舞い降りしイ・ケ・メ・ン♡
塵埃が舞う魔王城前の広場。
崩れた壁面の下では、火竜が舌を出して伸びていた。
風が吹き、粉塵をさらっていく。
その場にいた誰もが、沈黙したまま唖然としていた。
「これ、今……アタシが??」
掌には、確かにあの赤トカゲをぶっ叩いた感触が残っている。
あの、のびているトカゲの白目に、うっすら魔法陣のようなものが見えた気もしたけれど、今はそれどころじゃない。
「あ、あなたがやったのですか……?」
さっきまでスンとしていたダシが、信じられないという顔でこちらを見ていた。
「……多分?」
可愛らしく答えてみる。
「ス、スミレ様やっべーす! 僕、死ぬかと思っちゃいました!」
リッタが尾をブンブン振り、アタシのまわりをぐるぐる回りながら飛び跳ねている。
「やはり……魔法か!? まさか火竜を一撃でしとめるとは……この人はいったい……」
トールがゼフと顔を見合わせ、困惑していた。
「あ……ありえません! その力、やはりあなたは我が国を崩壊させるために送られた魔法使いなのですね!!? いけません……! 今ここで、あなたを排除しなければ……!!」
ダシが震える手で杖を握り、その宝石の付いた先端をアタシに向ける。
「穿て、光の矢よ――”神光・滅穢矢”!」
ダシの頭上に光が集まり、一本の矢となった。
「え~ッ! ちょっと待ちなさいよ! アタシって恩人じゃないわけ!? この恩知らず!! 白タキシード!! イケオジ!!……あっ、イケオジは誉め言葉ね」
「な、何をわけの分からないことを……問答無用ですッ!!」
「いや~ん!」
光の矢がアタシに向かって放たれた瞬間――
パァァァン!
黒い光の球が矢にぶつかり、かき消した。
飛んできた方向を見上げると、二階のバルコニーのような場所から人影が飛び降りてくる。
漆黒の翼を広げ、ゆっくりと音もなく地上に降り立つ。
若く見える容姿。褐色の肌、黒い翼、赤い髪。血管の浮き出た腕、たくましい胸筋――うわ、彫刻みたい♡
あの石像にそっくりな、超絶イケメン。
若いころのキムタクを見ているみたい……!
「……魔王様!」
ダシが杖を収め、その場の全員が頭を下げて跪いた。
えっ、この人が魔王様?
どうしよ、アタシ、ドキドキしちゃってる。
魔王は手を叩きながら笑った。
「おい、人間の……女? ……まぁいい。お前、なかなかやるな」
「あっ、どうも~。アタシもびっくりしちゃって」
「そうか。我が名はウスター――この国の王だ。ずっと上から見ていたが、本当に面白いものが見れた。感謝する」
ちょっと、アタシ。
イケメンだからって遠慮しちゃダメ!
何年“ママ”やってきたと思ってるの?
しっかりしなさい、スミレ!
「あら、楽しんでもらえたなら良かったわ。
アタシは八尺純恋よ。よろしくね、魔王ちゃん♡」
「き、貴様! 魔王様に“ちゃん付け”など……無礼極まりない! やはり今ここで……!」
ダシが憤怒の顔でこちらを睨む。
「なによ、あんたらの常識でアタシを計らないでちょうだい」
プイッと腕組みして顔をそらす。
キュートに見えるテクニックよ。
「ダハハハ! ダシ、かまわんよ。好きに呼ばせておけ」
「い、いえしかし魔王様……」
ウスターが目線だけダシに向け、表情を曇らせる。
「お前、我の言葉が聞けんというのか?」
「……いえ! 滅相もありません!」
そう言って再び頭を下げた。
若く見えるのに、やっぱり魔王なのね……。
「して、人間――いや、スミレよ。お前はなぜここに来たんだ?」
ウスターが興味深そうに覗き込む。
そんなに見られると、ドキドキしちゃう。
でも、なんかこの人にはちゃんと話した方がいい気がするわね……。
「アタシも、ここがどこだか分からないの。
正確には女神のいたずらで、別の世界から来た?……そんな感じかしら」
「……女神……ハレンチか?」
「そっ、あのブスのせいで高い所から落ちるし、変な森でワンちゃん達に襲われるしで、さんざんだったんだから」
ウスターの目が一瞬、怪しく光った。
心の中を見透かされているような――そんな目。
「……お前、嘘はついていないみたいだな。
驚いた。まさか、女神が寄越した使徒だったとは」
「使徒~? そんなんじゃないわよ。アタシは地球生まれ、東京育ち、そして新宿二丁目のママよ! それ以上でもそれ以下でもないわ」
表情が一気に明るくなり、バサッと翼を広げてウスターが言う。
「気に入った! ダシの圧力にも屈しないその胆力、そして火竜をも一撃でしとめるその膂力! 感嘆に値する!」
「いやん、魔王ちゃん、ちょっと褒めすぎよ~。アタシ照れちゃうじゃない」
腰をくねくねさせて女の子アピール。
そして、一瞬、空気が止まった。
ウスターが黙り込む。
「……えっ?」
アタシがウスターを見た時、彼は言った。
「スミレ。今日からお前は、魔王軍の幹部になれ」
「……はい??」
「「「えーーーー!!!!」」」
本日二度目の大合唱が、夜空に響いた。




