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第十話 次郎

 ギルドとは何時から存在していたのだろうか?

 ギルドは何故こんなにも大きな力を持っているのだろうか?

 ギルドは何故国家によりその存在を保証されているのだろうか?


 ギルド長ことザームエル・ブラッハーは、ハヤトを眼前に据え考える。

 60年程前にその存在を疑った事のある者達。

 かつて自分が憧れた存在。


 そして、自信がギルド長になってもたらされた権限【鑑定】。

 ザームエルが【GM】権限により行使できるこの世界の人々が使えないスキルがハヤトを丸裸にする。


 【種族】プレイヤー

 

 やはり見まごう事無い、特異な種族の存在。

 ザームエルは、ギルドの真相を探る手がかりをようやく見つけたと確信した。


 ザームエルがギルドに入ったのは、15歳だった。

 まだ、この世界が希望に満ち、何でも出来ると思込んでいた青二才の頃だ。

 

 始めてみるギルド邸。

 これから立身出世する自分の未来しか見えていない若者には輝いて見えていた。

 高鳴る鼓動に胸を躍らせ、意気揚々と登録しギルドの冒険者となった。


 初依頼は薬草の採取。

 青二才の妄想では、直ぐに討伐依頼で名を上げる事を考えていたが現実は無常だ。

 宿泊する宿代、使用する武具の代金。

 冒険者に必要な物を揃えていくだけでお金が飛んでいく。


 目先のお金が必要な為、無難な依頼をこなすしかない。 

 駆け出しでお金も無かったザームエルは、現実的な所為により地味な依頼をこなしていくのであった。


 丸一年、ザームエルがギルドで燻り続けた。

 もちろん依頼内容もランクが上がって討伐もこなせるようになってはいたが、それでも自ら描いた夢には程遠かった。


 ギルドでその日の依頼金を受け取り、変らない毎日に辟易としていたある日。

 ふと、ギルドの玄関に立つ黒髪黒目の男に目を奪われる。


 この世界には珍しい黒髪黒目もさることながら、その風体に視線が外せない。

 見た事もない黄土色の服。

 全身を覆う布は体に負担がない作りと一目で解る代物だ。

 実に合理的な服装とも言える。


 服には胸元に2対のポケットがあり、折り目正しく襟元までボタンをかけている。

 上着の上からベルトがされ、そこには複数のプシェットのような革鞄がついている。

 更に上品にもお洒落とは思えないそのベルトからは、長身のサーベルが吊り下げられていた。


 足はズボンがより丈夫になったようなものを履き、足元は膝下から包帯のようなものが巻かれている。

 靴は見た事もないような精巧な革靴で、歩くに適した丈夫そうなものだ。


 この世界では絶対に見る事のない格好の男は、警戒しながらもギルドに入ってきた。

 ザームエルやその場に居合わせた者達を一瞥し、ギルドの受付へと足を進める男。


 その姿勢や仕草からは並々ならぬ雰囲気を感じる。

 足運びから指先の動きまで、実に訓練された動きであり戦士そのものである。

 戦う事の為に特化したようなその男に、ギルドは一時静寂に包まれた。


「自分は此処に来るように指示された。此処の説明と何をする施設なのか返答を求める」


 開口一番受け付けに言った彼の言葉は今でも忘れない。

 堅苦しい言葉遣い、しかもお願いしているのか命令しているのか疑問の出る話し方だ。

 受付嬢は唖然としていたが、仕事柄こういった連中の対処をわきまえているのだろう、直ぐに笑顔になってギルドの説明をしだした。


 俺も聞いたであろう説明を受ける男。

 姿勢正しく直立不動で聞きながら、時折相槌を打つ。

 ザームエルたちが見守る中、男は説明に納得し登録を済ませてから受付嬢に質問を投げかける。


「すまぬがこの世界の地図はあるか?」


「いえ・・・大まかなものでしたらありますけど・・・」


「それでいい、見せてくれ」


「かしこまりました」


 誰もが不思議に思う。

 ギルドに来てまず地図を願い出た者なのど居無い。

 地図など見なくとも依頼をこなす上でもあまり必要としないものだから。


 地図を見なくとも、ある程度の方向と目印だけで進むのが普通だ。

 解らなければ道すがら訪ね歩けばいい。

 それ程までにザームエル達の世界では地図の存在が薄いのだ。


 そんな感想を他所に、地図を渡され穴が空くほど睨みつける男。

 受付嬢に現在地を聞き、目を唖然とさせる様が見て取れた。

 男は地図のある一転を指差しその地名を受付嬢に聞く。


「この島が4つ浮かぶ地帯はなんと言う地名だ」


「ええ~っと此方はヤマトといったと思います」


「ヤマト・・・そうか。手間を取らせたな」


「いえ、これくらいでしたら」


 受付嬢の言葉に、自らの意を得たように頷き考え込む男。

 地図を返して受付を後にし、男はギルドを後にして外にでていった。

 

 静まり返っていたギルドは男の退場で喧騒を取り戻す。


「あれなんだったんだ?」


「さー?変った奴だな」


「変な人~気味悪いね~」


 あらゆる男に向けられる感想が飛び交う。

 確かに変った男だった、だがそれ以上に何者か?という疑問を浮かばせる強烈なインパクトもあった。

 だからザームエルは彼を追う。


 何故後を追うような真似をしたのか今では薄れてしまって思い出せない。

 だが、どうしてもあの不思議な男と話してみたいと思ったのだ。

 あの男と話せば何かが起こる、いや何かが変る。

 そんな確信を当時は持っていたのではないかと思っている。


 ギルドを出て、男の背を捜す。

 直ぐに見つけられた。

 この世界から浮いたように場違いな男の姿は、人混みの中でも目立つのだ。


 男に向って走り寄り、背後から声を掛けようとするも・・・

 いざとなると、何を言っていいか考えていなかった事に気づきどうしようかと迷いが生まれた。

 男の後ろを歩きながら、声をかけるタイミングを計りながらも何という言葉が良いか思案していると、男の歩みが止まり、その背にぶつかる。


「自分に何か用か?」


「・・・ッツ」


 背にぶつかったお陰で尻餅をついていたザームエルは、見下ろされる男の目に冷や汗を掻く。

 その目は魔物を退治する冒険者のそれとは違う。

 冒険者の目は威風堂々とし自信に満ちた気迫なのだが、男の目は違う。

 気迫ではなく殺気がみなぎっているのだ。


 その殺気も普通に騎士達が戦う為に纏った威圧するようなものではない。

 明らかに人殺しを生業とする目だ。

 暗殺者の視線に近いのかもしれないが、それよりはもう少し気高く見える。


 ただ、どちらにせよ彼の目は幾人も殺してきた人物が纏うものであり、その視線からザームエルがいとも簡単に殺すことが出来る自信に満ちたものだった。


「用が無いなら追うな」


 短く要件を伝える言葉にも他者を屈服さすに値する力が篭っている。


「・・・あの・・・俺は・・・」


 要領を得ない言葉しか出ない。

 男に何を言いに来たのか?なぜ追いかけたのか自問自答に陥る。

 踵を返し男はザームエルから離れていこうとする。


 咄嗟だった。

 ザームエルは自分でも思っていなかった言葉を発していた。


「弟子に・・・弟子にしてください!」


 これが男とザームエルの出会いである。

 後にザームエルに男は名乗りを上げる。

 男の名は『ジロウ・マキムラ』この世界で始めて出会った【プレイヤー】でもあった。


 それから紆余曲折してジロウと共に冒険者の道を歩むザームエルだったが、弟子になる事は容易ではなかった。

 なにせジロウは堅い人物で、ザームエルを受け入れるどころか回りの人間とも壁を作っていたからだ。

 それでも必死の嘆願とジロウの耳寄りな情報をもたらす事で、次第に打ち解けていき弟子の地位を確立した。


 やがて、ジロウとパーティメンバーとなり、ギルドの依頼をこなす様になる。

 言葉も話せ字も読めるのに、どういった訳かこの世界の常識を知らない。

 だから自然とザームエルは、ジロウの良き相棒となっていくのだ。


 ジロウと共にパーティーを組み改めて思い知る現実。

 依頼をこなすうちに彼の優秀さが、ザームエルの目にも焼き付く。

 特にその剣技は素晴らしく、対人型モンスターには絶対の威力を発揮していた。


 亜人種、それは姿形が違うだけで人と同じく思考する生き物。

 故にジロウの剣は、相手を倒す事に特化している為、面白いように効く。


「ジロウ、その剣技は何処で習った何と言うモノなんですか?」


「これは祖国の剣技で『北辰一刀流』という。道場で学んだ」


「私にも使えるでしょうか?ホックシンイトーリュウは」


「教えよう」


「ありがとうございます!」


 相変わらず短い受け答えだが、ジロウが質問に丁寧に答えてくれる事が嬉しい。

 それにジロウの技を伝授される事が、ザームエルには誇らしかった。

 そして、ジロウに教えを請う日々が続いた。


 ザームエルは次郎と共に過ごすうちに少しずつ彼の素性に近付いていく。

 ジロウの祖国は、この世界では聞いたことも無い『ニッポン』という国らしい。

 彼の国は戦争をしていたらしく、どうにか故郷に帰り、お国の為に戻りたいのだとも言っていた。


 ジロウは『ニッポン』で『ゴチョウ』と呼ばれていたと言う。

 『リクグン』とかいう集団で『ハンチョウ』なる存在だったらしい。

 ザームエルにはチンプンカンプンな名称をジロウはこの世界に習って言い直してくれもした。


 この世界で言えば、騎士団における小隊長のようなもので、若干勝手が違う為説明が難しいという。

 騎士のように戦うが騎士ほどの地位は無く、かといって従騎士の様に世話係でもない。

 傭兵のように自由でもなく、見習い騎士のように一兵卒でもない。

 ただ、幾人か率いて先頭に立って戦う立場と姿から小隊長が妥当だろうということだ。


 そうして、日々の生活の為に金を稼ぎ、余ったお金でジロの祖国に帰る手段を探す。

 情報収集もまたザームエルの仕事になっていた。


 『ニッポン』に繋がる情報は殆ど無い。

 だからこそジロウは『ヤマト』の情報に非常に興味を持つ。

 此処からだと行く事も見る事も無い果ての果ての国。

 その国の情報をあらゆる方面からかき集める。


 集めた情報をまとめジロウに渡すと、暫く食い入るように読みふけり考える。

 ザーウエルはそんな彼の姿に、不安を覚え始めていた。


 ジロウに付き従う内に、自分でも考えられない位成長している事を実感している。

 剣技の上達はもちろん、戦闘での心構えから相手の動きを見る思考。

 隙の無い物腰から来るギルド内での立ち回りは、必然的に彼を畏怖する空気を作り出す。

 会話も短いが的を得ていて、それでいながら真実は隠す。

 虚実入り混じったやり取りは、ザームエルの目指すべき冒険者の資質に見えたのだ。

 それらを間近で見続け、更に教えられるものは全て自らの成長に帰って生きている。


 咄嗟にでた弟子発言から始まった関係だが、今では本当に尊敬する師匠となったジロウ。

 彼がザームエルの知らない世界にいって、師事出来なくなる事が怖くなっていたのだ。


 一刻も早く願いを叶え祖国に返してあげたいと思う気持ちと、師事出来なくなる不安がせめぎ合う。

 それでも無常に過ぎ去るのが時間と言うもの。

 何時の間にかジロウと過ごして3ヶ月がたとうという頃、彼らの目の前に新たなる人物が現れた。

 

 それこそがザームエルの知るもう1人の【プレイヤー】であり、彼がギルドへの疑問を抱く事になった人物。

 ソウイチロウ・アイザワの登場である。

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