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ある日突然、人々の足が曲がりだした

物寂しい住宅街で高橋は一人でバーを経営していた。そんなに高級なバーではなかったが、客はそこそこ集まっていた。夜12時に閉店した後彼はいつも一人で酒を飲んでいた。そしていつも店に設置されてる防犯カメラのカセットを取り出してはテレビでそれを見て思い出に耽っていた。


そんな彼だがある夜の事、閉店間近に店の外から男女が口論していた。彼が何の口論だろうと耳を傾けた時には女は「あんたなんか、だいっきらい!」と捨て台詞を吐いて乱暴に店に入って来た。男の方は後を追ったりせずにそのまま去ったようである。


その女性には見覚えがあった。高橋の店の常連客である。依然はカップルで来たが別れたか、と高橋は思った。

女性はウイスキーを注文し、ついでに自棄食いなのか「何か食べる物ある?」と乱暴な口調で尋ねた。高橋は冷蔵庫を見て言った。

「ストロベリーパイならあるけど」

「じゃあそれで。」

そして彼女はストロベリーパイを貪るように食べ、ウイスキーを飲んだ。その自暴自棄さ加減を見て高橋は気をつかって彼女に言った。

「あまり、飲みすぎない方がいいですよ。」

ことり。彼女はコップを置いた。そして軽く溜息をついて言った。

「そうですね。すみません。」

「大丈夫ですか。」

「大丈夫です…」

そして彼女は席を立って礼を言った。

「ありがとうございました。」

「いえいえこちらこそ…」

「お礼は結構です。元はと言えば私が…」

彼女は突如口ごもった。そのまま立っていたので高橋は尋ねた。

「どうされましたか?」

「元はと言えば私が…私が……」

「いいですよお客さん。ほら、夜が更けますよ。」

「私が………私…………たし……………た……」

「お客さん?」

突然彼女はゆっくりと膝を曲げてしゃがみ、そして立ち上がった。靴を直しているのかなと高橋は思った。彼女は再び膝を曲げてしゃがみ、再び立ち上がった。そして再びその屈伸運動をした。

「お客さん?」

高橋は彼女が酒で気分を悪くしたと思って、肩を掴んで安定させて介抱しようと思ったが、勢い余って彼女を仰向けに倒してしまった。がしゃんがしゃんと椅子が倒れた。

「申し訳ございませ…」

と高橋は言いかけて口ごもった。彼女は仰向けに倒れたまま無表情で屈伸運動を繰り返していた。「お客さん!お客さん!」と呼び掛けても返事がない。つまり屈伸したまま意識がない。

すぐさま高橋は救急車に連絡しようと電話に向かい、番号を入力した。だがその時ショーウィンドウから見えた光景に彼は驚愕した。色とりどりの街灯に照らされた夜道に無数の人々が屈伸していたのだ。

「…しもし、もしもし!」

高橋は電話の声に気付き、「あ、はい、もしもし!」と答えて要件を伝えようとした。

だがその時高橋は異変を感じた。突然思考停止したのだ。そして膝の力が抜け、足ががくがくした。彼は机に掴まって、受話器を取り落とした。だが脚の麻痺で思わず転んでしまった。右に左に揺れる受話器から「もしもし、もしもし!大丈夫ですか?」と救急隊が懸命に呼び掛けたが彼は何も言えずにうつ伏せで屈伸し続けていた。

「もしもし!」

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