人々が次々と屈伸をし続ける・・・
「ニュースです。月並区で突如住民が屈伸を繰り返すと言う異常な現象が発生しました。原因は判明せず、現在調査中です。」
「ニュースです。政府は“屈伸現象”に対し、対策のため臨時に『屈伸現象調査委員会(Bending Syndrome Investigation Committee=BSIC)』を設立したと発表しました。」
「ニュースです。月並区で発生した“屈伸現象”それが軒並区にも発生しているとの報告が入りました。これに対し牛山首相は『調査は続けている。是非報告を期待している。』とコメントしました。」
「ニュースです。BSICから“屈伸現象”の原因はウイルスであるとの報告が入りました。委員会はこれを仮に“Bウイルス”と名付けました。」
屈伸現象対策委員会、通称BSICに相田は勤めていた。医科大卒業してまもなく、政府から急募と言う事で至急参加したのである。
そんな彼だが、ある日上司の田中委員長から呼び出しがかかった。
「…何でしょうか…」
「君がここに入る時私から研修を受けただろう?」
「はい…」
「今度は君が新入りを教えてくれ。」
「冗談じゃありません!」
とっさに相田は大声で否定したが、すぐにそれを打ち消した。
「…すみません…でも、私は、ここに勤めてまだ一週間も経っていません…」
「当たり前だ。この組織も一週間も経っていない。だが、事態は急を要する。できるだけ多く優秀なメンバーが欲しいのだ。分かってくれ。」
「…分かりました。」
そしてBSIC本部に新人の女性が来た。
「初めまして、瑠田柳子です。」
「よろしく。相田小見郎です。案内しますね…」
相田と瑠田は先を歩いた。やがて二人は「投射観察室」と言う部屋に入った。
そこは緑色で薄暗い部屋で中央に堅いベッドのような台があった。相田はリモコンを握って言った。
「まず早速ですが、患者の体を見て頂きましょう。」
そう言って相田がリモコンを押すと、ベッドから突如仰向けの人間が現れた。屈伸していた。瑠田は尋ねた。
「…大丈夫なんですか?うつったりしないんですか?」
「大丈夫。これはホログラムです。触ってご覧なさい。」
相田の言われるがままに瑠田は触ると、彼女の手が患者の身体を突き抜けた。
「わっ!」
「これぞBSICの科学、3Dスキャナーです。実は患者を収容している隔離ポッドにスキャナーがありまして、そこからデータを受けているのです。」
「どういう仕組みですか?」
「簡単です。レントゲン撮影やMRIと同じで、透過ビームを患者の全身に当て続ける。そしてそれの反応をコンピューターが解析しホログラムで再現します。これにより手術を減らして患者の負担が減らせます。」
「へえぇ。」
「まあ雑談はともかく、患者の体を観察してみましょう。筋肉から。」
そう言って相田はリモコンに何事か入力した。すると患者の皮膚が消えて筋肉が顕になった。脚の筋肉は収縮と弛緩を繰り返して屈伸運動を造り上げていた。相田は言った。
「次に循環器」
次に患者は血管だけになった。脚の屈伸している部位が周期的に細くなって血流が悪くなっているのを瑠田が発見して声を上げた。
「あっ!」
「そうです。よく気付きましたね。つまり脚が周期的に麻痺したような状態になって、それが屈伸を手伝っている。最後は神経を見てみます。」
患者は神経だけになった。
「脳を御覧下さい。」
瑠田は患者の脳を見て、あっと声を上げた。脳のあちこちに砂のような灰色の斑点が見える。
「ではこの脳の断面を見てみます。」
ホログラムは脳を拡大して、それをスパッと切って断面図を示した。瑠田はその断面を見て悲鳴を上げた。脳は内部から灰色の謎の物体に侵食されていたのである。
「これは・・・」
「おそらくウイルスが脳の一部、脳髄を変質させたのでしょう。」
「でも・・・そんな・・・」
「つまり、我々はそんな恐ろしいウイルスを相手にしているのです。」
「・・・・」
画像は再び患者の元の体を映し出した。 患者はホログラム台のベッドに仰向けのまま、無表情に天を見つめて屈伸していた。やがて相田が通信を切ったため患者は消滅した。
「次行きましょう。」