました・・・でも、どうかお聞き届きください」


 俺はイリスの視線と言葉に、張っていた気が崩された様に感じた。

 肩の力が抜け、崩れるように座り込む。


「そうかもしれないな、ありがとうイリス。少し休むよ」


 無理をしすぎれば必ず失敗する。

 気を引き締めるとこはいいが、切羽詰っては思考も狭くなり見えるものも見えなくなる。

 俺はもう一度、今度は落ち着いて思考を巡らせる。


 『索敵』範囲は広くかなり先まで見渡せる。

 落ち着いて新しくLVが上がった効果をまずは確認する。

 MAP内の点にはLVと名前が見えるようになっていた。


 点を意識すると『鑑定』が働き詳細が見える。

 なるほど、LVMAXだとここまで出来るのか。

 見える範囲内の点を一つ一つ確認する。


 もしイリスが俺を止めなければ、こんな風に状況を確認できなかっただろう。

 イリスには落ち着いたら御礼をしないといけないな。

 そう思いながら、確認作業に戻る。

 一通り確認したが、プレイヤーは存在していない。


「ありがとうイリス。十分に休めた、行こうか」


「はい」


 イリスは俺を見て安心した声を出す。

 『索敵』MAPを頭に浮かばせながらゆっくり歩く。

 新しい反応がある度足を止め、確認していく。


 MAPが町を捉えたところで驚愕した。


「どうされました?」


 イリスがまた心配そうに声をかけてくる。

 MAPには今までにない黒点が現れ、しかもそれは・・・


 【名前】ダイチ・イチミヤ

 【PT】アガーテ(LV22)・エッダ(LV18)

 【LV】31

 【年齢】22才

 【種族】プレイヤー


 個人の姿を見たわけではないので『鑑定』の効果が詳しくは出ない。

 スキル等までは解らないが、そいつは居た。

 種族がプレイヤーと表示されている。

 俺には表示されていなかったはず?

 もしかしてプレイヤー同士の場合はそう見えるのか?


 PKという殺し合いの可能性に緊張が走る。 

 堂々と町に居るという事はPKする側なのだろう。

 

 それに町に居たなら俺の事は知られているかもしれない。

 俺は、今から起こるであろう戦いを想像し心が痛む。


 避けられないのだろうな・・・

 人同士の殺し合いをする事に。

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