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空席のある同窓会  作者: 百花繚乱


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第四話 写真にいない人

「参列者 未定」

名簿の端に残されたその文字が、頭から離れなかった。

未定。誰のことだ。次の葬儀の予定はまだ入っていない。

式場は空いている。それなのに、参列者が“未定”とはどういう意味だ。

私は事務室に戻り、今月の予約表を確認した。

何もない。電話履歴もない。だが、式場の予約台帳には、薄く鉛筆で書かれた一行があった。

「家族葬 参列者未定」

日付は、三日前。通夜があった日だ。

私は椅子に腰を下ろす。通夜の日、式場には十五人いた。

少なくとも、名簿上は。だが、私は十六に見えた。

あの黒い肩。あの写真。私はデータフォルダを再び開いた。

昨日までの写真。通夜の集合写真。

一枚目。

十五人。

二枚目。

十五人。

三枚目。

一瞬、画面が暗転する。再び表示される。

最前列の端に、黒服の男。顔がはっきり写っている。

こちらを見ている。それは、私の顔だった。

次の瞬間、画像は十五人に戻る。

私はスクリーンショットを撮ろうとするが、指が震えて操作が追いつかない。

再生する。どの写真にも、男はいない。

だが、画像一覧のサムネイルの一つだけ、黒い点が多い。

それを開く。真っ暗な画像。何も写っていない。

データ情報を見る。ファイル名は、

「確認済」

撮影時間は、通夜終了後。

撮影者は、私。覚えがない。

私は式場の防犯カメラを確認する。通夜当日の映像を再生する。

受付に立つ自分が映る。参列者が入ってくる。

十五人。

丸をつける。そこに、もう一人、立っている。

受付台の外側。黒服の男。顔は映らない。

だが、名簿に目を落としている。

私は映像を止める。画面には、私が二人いる。

受付の内側の私と、外側の私。再生すると、外側の私は消える。

私はモニターから目を離した。式場が静まり返る。

受付台の上に、名札が置かれている。私の名札。

昨日はなかったはずだ。手に取る。裏返す。

裏面に、小さく数字が刻まれている。

「16」

椅子の音がした。私はゆっくりと式場へ向かう。

椅子は十五脚。

だが、最前列の端に、空間がある。椅子を一脚置けば、ぴたりと収まる幅。

私は倉庫から椅子を持ち出す。その空間に置く。

十六脚。

途端に、式場の空気が軽くなる。息がしやすい。

まるで、足りなかった何かが補われたように。

私は一歩下がり、全体を見る。整っている。違和感が消える。

その瞬間、背後で声がした。

「全員、揃いましたね」

振り返る。喪主が立っている。黒服のまま。

だが、通夜は終わっているはずだ。

「……何を」

喪主は穏やかに微笑む。

「受付の方も、席にどうぞ」

私は喉が詰まる。

「私は、参列者では」

「全員確認済みです」

その言葉が、式場に響く。椅子を数える。

一、二、三……。

十六。

私は立ったままだ。数には入っていない。だが、名札の裏の数字は十六。

喪主が指をさす。最前列の端。空いているはずの席。

そこに、黒い影が座っている。

私の顔。私のスーツ。私の目。私は思わず後退する。

映る式場。十六人が座っている。

その中に、受付台に立つ私の姿はない。

代わりに、席に座っている私がいる。

喪主がゆっくりと口を開く。

「受付は、確認する側ではなく」

一歩、こちらに近づく。

「確認される側です」

名簿が、受付台から落ちる。

ページが開く。十五名の下に、はっきりと書かれている。

「受付 (私の名前)」

横に丸。その丸が、濃く塗りつぶされる。

私は自分の胸に手を当てる。鼓動が、少しずつ遠のく。

椅子が一斉に軋む。ぎい、と。

十六脚が、わずかに前に滑る。

式場の灯りが落ちる。暗闇の中で、低い声が重なる。

「全員、確認済み」

私は声を出そうとする。だが、音にならない。

次の瞬間、灯りが戻る。

椅子は十五脚。

式場は空。受付台に立つのは、私ひとり。名簿を開く。

十五名。

受付の欄はない。だが、ページの端に、鉛筆で小さく書かれている。

「残り一席」

私は、ゆっくりと椅子を数えた。

一、二、三……。

十五。

それでも、どこかにもう一人いる気がしてならなかった。

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