そして真相
ブザーを聞いて相田はやはりと察した。彼は急いで緊急マスクを装着し、荷物を持って先を急いだ。途中あたふたしている瑠田を発見し相田は予備で持っていたマスクで「早くつけろ!」とつけさせた。瑠田は「私少し吸ったかもしれない」と不安そうに言った。相田はロビーへと向かった。すでに四人屈伸している。相田はそこに置いてある青い瓶、「反免疫薬」を取り出してバッグに入れた。
相田は真田の部屋へと向かった。彼の部屋の前は研究室である。いつもは彼の部屋には窓があるが、今日はシャッターが閉まっている。相田はそこのマスクをしている研究員に尋ねた。
「真田はどうしてる?」
「今、昼寝中ですが…」
「シャッターを開けて。」
「あ、はい…」
シャッターを開けた。そこには真田はいなかった。
「あれ?あっ!」
よく見ると扉が破られていた。
「これは…さらわれたのか?」
「いや…ちがう…これは…」
相田の脳内で、ある記憶が回り始めた…
*
相田は月並区のバーから持ち帰ったビデオカメラを巻き戻していた。あの感染発生当時の様子が見えないかと探っていたのだ。だが何度再生しても矢幡は立ちながら、バーテンダーの高橋はうつ伏せで屈伸を繰り返していた。むしゃくしゃしながらも相田は巻き戻し続けた。
ある時再生してみると、高橋と矢幡が会話をしている映像を発見した。
「何か食べる物ある?」
「ストロベリーパイならあるけど」
「じゃあそれで。」
相田は先をみようと、早送りボタンを押そうとした。だが、誤って巻き戻してしまい相田は「くそっ」と悪態をつき再生させた。まあ感染発生まで気長に観ようとと相田は腹を括った。
ディスプレイ内で高橋は相変わらずグラスを磨いている。そのうち、バーの外から男女の喧嘩が聞こえて来た。一人は矢幡端子、もう一人は…真田俊一だ。そう言えば、感染発生の直前に彼女と喧嘩したって真田から聞いたな、と相田は思い出した。
高橋は彼らの喧嘩には気にも止めてないようであった。だが声は聞こえる。
「…うして?どうして?なに考えてるの?俊ちゃん。」
「君は世界が屈伸する光景を見たくないのか?」
「いや!」
「そうか。じゃあお前もワクチンを与えない。だからもう手遅れだ。今、僕はリモコンでウイルスを巻いたからな…」
相田は驚愕した。唯一の生存者、真田はまさか…
「あんたなんか、だいっきらい!」
そう言って矢幡は高橋のバーに入ってきた。
相田は確信した。黒幕は…
*
「…真田です。無害を装って自力で脱出して自ら感染源となったのです。」
と相田が研究員に言った。その時瑠田が疑問を発した。
「え?でもなんで…」
「わからない。だが食い止めなければ。血清はできたのですね?」
と尋ねると研究員は答えた。
「はい。好きなだけどうぞ…」
そして相田は血清の瓶と反免疫薬の瓶を持って瑠田と共に真田を追い始めた。