表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空席のある同窓会  作者: 百花繚乱


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/37

第四話 終わらない遊び

校庭の隅で聞こえた足音は、はっきりとしたものではなかった。

風が砂を払っただけかもしれないし、僕の記憶が音を補ってしまったのかもしれない。

それでも、子どもたちは一瞬だけ静まり返った。

「……いま、誰かいた?」

鬼だった子が、ぽつりとつぶやく。

「いないよ」

「先生がびっくりしてるだけじゃん」

笑い声が上がる。

だが、その笑いは少し早口で、どこか不自然だった。

僕は深く息を吸い、言った。

「まだ終わりにしない。もう一度、最初から数えよう」

子どもたちは渋々といった様子で並び直す。

円を作り、僕を中心に置く形になる。

なぜか、僕が鬼のような位置に立っていた。

一人ずつ目を見ていく。

「一」

「二」

「三」

指を折りながら、確実に数える。

二十七、二十八、二十九――

三十。

合う。確かに三十。

「ほら、三十だよ」

学級委員が胸を張る。周囲も頷く。

だが、僕の視界の端に、円の外側をかすめる影があった。

まばたきすると消える。振り返っても何もいない。

「先生?」

子どもたちの視線が集まる。

僕は校庭全体を見渡した。

ブランコ、倉庫、体育館の裏、植え込み。

どこにも人影はない。それでも、違和感は消えない。

「……じゃあ、今日はここまで」

そう言おうとして、言葉が喉で止まる。

“ここまで”にしたら、また繰り返す気がした。

あの日と同じように。

放課後、僕は一人で防犯カメラの映像を確認した。

校庭を俯瞰で映すカメラ。昼休みの時間帯を巻き戻す。

子どもたちが走り出す。鬼が数える。やがて、集まる。

僕は画面を止め、人数を数えた。

一、二、三……。

三十。

だが、再生してみると、円になる直前、画面の端に小さな影が走るのが映っていた。

拡大する。

ノイズが走り、輪郭が滲む。子どもかどうかも分からない。

けれど確かに、三十人とは別に動く影がある。

再生を進める。円が完成した瞬間、その影は消える。

記録上は、最初から三十人だったことになっている。

僕はモニターから目を離した。

――見つかったことにする。

あの日も、僕らはそうした。

誰も探しに行かなかった。フェンスの向こうを覗かなかった。

その夜、町内放送が流れた。

翌日、その子は普通に登校した。

ただ、何かが違っていた。

思い出そうとするたびに、記憶が霞む。

名前も、顔も、曖昧だ。僕は名簿を開いた。

三十人。

子ども時代のクラス名簿も、どこかに残っているはずだ。

週末、実家に戻ることを決めた。

団地は、昔より小さく見えた。

建て替えの話が進んでいるらしく、ところどころに立入禁止の札が下がっている。

あの公園はまだ残っていた。滑り台も、ブランコも、錆びながら立っている。

砂場の縁に腰を下ろし、目を閉じる。夕暮れの匂い。セミの声。

翔の焦った声。

「あと一人だよな?」

僕は目を開け、公園の奥――フェンスの向こうを見る。

草が伸び放題の空き地。

子どもの頃は怖くて近づかなかった場所。今なら行ける。

フェンスの隙間をくぐり、草を踏み分ける。

奥に進むと、地面に古いボールが転がっていた。

見覚えのある色。拾い上げる。

かすれた油性ペンで、名前が書いてある。

かすれていて読めない。だが、その下に、小さく数字が書いてあった。

「30」

胸が強く打つ。

三十。

僕は公園に戻り、滑り台の前に立つ。

あの日、僕らは三十人だったのか。

本当に三十人だったのか。

夕方の風が、ブランコを揺らす。きい、と鳴る。

その音に紛れて、背後で声がした気がした。

「まだ、見つかってないよ」

振り返る。誰もいない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
過去と現在が重なり、「全員見つかったはずなのに何かが残っている」という不安感が際立つ回です。記録や数字では確認できても、体感や影の感覚は消えず、読者にも“見えない何か”の存在を静かに示す描写が怖くも惹…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ