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異世界オネェ~20センチのピンヒールで階段から落ちた先は魔王領だったわ~  作者: 夢想PEN
第2章 戦場に咲く乙女の華

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無口な男と街デート

「う~ん、よく寝た~!」

 純白のベッドから伸びをしながら、両手を天井に突き上げる。

 シーツはぐちゃぐちゃ、枕は床に転がってる。寝相、悪っ!

 新入り幹部としての威厳ゼロね、これじゃ。


 昨日は色々あったけど……やっぱり夢じゃなかったのね。

 窓の外には朝陽を受けて光る森と城門。

 あら、昨日アタシが引っぱたいた赤トカゲくん、どこ行ったのかしら?


 ──コンコンコン。

 部屋のドアを叩く音がする。


「スミレ様ー、入ってもよろしいですかー?」

 誰だろ?


「はいはーい、今開けるわね」

 ドアを開けると、小柄なネズミの女の子。

 ピンと立った耳、揺れる灰色のしっぽ。

 手には小さな銀盆を持って、ちょこんと頭を下げた。

 あらまぁ、なんて可愛い子。


「初めまして、スミレ様。私はハジカミ。四天王様のお世話をしております」

「助かるわぁ。ハジカミちゃん、よろしくね。それで今日は何か用があるの?」

 口ひげをひくひくさせながら、ハジカミちゃんは答える。


「はい! 朝食の準備ができております。それと、食事のあとにサン•ショウ様が“お城の裏手でお待ちしている”と!」


 えっ、あの無口なサン・ショウ? 案内は嬉しいけど……大丈夫かしら。

 ま、距離を縮めるチャンスね。


「分かったわ。着替えてから向かうわね」

「はい! 食堂は一階の左手です」


 軽やかに頭を下げて去っていくハジカミちゃん。

 小さな足音と、しっぽの揺れ……たまらん。


 さて服は……あ、出勤用の派手な紫ドレスしかないわね。

 化粧品も下着も必要だわ。いつまでもボクサーパンツはいただけない。


 バスローブを脱いでドレスに着替える。

 二十センチのピンヒールで背筋を伸ばし、鏡を見ると——化粧が崩壊してるアタシ。


「すっぴんは見せたくないけど……これはアカンわ」


 螺旋階段を降りると、一階はメイドたちで大忙し。

 ネズミに猫にカエルの獣人!? 多種多様すぎて笑える。

「……洗い物担当はカエルちゃん、って感じね」


「あっ、スミレ様! こちらです」

 ハジカミちゃんが手招きしてくれる。


 大きな扉を開けると、豪華な食堂。

 天井にはシャンデリア、壁には絵画、中央には美しい花が活けてある。


「こちらにお掛けください」

「あら、ありがと」


 案内された席に腰を下ろすと——


「おぉ、スミレ。昨夜はよく眠れたか?」

 奥の席で魔王ちゃんがステーキを頬張ってる。朝からステーキ!? さすが魔族。


「えぇ、とっても。魔王ちゃんは朝から肉なの?」

「そうだ。我は肉しか食わん。野菜は嫌いだ」


 子供っぽいところもあるのね、この子。


「お待たせしました、スミレ様」

 ハジカミちゃんがトレーを置く。パン、スープ、サラダ、スクランブルエッグ。

 思わず胸が高鳴る。異世界でも朝食って似てるのね。


「いただきまーす……パンふわっふわ! 異世界パン、優勝!」


 こうして異世界初のご飯をいただいた。


 ***


 食事を終え、お城の裏手に行くと、サン・ショウが街へ続く大階段の前で待っていた。

 アタシが遠くから手を振っても、腕組みしたまま無反応。


 ほんと……この人、コミュ力どこに置いてきたの?


「お待たせ! サン・ショウちゃん。今日はよろしくね」

「……いくぞ」


 二人で階段を下りる。

 街は高い城壁に囲まれているのが、はっきり見えた。


「ねぇ、サン・ショウちゃん? なんでお城の裏に街があるの? 普通、正面じゃない?」

 サン・ショーは前を向いたまま答える。


「……深淵の森の魔物から守るためだ。街の入り口は反対側にもある。そこは冒険者や魔都の民が出入りしている」


 なるほど。ここにも魔王ちゃんたちの優しさがあるのね。ちょっと感動。


 階段を降り、街の開けたメイン通りへ。

 オレンジ色の屋根に煙突、モザイク柄の石畳。まるで絵本の中みたい。


「おはようございます、サン・ショウ様!」

「となりの人だぁれ?」

「おぉ、スミレ様だって!」


 多様な種族の魔族や子供たちが通りすぎ、みんな笑顔で挨拶をする。

 大人たちは一瞬こちらを見たが、サン・ショウに気づくと頭を下げ、すぐに日常へ戻っていった。


「アタシ、あんま気にされてないのね……?」

 少し間を置いて、サン・ショウが答える。


「人間だと……思われてないのでは?」

「ちょっと、それどういう意味よ!」

「……ふ。冗談だ。魔王様から“人間の幹部が誕生した。その者は魔族の味方である”と御触れが出ている」

「驚いた、あんた冗談言えるのね?」

「…………」

「喋らんのかーい!」


 アタシのツッコミがサン・ショウの胸を軽く叩く。

 いまいち掴めない人。でも、悪い感じはしない。


「……ここだ」


 彼が立ち止まって指差した先には、“装飾工房にゃんグルズ”の看板。

 中からはハンマーを叩く音。壁一面に鎧や剣が飾られている。


「ここ……魔王ちゃんの言ってた店? てっきり洋服屋さんだと思ってたわ」


 その時──

「ニャニャ!? あなたがスミレ様かニャ? 魔王様から聞いてるニャ! 派手で良いニャ~!もう準備はできてるニャ」

 猫の娘が飛び出してきた。作業着姿のエプロン鍛冶屋。


「私はクロモジ。クロでいいニャー」

「クロちゃんね、よろしく。それで“準備”って何かしら?」


「こっちニャー!」

 クロに手を引かれ、あれよあれよという間に着替えが始まる。

 鏡に映るのは──ガッシャガッシャ鳴る全身甲冑姿の……いかついアタシ。

ジト目でクロを見る。

「ぷっ……に、似合うニャ……!」

「笑うんじゃないわよ猫娘ッ!」

 クロを捕まえて脇腹をくすぐる。床を転げまわっても止めてやんない。

「ニャハハハ!! ごめんニャ、ごめんニャー! 許してニャー!」


 息を整えるアタシに、クロがケロッと立ち上がって言う。

「ホンモノはこっちニャ!」


 カウンターの奥から大きな布包みを持ってきて開く。

 中から現れたのは黒と紅が混じる不思議な革。

 触れるだけで微かに熱を帯びている。


「……これ、昨日の赤トカゲじゃない!?」

「そうニャ。魔王様が“スミレ用に仕立てろ”って言ってたニャ」

「やだもう、あの子ったら……照れるじゃないの〜♡」


「さっ、こっちで全部脱ぐニャ」


 アタシは下着姿でカーテンの中、クロが両手を掲げる。

 紫の魔方陣が床に広がり、針と糸が宙を舞う。


「”縦の糸、横の糸、纏わり回る装いの歌”──服飾魔法──縦横無針じゅうおうむじんニャ!」


 光の糸がアタシの体を一周、二周……。

「ちょ、ちょっと! くすぐったいってば!」

「動かないニャ〜、ラインがズレるニャ!」


 数秒後、光が弾ける。

 鏡の中のアタシは、もう別人だった。


 漆黒のレザースカートに、紅のラインが光るショートジャケット。

 薔薇柄のタイツが妖しく輝き、ブーツの20センチヒールでも重さを感じない。


「……ちょっと、これ、ヤバくない?」

 クロがドヤ顔で腕を組む。

「フフン、アタシの魔縫技まぬいわざニャ。着心地も魔力抵抗も最高ニャ!ブーツには、地面の影響を受けない魔法術式も組み込んであるニャ!」


「すごいわクロちゃん!……あ、でも下着が——」

「もう作ったニャ」

気づけば横に、黒と赤のレースの下着セットがふわりと浮いていた。

「え、ちょ、早っ!?」

「料金はもらってるニャー。魔王様払いニャ」


「本当、最高よクロちゃん! これで“魔王軍のスミレ様”って呼ばれても恥ずかしくないわ!」

 サン・ショーは無言で、けれど確かにうなづいた。


 にゃんグルズを出ると、街の喧騒がまた心地よく響いた。

この後も化粧品やら、メイク道具やらを買う。お代は全部魔王ちゃん持ちだった。

 そして、露店の何の肉か分からない串焼きを頬張りながら歩く。

 サン・ショウはほとんど喋らないけど、歩幅はアタシに合わせてくれている。


 やがて、夕暮れ。


「ねぇ、サン・ショウちゃん。今日は本当にありがとうね。アタシ、大満足しちゃった」

「……そうか」


 沈む夕日を見つめながら、ふと聞いた。


「ねぇ、サン・ショウちゃん。アナタ、人間をどう思ってるの?」

「…………弱者は負ける。ただ、それだけのこと。恨みとは、弱さの言い訳だ」


 その声に嘘はない。でも本心は隠してる。二丁目のママの感がそう言ってる。

 彼の仮面を照らす夕陽が、ほんの少しだけ温かく見えた。


「……ねぇ、この戦いの世界でも、アタシちゃんと笑って生きていけるかな?」


「…………」


 サン・ショウは何も言わなかった。

 アタシは小さく息を吐きながら、赤く沈む空を見上げた。


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― 新着の感想 ―
話のテンポはよくて面白いストーリーだと思います。 しかし1点気になるのは… 円卓会議のエピソードでは 「サン・ショウ」だったが当エピソードでは「サン・ショー」になっている。 どちらが正しいのか分…
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