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第九話 揃わない数

視線は、まだ完全には揃っていなかった。

だが、揃おうとしている。

それが分かるだけで、息が詰まった。

「……一回、外出よう」

俺は言った。自分の声が、ひどく遠くに聞こえた。

「外?」

白川が聞き返す。

「今さら?」

「ここにいるから、おかしくなる」

俺は続けた。

「一回、外の空気吸おう。全員で」

“全員で”。

その言葉に、誰かの喉が鳴った。

「……いいんじゃないか」

木村が言う。

「寒いけど」

異論は出なかった。

反対する理由を、誰も言語化できなかったのだ。

体育館を出ると、夜気が一気に肺に流れ込んだ。

冷たい。だが、さっきまでの重さは、少しだけ薄れた気がする。

校庭には、俺たちの足音しかない。

砂利を踏む音が、妙に大きく響く。

「……なあ」

志賀が、歩きながら言った。

「数、合ってるよな」

「何の?」

塚本が聞く。

「俺たちの」

志賀は足を止めた。

「七人、だよな」

全員が、無意識に立ち位置を確認する。

一、二、三、四、五、六、七。

確かに、七人。

「ほら」

志賀は少し安堵したように言う。

「七人だ」

その瞬間、背中に、ぞくりとした感覚が走った。

――八脚目の椅子が、ない。

当然だ。体育館の外なのだから。

それでも、どこかで“席”を探してしまう自分に、寒気がした。

「……俺さ」

塚本が、校舎を見上げながら言った。

「昔、人数数えるの、苦手だった」

「急に何だよ」

白川が言う。

「いや」

塚本は苦笑した。

「体育のときとか。整列すると、いつも誰か足りない気がして」

胸の奥が、じわりと熱くなる。

「先生、よく言ってたろ」

塚本は続ける。

「『一人多いぞ』とか『一人足りないぞ』とか」

「言ってたな」

田崎が頷く。

「でもさ」

塚本は、声を落とした。

「結局、数は合ってた」

「……合ってた?」

俺は聞き返した。

「そう」

塚本は言った。

「最終的には」

最終的に。

その言葉が、嫌な余韻を残す。

「なあ」

相原が、突然言った。

「ここ、何回目だと思う?」

誰も答えない。

「この同窓会」

相原は続ける。

「一回目だと思うか?」

沈黙。

夜風が、校庭を吹き抜ける。

校舎の窓が、暗い。

「……違うな」

相原は、自分で答えた。

「初めてじゃない」

「根拠は?」

白川が聞く。

相原は、少し間を置いて言った。

「慣れてる」

「何に」

「……避け方に」

全員が、息を呑んだ。

確かにそうだ。

俺たちは、あまりにも自然に、視線を逸らしている。

話題を変えている。

“そこにいる何か”を、最初から知っているみたいに。

「じゃあさ」

志賀が、かすれた声で言う。

「前は、どうやって終わったんだ」

答えは、すぐには出なかった。

だが、俺の中には、薄い輪郭が浮かび始めていた。

――揃ったのだ。

数が。

誰か一人が、役割を引き受けて。

だから、次の同窓会が開けた。

「……戻ろう」

田崎が言った。

全員が、彼を見る。

「戻って、終わらせよう」

田崎は、静かに続けた。

「このままじゃ、何も決まらない」

決める。

決まる。

その言葉が、校庭に重く落ちた。

体育館へ戻る途中、俺は何度も、後ろを振り返った。

誰かが増えていないか。

誰かが減っていないか。

校舎の影は、何も答えない。

体育館の扉が、きしりと音を立てて開く。

中は、さっきと変わらない――はずだった。

だが、円の中央に置かれた椅子を見た瞬間、心臓が凍りついた。

八脚目の椅子の、向きが変わっている。

こちらを向いている。

座面は、深く沈んだまま。

――待っていた。

俺たちが、外で“数を確認”してくるのを。

そして俺は、はっきりと理解した。

この同窓会は、

数を揃えるためにある。

揃わないままでは、

決して終わらない。

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― 新着の感想 ―
第九話、息が詰まりました。 「外に出れば解決するかもしれない」という、現実的で正しいはずの選択が、 逆にこの同窓会の“異常さ”をはっきり浮かび上がらせる回だったと思います。 体育館の外で数を数え、七…
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