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閑話・戦史を紐解きながら思うこと

※この一節は「プロシア参謀本部」がまだこちらに入っていた時に書かれたものです。そのまま残しますので、初読の方には内容に不明となる部分がありますがお許しください。


 ここでちょっと一休み、と言うか、お話したいことがあります。本当は「活動報告」に書けばよろしいのでしょうが、これ、一応エッセイなんで、本編に書かせて頂きます。


 作者は自称「エセ・ミリオタ」で通しております。と言うのは、「ミリオタ」さんという「称号」とは作者程度のレベルではなく、もっとハイレベルな方々にこそ与えられるべき、と考えているからであります。


 私の学生時代の知人で、同じ「軍事臭」がする方と図書館で(当時ネットは普及しておりません・歳バレですが)海外のミリタリー図録を見ていた時、「ポーランドの戦場で食事をするヒトラー(手前に総統護衛大隊長のロンメル少将が見える)」と言う写真を見た時。

 私の感想「へー、総統でも野戦では兵士たちと同じ野戦食を食べていたんだ。宣伝臭いな」

 彼の感想「うーん。このトラック、オペル・ブリッツだね、3tのやつ。この野戦厨房車タイプ、まっすぐに伸びた炊事煙突がいいんだよねえ~」


 ……「本物」は相当なものなのです。敵わないと思ったあの時から私は「エセ」を名乗っております。


 さて、この「ミリオタでなくても軍事がわかる講座」は、最近の竹島、尖閣の離島国境問題でにわかに「軍事」が注目され出した事に対して、どうも軍隊や軍事を勘違いされている方々や、やたら煽るマスコミに対して「どーもなあ……」と思った筆者が「簡単に」軍事を語ってみようと思って書き出したものです。


 最初の意気込みはどこへやら、ご指摘されたように最近は「プロイセン王国戦記」になってしまっている、しかも章を追う毎に「ミリオタ」レベルが上がって眉を顰める方々が続出……申し訳なく、ここで謝ってしまいます。ごめんなさい。


 これは、モルトケを調べている内に、モルトケやビスマルクに関してはガンガン調べられるのに、その彼らが関連したドイツ統一の過程、特に普墺戦争に関する資料が少なかったことで、調べている内に深みにはまってしまい……つまりは面白くなっちゃったんですよね、書くのが。どちらかと言うと自分は「戦史オタ」なのだと思います。


 戦争の歴史を追って見ると、全く同じような戦いの、同じような成功と、同じような失敗が、次々と繰り返し現れて来ます。

 それが10世紀と15世紀が同じ失敗を繰り返していたり、酷い場合は紀元前の戦いが千年後の戦いでも同じ形で繰り返されたり。つまり、人間は何にも学んでいない、成長していない。戦史が研究される様になる以前なら、それも仕方がないか、とも思いますが、研究され反省したはずの20世紀の軍隊まで、つい20年位前の戦いにおける失敗をなぞったりしています。


 一番ひどいのは旧日本軍ですが、この「日本軍の失敗」の具体例に関しては、著名な学者からアマチュアの研究者の方々まで色々な評論と研究がありますので、ここではあまり言及しません。

 この、人間が、軍隊が、全く過去の反省を糧にしない、という事実が戦争の愚かさでもあるのか、と思います。

 そして、その大きな理由が「自分たちは相手より優れていて、過ちはあり得ない」という過信と、何か不都合が発生した時の「これは想定外の事態だったので」という責任逃れだと思うのです。


 何より、私が最近の「普墺戦争」編で参考にしているのが旧日本陸軍の陸軍大学校用の教科書だということ。明治から大正にかけての日本陸軍大学校で教材に使われたこの戦史。愚かな総指揮官と、敵の圧倒的な新兵器(ドライゼ銃やクルップ砲)・新方式(電信・鉄道)を前に愚直な攻撃(銃剣突撃)を繰り返すしかない下級指揮官と兵士たち。

 この教本は、昭和の軍隊で参謀となり指揮官となったエリートも学んだものなのです。

 これだけ繰り返し描かれた戦闘から、彼らは一体何を学んだのでしょうか。


 そして今。

 別の面で恐ろしいことが日本にはある気がしてなりません。


 それは「平和」という名前の危うい「虚構」と「幸運」に、余りにも慣れ切って、余りにも寄り掛かり過ぎている、ということです。


 何度でも言いますが、人間は愚かなので、一つ間違うだけで戦い始めてしまいます。

この「一つ」も間違わないことで戦いが回避されていることを忘れてはなりません。


 余りにも前の戦争が愚かな行為だったので、その反動か、戦後の日本は極端に軍事に関してマイナスイメージを描いて来ました。国防という政治の中でも重要なパーツは、ほとんどアメリカの傘(核と海軍・海兵隊)の下にいることで満足していました。


 とは言うものの、日本はアメリカの属国ではありません。中立国でもありません。中立国とは、最初からホールドアップをする、ここを攻めても何の得にもならない小国か、攻めたら痛い思いをする強軍国か、どちらかしかありません。日本はどちらでもなく、なろうとしても、地理的・政治的にどちらにもなれないのです。


 ですから、軍隊ではない自衛隊があります。

 そのネガティブが多い環境で、今の規模での自衛隊が維持出来ていることは重要な事です。もし自衛隊が単なる保安隊のまま、戦闘機もなく、イージス艦もなく、正面戦闘力が5万人程度だったとしたら……この「不安」は分からない人には分からないものでしょう。


 自衛隊すらいらないとする人たちの事は『戦闘の原則まとめ・「戦闘ドクトリン」って何?』でお話ししましたから繰り返しません。軍隊なんかいらない、という人たちについても、です。


 ただ、これだけは言いたい。今まで聞いた反戦話のなかで、最も愚かで、最も恐ろしく、最も善意に溢れていたのは、ある老女の話でした。


 その人は、ある有名な「芸能の達人」の奥さんです。

 それは随分前のテレビの番組でした。

 彼女は「前の戦争」で空襲を経験し、そこで家族を失いました。その地獄を味わい、奇跡的に生還したのだそうです。その方が自衛隊の元・統合幕僚長(昔なら参謀総長の地位です)や軍事評論家、政治評論家で右翼の論客を自認される方、そして外国生まれで日本に帰化し「大陸」に注意せよ、と警告する女性、そういう「軍隊を容認する論客」を前に憲法九条と反戦・平和を訴えるのです。


 ハッキリ言ってその論旨はメチャクチャで、軍隊容認を文字通り理論武装で唱える論客を論破出来る筈はないのです。


 彼女いわく、

「戦争は絶対だめ、あんな恐ろしいことは二度と起こしてはいけない。戦争は人を不幸にするだけで、何一つ解決しない。人はあんな恐ろしいことをやってはいけない。だから憲法九条は守らなくてはならないし、軍隊は持ってはいけない。全ては軍隊のないところで、話し合いで解決しなくてはならない」


 一見、正しい。けれど、悲しいかな、彼女の論旨には、人はなぜ「戦争」を行うのか、という考察や、軍隊を持つことの「意味」が抜け落ちています。そこには、「戦争=悪」しかない。何故戦争が起きたのか、日本が何故ああいう「不幸」な歴史を歩んだのか、という検証がない。


 そこには、軍隊とか戦争とかを考えるだけでも「悪」という信念の様なものが見られたのです。


 軍隊容認の方々は寄ってたかって彼女を「攻撃」しました。

 しかし、もう、誰がどう言おうと彼女は揺るぎないのです。何故なら、それは軍隊容認派と違い「正論」だからです。


 誰もが、とは言いませんが、ほとんどの人は「戦争は起こしてはならない」と思っていることでしょう。それは「悲劇」を経験した日本人なら感じるであろう「根源」であり「正論」です。


 「戦争はだめ」を反論出来ません。だめ、なものはだめなのですから。

 しかし、戦争がだめ、なら「軍隊」もだめ、と言うのはハッキリ言って「極論」です。


 軍隊が戦争を起こす、と言う「極論」が今の日本でまかり通るのは、軍隊の本質を旧軍が酷く歪めたからです。それは今私が語っている「プロシア参謀本部」から生まれた「参謀最強伝説」、軍の秀才たちの傲慢な暴走のせいでした。


 日本陸軍と日本海軍は、あの時代に生きた市井の人々にそれは酷いイメージを植え付けてしまいました。

 それは戦争前の10年間に国民を戦争へ誘うように煽ったマスコミ、そして戦後、掌を返したように反戦を謳ったマスコミにも責任があります。

 そして軍の暴走を阻止出来ず、政争ばかりを繰り返していた政治家たち、最終的には大政翼賛会という迎合ご都合団体に成り下がった国会にもその責任の一端があるでしょう。


 本当なら、軍隊だけでは戦争など起きません。そこに政治がない限り、軍隊とは単なる「執行機関」です。軍隊が政治を凌駕する、プロシア型参謀本部の存在が軍に政治を呼び込み、旧軍を悪役に落としめたのでした。


 旧軍の悪口ばかりになってしまいました。


 反戦と平和を唱える方々の全てとは言いませんが、この老女の様に生理的に軍隊は受け付けないかのような考え方で反戦を訴える人がいることは確かです。

 それは戦争は嫌、平和がいいけれど自らの手は汚さないで、汗もかかず、血も流さずに「楽に」今の平和な生活を守りたい、と言う事です。

 何かがおかしいと思う私はおかしいのでしょうか?


 普墺戦争をなぞりながら、どうしても思い浮かんでしまったことを書いてしまいました。

 次からは、また、その戦争の行く末を追って見たいと思います。


 同じような話ばかりで退屈とは思いますが、お付き合い頂けたら幸いです。



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姉妹作品「プロシア参謀本部」編はこちら↓クリック!
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