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 バラ前に俺がついたときには既に数人のプレイヤーが待っていた。きっと『市』の取引役のプレイヤーだ。

「待たせたな」

 1人の男にそう言う。

「おせぇよぉ。何分待ったと思ってんだぁ?」

 男が不良染みた口調で言う。男の名前は【坂でコロンダ】。男はその名前を覆すかのような重装甲を身に着け腰には長剣を差している。剣の腹には十字が描かれている。あの剣には見覚えがある。あれは『十字聖剣』という通常(ノーマル)素材で作れる最強の剣だ。聖属性付属の対悪魔系武器である。普通のとは違い剣が薄く黄色に光っていることから電気属性を付け加えたことが分かる。

 それにしても、口が悪い。買い手へ対する口のきき方なのか? 現実世界のファミレスならば確実にクレームを送っているだろう。

「約束の物はあるのか?」

「あぁ、あるぜぇ」

 男はそう言ってアイテムBOXか延命の花を具現化する。1つに見えるが端の方に「×5」と表示してあるので数は間違いないようだ。

 トレード方式が直接の手渡しぐらいしかないのがこの世界の悪いところである。具現化したものはドロップアイテム扱いになる。そのため犯罪者による盗みが横行している。

「さっさと金だせやぁ」

 俺は頷き、アイテムBOXから5万Nを具現化しようとした、

 ――その時――

「何しやがるんだ!」

 フーデッドローブを被った謎のプレイヤーが坂でコロンダの手にあった花を強引に奪い取ったのだ。そのまま走り抜け北の方――つまり、門の方に走って行った。

 俺は瞬時に反応し、追跡の体制をとる。

「追うぞ」

 そう言い放ち謎のプレイヤーの後を追った。あのプレイヤーの敏捷力はなかなかの物だろう。だが、軽装な俺もかなり敏捷力を誇っている。

 後ろから坂でコロンダが追ってくる。彼もかなり敏捷力で軽装の俺にぎりぎりついてこれるぐらいの速さだ。

 謎のプレイヤーはやはり門に向かっていたらしい。門に向かって突進して郊外の森に移動した。俺と『市』のプレイヤーも同じく門に突進して森に出た。

 まだ走る謎のプレイヤー。町からはどんどんと離れていく。かなり離れた所で謎のプレイヤーは止まった。なぜ名前が分からないのか。それは、名前を隠す特殊効果の付いたフーデッドローブを使っていたからだ。

「その花を返してもらおうか」

 俺は数メートル離れたそのプレイヤーに向かって言う。

「そりゃあぁできねえぇ相談だなあぁぁ!」

 近くの草むらから出てきたのは名前が赤く光るプレイヤー――犯罪者だった。それに続いてプレイヤーが出てくる。数にして10人。

「10人か。それで俺に勝てると思っているのか?」

 俺は恐怖感を隠しながらも強気な口調で言う。俺が腰にある剣に手を掛けたとき。

「それが勝てるんだよなぁ?」

 その声は後ろから響いた。首に押し付けられる薄く黄色に光る剣、それは紛れもない、今まで俺が交渉していた『市』のプレイヤー【坂でコロンダ】の物だった。

「どういうことだ……?」

 俺が問うと剣を首から離した。

「こういうことなんだよおぉぉ!」

 俺はその声があがるとともに剣を抜き後ろを向いた。そこには、5人の犯罪者プレイヤーがいた。その犯罪者プレイヤーが【坂でコロンダ】についてきた『市』の2人のプレイヤーを取り押さえている。

「何をするきだ!」

 俺は声を張り上げる。

「見とけば分かるさあぁぁぁぁ! キャッハアァァァァァァァァ」

 坂でコロンダは大きく剣を振り上げ、そして振り下ろした。

 長剣は1人のプレイヤーの首に振り下ろされそして、切り裂いた。首が地面を転がり、やがてそのプレイヤーの体と切り離された首は消滅した。

 それと同時に俺の体は羽交い絞めのような形で後ろから捕まれて何もできない形になっていた。

「ヒャッハアァァァァァ」

 剣を振り上げる。

「やめろおぉぉぉぉ!」

「やめてくれぇ! 殺さないでくれぇぇぇ!」

 その叫びは空しく森に響いた。坂でコロンダが長剣を振り下ろす。

 また1つ首が地面に転がる。そして消滅する。

「キヒヒヒヒ。キャッハハハハハハハハハ!」

 その不適な笑いが森を震撼させた。

「安心しろぉ。お前にはあんなことはしねぇよ。お前強いんだろおぉぉ! だからさぁ。ゆっくり戦って殺してやるんだよおぉぉ」

 後ろから坂でコロンダと似た喋り方をする奴が笑いながら言う。それと同時に俺は束縛から解放される。

 すぐさま移動して木を背にして剣を構える。

「なんでこんなことしたんだ……!」

「そんなの知らなくてもいいだろぉ? どうせここで死ぬのだからなあぁぁぁ!」

 犯罪者プレイヤーが一斉に武器を構える。

「あの2人のプレイヤーの仇……! 絶対とるからな……!」

 剣を強く握りしめそして犯罪者の集団に飛び掛かった。


 俺が最初に狙ったのは前衛の後ろで呪文の詠唱を魔術師だった。魔術師は3人。俺は、素早く移動し前衛を通り抜けて魔術師に突撃をかけた。突き出した剣は無防備である腹を貫いた。

「うがあぁぁぁ!」

 叫び声をあげて地面に転がりまわる。のた打ち回っている魔術師の腹から剣を引き抜き、≪スラッシュブレイド≫を放つ。

 巨剣は残りの2人の魔術師の腹を直撃し、鮮血を飛び散らせた。

 魔術師はもう使い物にならないだろう。HPの9割を一気に減らしているので10分は痛みが取れない。たぶん人の手を借りないと立つこともままならないだろう。だが、これで良いんだ。殺すつもりはない。瀕死になってさえくれればいいんだ。そう思っていた。俺は背中に刺さる強烈な殺気を受け振り返る。そこには、狂ったとしか言いようがない、悪魔のような顔をした犯罪者が武器を構えていた。

「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ! 全員突撃!」

 坂でコロンダが叫んだ時、犯罪者集団の少し後ろの方で2つの人影が見えた。

「キャアァァァァァァ!」

 そこには2人の女性プレイヤーがいた。俺が犯罪者に囲まれているところを見て悲鳴を上げたのだろう。だが、これは彼女達の「死」を意味していた。

「何だ~? 糞尼がぁぁぁぁぁぁぁ! 殺せえぇぇぇぇぇ」

「逃げろ、今すぐ逃げろ!」

 俺は叫ぶが、もう遅かった。女性プレイヤーの周りを数人の犯罪者が囲んでいる。

「いや、いやあぁぁぁ!」

 鈍い音が倒れ女性プレイヤーは地面に仰向けに倒れ、目からは生気が感じられなかった。

 もう嫌だ……。もう嫌だ……。こんなの……。

 その時頭の中で何かが切れる音がした。理性を失っていた。

体が勝手に動き、俺は犯罪者集団に突撃していた。

「うおぉぉぉ!」

 其処からは何も覚えていない。盾をアイテムBOXに収めそれから無造作に剣を振り回した。命乞いした敵を切り刻んだかもしれないし、首を切り裂いたかもしれない。ロボットが暴走したかのごとく剣を何の当てもなく振り回した。

 気が付いたらそこは地獄絵図だった。

 HPバーが消滅しているプレイヤーが次々に四散し、瀕死になったプレイヤーも地面に倒れている。俺の剣には、体を切ったときについた血がべったり付着している。俺の漆黒のコートには大量の返り血が付いている。俺がつけていた手袋は血で赤く染まっている。

「お前が……やったんだぜぇ……。お前も……犯罪者の……仲間入りだなぁ……」

 地面に転がっていた坂でコロンダは苦しそうに悶えながらもそう俺に吐き捨てて、体を四散させた。

「俺が……殺した……」

 理解できなかった。何もかもが嘘だったと信じ込んでいた。

「俺は……」

 地面に転がる、金袋と装備を見下ろした。

 恐怖感が舞い込んできた。逃げてしまいたい。一層俺も死んでしまいたいぐらい。そんな恐怖感に襲われた。

「俺は……」

 そう呟くことしか出来なかった。ただその場に立ち尽くしていた。



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