15
10時40分には先鋒の約400人の軍団がユンノーシを発った。そして11時。本隊の出征時刻だ。
今回のクナシリア攻略戦では真正面から突撃するというものではない。作戦は、ギルドが作った投石機を使い城壁を壊して神殿の場所を確認の後、神殿を確保するというものだ。神殿には軽装戦士と支援系職業を混ぜ込んだ軍団を派遣する。投石機が破壊されないように投石機の前にはLVの高い重装兵を置き防衛する。因みに俺は神殿の制圧を任されている軍団に所属している。
午前11時。出征の時刻となった。
「作戦は戦場にて説明されるが、今簡単に説明しておく」
軍団の指揮官と思われるプレイヤーがメガホンのような物を口にあてて言う。
「我々は城内を迅速に移動し、各砦を制圧しながら最終的には神殿を制圧する。以上だ。では今から進軍するぞ!」
編成所の門が開きその近くにいたプレイヤーが外に飛び出していく。どうやらプレイヤーの先頭には誓の表明から派遣されたプレイヤーがいて誘導しているらしい。
バイディングフォレストを抜けて数分歩くとクナシリアの外郭が見えてきた。
「あれがクナシリア……」
それは草原の真ん中にポツンと佇んでいた。城壁、城門は木で造られどちらもボロボロになり壊れかけという状態だ。城壁の前にはモンスターが蠢いている。数は500ぐらいだろうと推測する。先鋒軍団と既に一戦交えているようだ。先鋒はモンスターと50メートルほど離れたところで対峙している。城壁の上にもポツポツと影が見え隠れしておりいくらかモンスターがいることがわかる。
クナシリアからかなり離れたところに俺たちは陣取っていた。
「そろそろ始まるか……」
俺はボソッと呟く。全ての軍団が集結しておりいつでも戦えるという状態である。
ズドン!
豪快な音をたて何かが城壁に激突した。それが始まると同時に先鋒がゆっくりと後退している。
「始まったか……」
投石による城壁破壊だ。ズドン! ズドン! ズドン! と強烈な音をたてる。投石機から放たれるのは直径1メートルほどの岩石だ。あの城壁なら数十分で破壊できそうな気がする。
「敵が来たぞ! 先鋒は防衛をしろ! 第二軍団は突撃して先鋒を支援せよ!」
門前で戦っていたモンスターが先鋒に突撃したのだ。それにより本格的な戦闘が開始された。
投石攻撃が開始されて30分。モンスター軍とプレイヤー軍の戦闘は激化していた。ただ、モンスター軍の士気は低く1時間もすれば潰走しそうだ。
「そろそろ城壁が壊れるとのことだ。我々の出番が来たぞ」
軍団の先頭にいたプレイヤーがメガホンを口にあて言う。
「これから具体的な作戦を言う。1度しか言わないのでよく聞け。城壁が崩れたら戦場の横を通り城門に走れ。城門を通り抜けたら中央通りを行く部隊と東砦を制圧する部隊、西砦を制圧する部隊で分かれて行動しろ。部隊分けこの後メールで送るので各自確認してくれ。以上だ」
ピコン
軽やかな音をたてメールBOXが開く。受信BOXには新着メールが1件あった。新着メールは先程言っていた部隊分けのメールだ。俺は東砦を制圧する部隊だった。俺的には中央通りの方がよかったので少し残念だ。
ズドン!!
城壁にあたった岩が前とは比べものにならないぐらいの強烈な音をたてた。目の前に移る高らかに築かれていた城壁は見るも無残な姿になっていた。
「城壁が壊れたぞ! 進軍しろ!」
その合図があるとともに一斉に動き出した。
戦場が真横にあるのにそれは素通りするのに罪悪感を感じた。だが、俺は走った。
装備やステータスのおかげで一番に城門を通り抜けた俺はすぐさま東の通路に方向転換した。後方からプレイヤーが来ているがそんなの待っていられない。
剣を抜き、走った。通路には身長1メートルぐらいの小型のモンスターがいた。正式名称『ゴブリン』。手には鈍器や剣や包丁っぽい物、弓を持っている。ゲームにはお馴染みのモンスターだが気を抜けない。
ゴブリンは俺を見ると数体で通路をふさぐ。
「邪魔だ! どけろ!」
ブレードを連続で放ちゴブリンを圧倒する。ゴブリンはやはり弱かったようでブレード1発で死んでしまった。
「やっぱ弱いんだな…」
道を塞ごうとするゴブリンを切り捨てながら俺は走った。
町の曲がり角に到達したとき、後方から女の子の声が聞こえた。「トールさん!」と、すごく聞きなれた声だ。この声はいつも聞いていた声……。
「キリノ!」
俺の後ろに着いて走っていたのはキリノと、イノリだった。そのさらに後方300メートルぐらいには違うプレイヤーがゴブリンと戦っている。キリノとイノリは俺から20メートル後ろにいた。
キリノと祈はゴブリンに囲まれていた。必死で戦っていた。
「キリノ! イノリ! 今助けるからな!」
俺は叫び2人を囲んでいるゴブリンに向けてブレードを放つ。俺の声が届いたようで2人とも少し安堵の顔になっている。
地面を蹴り走りゴブリンに突撃した。
数が多いゴブリンだが、その勢いは既に尽きていた。地面はゴブリンの屍で埋め尽くされる。
キリノと祈を助け出した俺は、別の小道からやってきたプレイヤーと合流して東砦である廃教会を目指した。
それはヨーロッパにあるようなキリストを祀る教会だった。十字架が屋根に立ち教会の外周は柵で囲まれている。だが、教会に人間は存在しない。いるのはゴブリンだ。教会に入れる唯一の入口には5体のゴブリンがいる。教会の庭にはゴブリンが闊歩している。おそらく教会内にもゴブリンはいるであろう。
「行くぞ……」
俺はそう呟く。それに応え「はい」とキリノと祈が声を揃える。
「突撃!」
俺は部隊全員に聞こえるように叫び突進した。それに続きキリノと祈、プレイヤーが突進する。
入口にいた敵を迅速に倒し教会に雪崩込んだ。
「庭の敵を掃討しろ!」
俺は叫ぶ。
「了解」
プレイヤーはそれに応え、広い庭に散らばっていく。庭にいるゴブリンはざっと30体。掃討するのにはそう時間はかからないはずだ。
俺は教会内に通じる門に走った。勿論の如くそこにもゴブリンはいる。入口と同じ5体だ。
「通させてもらうぞ!」
スラッシュブレイドを放ち5体のうちの真ん中の3体を倒す。
「1体!」
右のゴブリンに向かって剣を突出す。剣は真っ直ぐにゴブリンの腹に突き刺さる。ズブッという音と共に嫌な感覚が手に伝わる。
剣を素早く抜き取り、左のゴブリンの首に照準を合わせ剣を振るった。
ゴブリンが消滅するとどこからともなく声があがった。
「庭の敵を掃討完了!」
散らばっていたプレイヤーが門の周りに集結する。
「開けるぞ……!」
俺はそおっと門に手を伸ばし、勢いよく開ける。門が開いたことにより教会内部のゴブリンが確認できるようになった。
数は10体。教会の最奥部――現実世界ならば神父がいるであろう場所には普通のゴブリンの2倍はあろうかという大きさのゴブリンがいた。『ビッグゴブリン』それが巨大なゴブリンの名前だった。憶測であるが、あのゴブリンを倒すと制圧ということになるのであろう。
俺は剣を握り直し教会に突入した。目指すはビッグゴブリン。
飛び掛かってくるゴブリンや、目の前に立ちはだかるゴブリンを切り裂きビッグゴブリンに飛び掛かった。
「うおぉぉぉぉ!」
それはほんの数秒の戦いだった。
ジャンプして剣を振るい、ブレードを放った。そのブレードは見事ビッグゴブリンの首に命中した。ただそれだけだ。ビッグゴブリンが弱いわけでは無い。というかまともに戦っていないので強いかなんて判定できない。
だが、終わったのだ。周りから歓声が湧き上がり残っていたゴブリンは消滅していった。
これで神殿突入への経路が切り開かれた。歓声をあげていたプレイヤーは教会から出て次の目的の神殿に向かって走り出した。
「トールさんお見事です!」
キリノが言う。
「そうですね」
祈も言う。
「いや、みんなが支援してくれなきゃ出来なかったんだ。みんなのおかげで倒せたんだ。キリノと祈も支援してくれた。ありがとうな」
「いえ……」
キリノが顔を赤くしている。どうしたんだろう。
「とりあえず神殿に向かおう。神殿を制圧してからゆっくり話そうな」
俺はそう言い歩き出した。
キリノと祈は「「はい」」と揃えて言った。




