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異世界オネェ~20センチのピンヒールで階段から落ちた先は魔王領だったわ~  作者: 夢想PEN
第1章 新宿2丁目のお・ん・な

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円卓会議

  魔王ウスターからの急なスカウトに、魔王城の空が揺れた夜。

 その場にいた全員が絶句していた。もちろん、アタシも含めて。


 魔王ちゃんは腕を組み、まっすぐアタシを見つめていた。

 その目は透き通っていながらも、どこか覚悟を決めたような――そんな目。


 少し思い出したわ。

 三年前くらいからアタシの店に通ってた、中年のサラリーマンのこと。

 彼の目が、まさに今の魔王ちゃんと同じだったのよ。


 その人はアタシにしか話さなかったけど、会社の役員が何年も前から不正をしていたって話だった。


『俺は、許せない。……覚悟を決めたんです。もし会社を解雇されたとしても』


 彼はそう言っていた。

 アタシは言ったわ。


『それでいいの? あんたの人生プランが狂うかもしれないわよ? あんた、アタシに言ったじゃない。今の会社に入るためにどれだけ苦労したかって』


 彼は笑って言った。


『もし、これで俺が見逃したらきっと後悔する。……この不正は、俺の代で終わらせなきゃいけない。それが、会社のためになると信じてる』


 経験上、ああいう目をしてる人に悪い人はいなかった。

 ただ、真っ直ぐすぎて周りと軋轢を生んでたりはしたけどね。


 ――魔王ちゃんも、きっと悩んでいるのね。何か、大きなことを。


 沈黙の中、アタシは彼の目を見つめ返して言った。


「……アタシが? 理由を聞いてもいいかしら?」


 彼は腕組みを解き、少し考えてから言葉を選んだ。


「ここに別の世界から来たと言ったな。……スミレ、其方にとってそれが吉か凶かは分からぬが、我は好機と捉えている」


「どういう意味……?」


「この世界では、人間と魔族が百年も争いを続けている。……我は、それを終わらせたい。まだやり方は模索しているが、別の世界より人間である其方が来たことで、何かが変わる。そんな予感がしているのだ」


 アタシを信じる理由が、それ?

 イケメンからの誘いはうれしいけど、そんな簡単に信じられるもんなの?


 片手を腰に当て、首をかしげてみせる。


「ねぇ、魔王ちゃん。アタシとあなた、今会ったばかりよ? どこの馬の骨かもわからない、こんな美女をどうやって信じるの?」


 アタシの言葉に、魔王ちゃんが高らかに笑った。


「スミレよ。この目は特殊でな。見た者の心の色――悪意や嘘の有無が分かるのだ。

 其方の色は美しい。苦労を重ねてもなお、自分に謙虚であろうとする……そんな色だ。故に、我は其方が欲しい。……我が願うは、共存。人間である其方の存在が必要なのだ。もちろん、その武力も加味して言っている。……もし断ったとしても、其方には危害を加えぬと誓おう」


 アタシが欲しい、だなんて……。

 あぁん、甘美な響きね。けど、まだよ。アタシ自身で判断しなきゃいけない。


 跪いているダシに目をやる。

 彼は下を向き、拳を地に突いていた。その手は――震えていた。

 怒りを堪えているような、そんな震え。


「……魔王ちゃん。答えを出す前に、一度その人も含めて、他の四天王とも話をさせて頂戴。それから決めるわ」


 魔王ちゃんは口元に微笑を浮かべ、翼をゆるやかに広げた。


「よかろう。場内へ案内しよう。……ダシよ、他の四天王を円卓の間へ集めろ」


「はっ、承知いたしました」


 ダシはそう言い残すと、スッと姿を消した。


 はぁ、嵐の予感しかしないわね。


 魔王ちゃんの後ろをついて、魔王城の中を歩く。

 赤い絨毯の廊下の壁には紫の火がともり、いかにも「魔王城」って感じ。


 この廊下だけでも、観光地にすればお金取れるわね。


 彫刻が美しい螺旋階段を上がると、少し開けたフロアの先に大きなワインレッドの扉が見えてきた。

 ふと立ち止まり、魔王ちゃんが言った。


「我は中には入らぬ。我が居ては本音では皆話さぬであろう。……危害は加えぬと思うが、もしもの時は先ほどの力を使っても不問とする。その点は心配せんでもよい」


「あら、そう? 少し不安だけど、お店の修羅場よりはまだマシね」


 そう言って扉を見つめた。


「終わったら裏手のバルコニーに来てほしい。この部屋から右手に進めば着く。そこで待っている」


 そう言って、彼は一人で歩き去っていった。


「まるで告白待ちの男子みたいね」


 小声でつぶやく。

 その背中を見送ると、アタシの青春時代を思い出した。……ま、振られたけどね。


 まぁ、期待してて魔王ちゃん。どっちに転んでもちゃんと納得する答えをだすわ。


 視線を前に戻し、両手で扉を押し開けた。


 バタン――という音とともに、円卓の間にいた者たちの視線が一斉に突き刺さる。


 右手の席には、顔のすべてを仮面で隠し、腕組みをした男。腰元には長い剣が見える。

 遠くの向かい側には、白を基調にしたゴスロリ服の少女と、同じ薄青の髪をした黒服の少年――双子かしら?

 そして左側の席には、あのイケオジ。冷たい目は相変わらずで、顔色は相当悪い。まぁ、いいけど。


 アタシは手前の椅子にゆっくり腰を下ろし、脚を組む。

 少し態度が悪いけど、ここでナメられたらまともな話はできないわ。


「はじめまして、四天王の皆さん。アタシは八尺純恋。いろいろあって魔王ちゃんからお誘いを受けているの。……あなた達の意見を聞かせて頂戴」


 少しの沈黙。


 ハァと深いため息を吐き、ダシが話し出した。


「……先ずは、自己紹介と行きましょう。私は先ほど会いましたが、もう一度。

 私は“ダシ・ホワイト”。ナットゥ魔王軍参謀で、四天王の一人です」


 続いて右手の仮面の男が、腕組みをしたままで答える。


「…………“サン・ショウ”」


 いや、無口かよ。突っ込みそうになったけど我慢我慢。


「はい!はい! 僕は“シュガー”、そして隣が姉の“ソルト”。よろしくね!」


「ちょっと! シュガー! 勝手に紹介しないでよ!」


 ソルト&シュガーね。二人とも可愛らしいわね。

 姉の方は少し打ち解けに時間がかかりそう。


「みんな、自己紹介ありがと。覚えたわ」


 その瞬間――。


 ――バン!


「私は認めません!」


 突然、ダシが机を叩いた。グレーの瞳が揺れる。


「私が皆さんにさっきお伝えした通り、魔王様はお認めになったかもしれない……しかし、人間など信じられるはずもない! あの人間を!……皆さんもそうでしょう!?」


 まぁ、そう言うわよね。ここでは何も言わないのが吉。どうなるか聞いてみましょう。


「ちょっと、ダシうるさいよ! 私はどっちでもいいわ。世の中、強いものしか残らない。その人もそうなんでしょ」


 ゴスロリのソルト。見た目のわりに達観してるわね。


「えー、ぼくはどっちでもいいよー。魔王様が決めたならそれでいいんじゃない?

 文句があるならその人と戦ってみれば? あれ? もしかして、もう負けちゃった? おもしろーい」


 シュガーは、あんまり興味がないみたい。……でもかなり煽るわね。敵を作りやすいタイプだわ。


「いいえ! 負けてなどいません! 今はそういう話じゃないのです。サン・ショウ、あなたはどうですか?!」


 口調を荒げて、仮面の男に向かって言う。


「……………………皆に任せる」


 その答えに、ダシはがくりと肩を落とし、さらに声を荒げた。


「まったく……四天王ともあろうもの達が、こうも愚かだったとは……!

 人間の……人間に我らの同胞が、どれほどやられたと思っているのですか!?」


 ん~? 嫌われてるのは分かるけど、少し言いすぎね。魔王ちゃんに泥塗ってるの気づかないのかしら。


 ソルトが口元を緩めて答える。


「ダシさー、話がちがうってそっちもだよね?

 人間が人間がってうるさい。今は魔王様の決定に従うかどうかでしょ?

 いい年してほんとみっともな~い」


「だまりなさいソルト! 私は認めない。認めるわけにはいかないのです!」


 そう言って二人は言い合いを始めた。周りは知らんぷり。


 あー、……こりゃダメだわ。話になんない。イライラしちゃうわ。


 ――五分ほど我慢した後。

 アタシが切れようとした瞬間、頭の中で何かがはじけた。


 ————“口撃スキル発動”————


「うっっっっさいわねッ!!! おだまり!!!」


 円卓の間を、ピンクの衝撃波が一瞬にして突き抜け、四天王全員が驚いた顔で硬直する。


「うわっ! な、何!?」

「きゃっ!」

「…………!?」

「……なんだこの圧は……ッ!」


 四天王全員の背筋がピンと伸び、ダシが身震いしている。


 さぁて、アタシの出番ね。


「……あんたら、それでも魔王軍の四天王なの? 魔王ちゃんの理想を理解してるの? まったく、自覚も矜持もあったもんじゃないわね。だまって聞いてりゃまとまりもない。どうするの? アタシを認めるの? 認めないの? はっきりしなさいな!」


「こ、これあんたが?」ソルトが少し怯えた声で言う。


「そうよ。なにか文句ある?」


 目を光らせ、ソルトを見つめる。


「……ないわ。ね、ねっ? シュガー?」


 ソルトの声に、シュガーが小さくうなずく。ちょっとかわいそうね……。


 そして無口だった仮面の男、サン・ショウがふと話し出した。


「これは……認めざるを得ないな。……我々を言葉一つで制するその力。魔王様が推すのも、今納得がいった。……そうだな? 皆」


 ダシ以外がすぐにうなずき、ダシは苦渋の顔で渋々うなずいた。


 こうして――大波乱の円卓会議が、幕を閉じた。

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