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βテスト3日目
とうとうβテスト最後の日。3日目が始まった。
真一は学校に来て「家族で旅行行ってました♪」と元気に話していた。元気そうで何よりだ。真一に昨日知り合った子と狩してるんだけど一緒にやらね? と聞くと快くOKしてくれた。
俺は昨日ログアウトした休憩地で降り立つ。
「真一を迎えにいかねぇとな」
真一とキリノはフレンド登録してあるため居場所がマップに表示されるようになっている。なかなか便利な機能だ。
キリノは俺と居る。街に帰還する際ヒールなしで一人では流石にきついからだ。
真一は街の噴水広場に表示されている。俺は「内緒話」モードで真一にチャットを飛ばした。
『真一、20分待ってくれれば町に着くから噴水広場にいてくれ』
『了解だ! 全然待てるぜ!』
『ありがとな。じゃぁ出発するからチャットは中断!』
『OK』
チャットを終えた俺は立ち上がりキリノに出発を告げた。
俺とキリノはうじゃうじゃといる毒虫やら動く木を倒しまくっていた。
――そう……。出発してから12分後俺たちはモンスターハウスに入ってしまったのだ。
モンスターの数は前の時の3倍以上だ。木が取り囲み、伸びる枝で道を塞いでいる。モンスターハウスは基本全モンスターを倒すまで抜けられないのだ。
「クッ……! 数が多いな……!」
いくら適正LVを越えててもこの数を一挙に相手にするのはきつい。
「頑張りましょう……! 今の私達なら突破できます!」
キリノも必死で応戦しているがかなり辛そうだ。
「そうだな……!」
俺は目の前に現れる毒虫3体を同時に切り裂く。
グシャァ!
その音とともに毒虫から血が飛び散る。
ドガッ!
近くからも敵を殴る音が聞こえてくる。
5分程応戦すると優勢だった敵も次第に衰え始めてくる。
「一気に行こう……! キリノは支援してくれ! 《英雄の証》!!」
俺の周囲に黄色の気がまとわりついてくる。
英雄の証。それは、あのレアモンスターから出てきたアイテムだ。英雄の証は自分の持つ1つのスキルと特殊スキルを交換するというものだ。特殊スキルは交換した元のスキルの効果が反映されておりそれがさらに強力になっているのだ。効果は攻撃、防御含むステータス全てを2倍するというものだ。防御は前回のスキルでは0になっていたが今回はそこが変わり元の2倍されるらしい。すごいスキルだ……。
俺は前方の敵に向かって走り込み強烈な一撃を加える。
グゥァァァァ!!
前方の敵はその一撃によりHPバーが消滅し結晶となり消えていった。
今の俺にはこの程度の敵は軽いもんだ。
「《英雄の証》!!」
後方からキリノの声が聞こえる。
その1秒後広範囲に渡って魔法陣が描かれる。
2秒ほどで魔法陣が描かれると光り輝き始めた。そして……
ギュイイン!!!!!
魔法陣から空に向かって白光の柱がたつ。その光は5秒ほど続いた。5秒後には敵の姿は跡形もなく消え去っていた。
「すげぇな……」
キリノが英雄の証を使ったスキルはLV10で覚えられる《シャイニング》というスキルだ。シャイニングでは司祭の数少ない攻撃系スキルの中の一つだ。光の柱で敵を消滅させるかなり狭い範囲だったが英雄の証の使用により広範囲になりさらに攻撃力もアップしている。本当に恐ろしい技だ……。
「そんなこと……ないです……えへへ……」
頬を赤く染め照れ笑いをする。
「とりあえず急いで真一を迎えに行こう! 残り時間が少ない。」
「そうですね!」
俺たちは何とか10分オーバーで到着した。途中の道でモンスターハウスに入ってしまいまた難攻していたからだ。
「だいぶ遅れちまったな……」
「そうですね……」
そう言っていた時……。
俺の後ろの転移門から誰か入ってきた。あの姿格好は……真一!
「おい……! SHINさん……何していらしたのですか……?」
俺はまだ俺たちの事に気づかないSHINこと真一に突然話しかける。
真一はビクッとして「な、なに!!」と驚きの表情で俺を見た後、近くにいるキリノを見ていきなり「俺と結婚しよう」と言いだしたので、慌てだすキリノを助けるため「すまんな……俺が結婚するんだ」と冗談で言ってみるとキリノが赤面しさっきに増して慌てだした。一体どうしたんだ?
「まぁ冗談はこれぐらいにしてさ。俺たちは今着いたところなんだ。お前は外で一体何してたんだ?」
「ドングリ狩ってたんだがちょうどLVアップしてな。それで帰ってきたんだ」
「なぜ?」
「なぜって、だからLVアップしたから戻ってきたんだよ!」
「いやそこじゃないんだ。なぜドングリ狩りに行ってたんだ? 必死の思いでモンスターハウスを抜け出しここまでやってきたのに君は噴水で待てないのかい?」
「遅かったからつい……」
「せっかく俺たちの防具買うついでに真一のも買ってやろうと思ってたのに、買ってやらねぇからな!」
「すまんすまん! 許してくれ! 土下座するから! だから防具買ってくれ!」
「嘘だ。買ってやるよ心配すんな」
「おぉ!! 心の友よ!!」
俺たちは街のNPC防具屋で防具調達し昨日の狩場に向かうことにした。
「真一ついてこれるか?」
俺たちにLVの低い真一がついてこれる保証はない。途中で毒虫のフルボッコにされるかもしれないし木の枝に捕まってモンスターハウスに連れ込まれる可能性だってあり得るわけだ。その時は助けようがない。
「あぁ任せとけ! キリノちゃんに守ってもらうさっ!」
「おま……男が守ってもらうとか……きゃー恥ずかしい!」
「うるせぇ!」
「まぁいい。キリノすまんが守ってやれ。いいか?」
俺はよそ見をしているキリノに話しかける。
「…………」
返答がない……。
「おいっ! キリノ! ゾンビ風のおっちゃんが近づいてきたぞ!」
「えッ!!」
キリノはビクッと振り返り周りを見渡す。
「いないじゃないですかぁ! トールさんのえっちぃ……」
いやいやいや!! なんでえっちになるの!?
「まぁいいとして守れるか?」
「………………」
「おいッ! キリノ!」
「……………………」
「お~い! キリノさ~ん!」
「ハッ!」
ビクッとしてこちらを向いた。
「何見てたんだ?」
「いえ……。このゲームでもおしゃれってできるんだなぁ……って……」
キリノの見つめる先にはいかにも現代風と言う雰囲気を漂わせてる姿をした女性男性が歩いている。NPC服屋というのがありそこで買えるのだろう。噂では一番安いものが今の限界だという。MOBからもドロップするらしいがまだ出たことはない。超レアドロップ品だろうな。
だが、このままではキリノが動きそうにないな……。しょうがない……。買ってやるか。
「買ってやろうか?」
「えっ……?」
頬をポッと赤く染める。
「いいんですか……? 噂では高いと聞きますよ?」
「いいさいいさ! さっさと服屋に行こうぜ!」
「ありがとうございます! トールさん!」
キリノは丁寧にお辞儀をした。
俺たちは服屋に向かうのだった。
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