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後知恵なら何でも言えるけど

 もしあの時、こうしていたら……

 誰にもある「後悔」を生む瞬間。個人だけでなく、歴史にもあります。


 「クレオパトラの鼻が1インチ低かったら」と言うのは有名な「IF」ですが、特に戦争に絡む人物の歴史には、そんな場面のオンパレードです。


 もし、アレクサンドロス大王が水浴を止めて高熱を発しなかったら……

 もし、大スキピオがカンナエで戦死していたら……

 もし、アッティラが結婚式で酒を飲み過ぎなかったら……

 もし、カール大帝の弟が長生きしていたら……

 もし、チンギス・カンの父イェスゲイが急死しなかったら……

 もし、ナポレオンがトゥーロン攻囲で戦死していたら……

 などなど。

 

 歴史好きでない限り、こんな「If」は全く意味がありません、が、私を含め好きな人は好きなんです!(キッパリ)

 ということで、古今東西、「もしXXだったら歴史はこうなっていただろう」というIf小説=歴史改変シュミレーション小説が次から次へと生まれます。


 そして、この「歴史改変」は戦史にも及びます。これは何も娯楽小説の一派としてのIf小説、またはタイムマシンが絡むSF小説の話ばかりでなく、軍事研究の一つとして盛んに行われました。どこで?もちろん各国の軍隊で、です。


 兵棋演習(へいぎえんしゅう)というものがあります。乱暴に言ってしまえば字面の通り「軍人将棋」の大掛かりなもの、と思って構いませんが、大真面目に現代の軍隊も行うレッキとした軍事訓練の一種です。

 大がかりなものでは数日間に及ぶこの演習、机上演習とも呼ばれる通り巨大な戦場の地図を広げ、その地図をヘクス(六角形)と呼ばれるマス目で区切ります。このマス目に「駒」を置き、細かい設定、統計と確率に裏打ちされたルールブックに従って図上で「戦闘」を進めるのです。


 ここでは実際の地図を使用する場合がほとんどで、指揮官の作戦戦術能力向上や作戦術の効果確認などのために行いますが、過去の戦史に従って高名な戦闘を再現する「再現演習」というものもあります。


 これが正しく「もし、あの時にこうしていれば」の軍隊版で、負けた戦いの「反省会」として行ったり、逆に勝った戦いを「勝って兜の緒を締めよ」とばかりになぞって、勝ち方を復習するというものです。

 そしてこれがゲームとして一般に普及したものが「ウォー・シュミレーション・ゲーム」と呼ばれる一種のボードゲームで、ミリオタさんなら一度は目にしたりやってみたと言う方が多いでしょうね。


 さて、「小説家になろう」でも盛んな「If小説」ですが、いわばこれも歴史を下敷きにした「二次小説」と言えるものでしょう。

 特に戦争を題材とした「If小説」は盛んで、一時期のブームは去ったものの、未だに書店の一角を占める人気ジャンルになっているようです。

 

 しかし、中には噴飯ものの「トンデモ」本もあったりします。これも趣味の世界なので批判は避けたいところなんですが、先にも言いましたように歴史の「二次」である以上、「元」となった歴史や人物に対し、一定の「敬意」を払って書くべきではないかな、と思うのです。


 軍事的に見て私が眉をしかめる戦争If小説としては、


1;架空(創造上)の人物が戦争をメチャクチャにするパターン

 未来や異世界からチートな能力者がやって来て史実を書き替えてしまう、または史上の人物を抹殺し戦争の結果を変えてしまう。もっと凄いのは、この時代に生まれた架空の人物が「軍事天才」でハンニバルとナポレオンとモルトケを足して三倍にしたくらいのトンデモ人物だったり。

 他にも、現代の兵器を過去に持ち込んで勝敗を変える「戦国自衛隊」や「ジパング」のパターン。娯楽としては一級かもしれませんし、過去へタイムスリップした人々がどう対応するか、という普遍的SFテーマなんですが、軍事的に見た場合、こいつはOUT。白けます。


2;完成出来るはずのない新兵器が完成している

 幻の巨砲搭載の戦艦や、超重ジェット爆撃機、殺人レーザー光線など当時の技術では完成するはずのない新兵器の数々が続々登場、敵をバッタバッタとなぎ倒す。兵器オタさんの夢実現ですが、この手の小説は色々な部分を省略して矛盾が生じていたり、金銭や諸材料や加工技術などが「オオバケ」していたりする場合が多く、軍事的にはOUT。


3;特定の人物を持ち上げるパターン

 史上有名な人物を勝たせるために、かなり無理をするパターン。戦争は国を挙げての一大事業なので、いくら天才でも一人二人では戦史は変えられないでしょうに。この手の小説は、その人物愛故に、性格や背景を無視してスーパーマン(又はスーパーウーマン)になってしまう怖れがありそう。


 さて、この歴史改変シュミレーション小説を得意とする作家さんにウォーゲーム製作者上がりの佐藤大輔氏がいます。彼の主張する「If小説」の手法は私が今まで見て来た「歴史改変もの」の中で最も筋が通るものだと思うので、彼の手法に沿ってご紹介しましょう。


 まず、負けたはずの国家を勝たせる、という「戦争If小説」を書く場合、その国家が敗れた「戦闘」そのものに手を加えるのでなく、そのずっと以前、その国家が戦争に勝つために必要な「スキル」を得るために歴史を作り替え、また、戦争に負ける遠因となった「病巣」を取り去る改変を行う、というものです。


 一例として、佐藤氏の代表作のひとつ「レッドサン・ブラッククロス」では、日本が第二次大戦に参戦せず、やがてドイツと戦うという歴史改変小説ですが、この日本が第二次大戦で戦わないため、日露戦争で陸軍を大敗させて乃木大将を自決させ(但し日本海海戦は史実通り大勝)、日本が大陸や朝鮮半島に進出出来なくし、軍事進出より貿易立国で産業や国力を高め、比例して教育水準や中産階級の発言力を高めて日本が小型の米国並みの先進国になる、という筋書きを示します。逆に米国の力を弱め、ドイツを強くしてドイツが第二次大戦に勝利し、北米にまで上陸するという改変も行います。


 つまり、日本がヘタクソな二十世紀前半を歩む構造を根本から作り変えるもので、それは軍事部分だけでなく、社会構造や日本人の精神論まで作り変えると言う大掛かりな手法です。


 例えば、よくあるIf小説は、

 真珠湾攻撃で乾ドックや石油備蓄タンクを攻撃し破壊する(史実ではほとんど無傷で米海軍の復活を助けた)、とか、ミッドウェイ海戦で空母における攻撃機の爆弾換装を止め、直ちに攻撃隊を発進させる(史実では換装により時間が費やされ米軍機に奇襲され空母が撃沈される)、とか、インド洋作戦を強力に推進してインドを孤立させる、とか、ダガルカナルやポートモレスビーを攻撃しない、等々、戦闘そのものを都合のよい方に変えるだけ、若しくは指揮官や首相などを「抹殺」するだけで社会そのものには手を付けないケースが多いものです。


 佐藤氏の手法はそういう小手先の改変を否定し、先程のように社会構造に変革が起きる様なポイントを狙い、そこを変えることで歴史を変え、必然的に戦争の結果も変わってしまう、というものです。


 どうですか?

 繰り返しますが、趣味の世界に耽溺するIf小説も娯楽の一種なので、否定はしませんが、やはり私は「If小説」はきちんと「筋の通った」ものが読みたい、そう思います。



ある読者の方からDM頂きました。

この一項は、あくまで作者の主観に基く「趣味」的な考えであり、歴史改変シュミレーション小説を否定するものではありません。

 やっぱりミリオタさんにとって「マウス」が動き「富嶽」が飛び戦艦「紀伊」「尾張」の51cm砲が火を噴く光景はワクワクするものなのですから。

 批判に聞こえたら申し訳なく。繰り返しますが、趣味に関しては否定など出来る筈はありませんから。


*その後、佐藤大輔氏がお亡くなりになりました。(2017.3)改めましてご冥福をお祈りします。

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姉妹作品「プロシア参謀本部」編はこちら↓クリック!
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