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調査。人々が見た、屈伸の現場とは・・・

「ニュースです。月並区で発生した屈伸現象、それが、そこから離れた逆波区でも発生しました。BSICの田中委員長は『前代未聞の事態だ。だが現在調査隊を向かわしている。』とコメント。」


トラックの中には調査隊らが乗っており、彼らの中には相田や瑠田がいた。調査隊の中のリーダー幕田が皆に言った。

「これは訓練ではない。現実だ。少しの油断が危険を伴う。通常、屈伸と言うのはただのストレッチ運動だが、今、これから向かう先では屈伸は死を意味する。それを意識して注意深く行動するように。」



そして一行は目的地に着いた。皆トラックを出て機材を運びながら前方を進んだ。そこは高層ビルが群がる大都会であった。いつもなら車の音が聞こえるはずだが、今日はやけに静かで、それが晴れた空と相反して不気味だった。

何台かの車が衝突事故を起こして潰れていた。おそらく運転手が運転中に急に屈伸しだして、それで急にアクセルを踏んで事故を起こしたのだろう。

一行は先を歩いた。街の至る所に人々が屈伸していた。買い物中でバッグを右手にぶら下げたまま屈伸しているOL達とか、ベンチに横たわりながら屈伸している飲んだくれとか、カウンター席で店員と客が向かい合って屈伸したり、その客の後ろに屈伸の行列ができたりしていた。瑠田が相田に言った。

「不気味な光景ですね。」

「そうですね。僕も何度見ても慣れないです。」

やがて一行は先を歩いた。そして歩行者専用道路にたどり着いた時、リーダーの幕田が立ち止まった。

「幕田隊長、どうしたのですか?」

「…見ろ…」

幕田隊長が指を指した。その先を見て調査隊達は物も言えず息を呑んだ。

「なんという…」

歩行者専用道路にはびっしりと人が密集しており、それぞれが直立したまま屈伸を繰り返していた。勿論速さには個人差があるので、皆が同じタイミングで屈伸したわけでなく、まるでもぐら叩きのようにばらばらと屈伸していた。彼らは皆無表情で黙々と屈伸していた。隊員の誰かが「大丈夫ですか?」と聞くが反応しない。その時幕田が言った。

「こいつらはまだ新しい。感染源は別にあるはずだ。進もう。」

そして一行は屈伸人間達をかき分けて前を進んだ。瑠田はふと疑問に思って質問した。

「幕田隊長、どうして彼らはまだ新しいと分かるんですか?」

「それは彼らが健康的だからだ。」

「つまり?」

「我々は通報を受けた後なので、発生してから今は随分経っている。おそらく半日から一日ほどだろう。ならば考えて頂きたいのだが、それほど長い間飲まず食わずに屈伸するとどうなるかな?」

「かなりやつれますね。」

「正解。だから傾向として人々の健康を見ればいい。まあそれだけでは感染分布地図は書けないが調査においては非常に重要だ。」


そして一行はビルの奥地へと向かった。至る所、ビルの上から下水道まで人々が屈伸していた。だんだん人々がやがてやつれているのを相田などの隊員達は目撃した。隊長の幕田は言った。

「気をつけろよ…濃密に屈伸の空気が溢れている。」

その時一人の隊員木中がコンクリートの破片からつまずいてどたりと転んだ。幕田は怒鳴った。

「馬鹿野郎!」

「すいません…わあ!」

幕田が不審な悲鳴を上げたので隊員達が一斉に彼を見た。転んだ際にコンクリートの破片が防護服を擦り、腕の部分に穴が開いてしまったのだ。

「空気が浸入した!わああ!」

「声を出すな!呼吸してしまうだろ!?」

「すでに吸ってしまいました!あ、あああ!膝が!」

木中の膝は屈伸せんとがくがく揺れだした。木中は恐怖を感じて叫んだ。

「隊長!」

「えいくそ!」

幕田隊長は木中の両足を力の限り踏みつけ、脇の下から両腕で上半身を固定した。無理矢理だが足を屈伸させる事なく伸ばすためである。幕田は叫んだ。

「早く!救護ポッドの準備を!」

その時木中の表情が歪み出した事に幕田は気付いた。同時に木中の脚が屈伸しようと力を入れてる事に、踏みつけた脚から感じた。木中は苦しんでいた。それは痛みはなく、激しい不快感であった。そのあまりの苦しみに木中は早く屈伸させてくれ、楽にしてくれと懇願の目を幕田に向けた。俺はこのまま苦しみながら行き続けるのは嫌だ、屈伸したいんだ、この苦しみから解放させてくれ。無言の彼のメッセージが幕田隊長に届いた時、幕田は衝撃を感じた。そして踏みつけた足を離した。足がびょんと上がった途端たちまち木中は無表情になり、幕田に上半身を持ち上げられたまま、宙で屈伸した。幕田は彼をゆっくり地面に降ろして屈伸する彼に対して合掌した。


そして前進した。徐々に人々の中にやつれた人々を見るようになった。もうすぐ感染源に辿り着けるか。そう思いながら、又屈伸してしまった木中の事を思い馳せながら前進した。よく見ると人間だけ屈伸している訳ではなく、蝿やみみずも等しく屈伸し、犬猫はお座りと立ちをしきりに繰り返していた


その時。


がしゃんがしゃんごりょん。


街の隅のゴミ箱から激しい物音が聞こえた。何事かと調査隊は注視した。しばらくするとそこから…


「助けて下さい!」


なんと生存者がいた。素肌を晒して。調査隊は皆驚いた。幕田隊長は生存者の彼に尋ねた。

「名前は…」

「真田俊夫です。」

「真田さん、どうしてここに?」

「実は、突然みんな屈伸しだしたんで隠れてたんですが、ニュースで調査隊の話を聞いたので助けて欲しくて…」

「なるほど、膝に何か不快感を感じますか?」

「いいえ。」

幕田隊長は希望を感じた。彼は免疫を持っているのかもしれない。

「では採血して頂いてもいいですか?」

その時真田は非常に嫌そうな表情をしたが、逆らう事は立場上できないだろう、と判断し答えた。

「痛くしないで下さいね。」

注射嫌いなのだなと思いながら幕田隊長は採血した。そして安全のため彼は付き添いの隊員と、木中のために用意されていたポッドに隔離された。


その後ポッドを乗せたトラックはBSIC本部へと向かった。

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