炸裂♡おねぇスラップ
石畳を月明かりが照らす。周りの石像はどれも丁寧に作りこまれていて、思わず見とれてしまいそうだった。
そのうちの一つ――大きな翼で、胸筋から足の先まで美しく、ゾクゾクしちゃうようなイケメンの像があった。
この世界には、アタシのタイプの魔族がいるかもしれないわね。
そう感じながら、ゼフについて魔王城の入り口まで歩いた。
すると、突然目の前に現れたのは、全身白のタキシードにシルクハット、胸元の懐中時計がおしゃれな中老のイケオジ。
「ダシ・ホワイト様!」
ゼフたちが一斉に頭を下げる。
その手に持つ杖の先には、青白く輝く宝石が品の良さを引き立てていた。よく見ると、腰あたりからトカゲのような尻尾が生えている。
やっぱり、この人も“魔族”なのねぇと思っていた時、彼が話し出した。
「あなたが見ていた像……そちらは先代魔王様。素晴らしいお方でした。……そう、あなた方人間に殺されるまでは」
冷たい空気が広がる。そのグレーの瞳からは明らかな敵意が感じられた。
「ゼフちゃん、あの人は誰? なんかアタシ嫌われてるみたいなんだけど」
ゼフが頭を下げたまま、焦った様子で答える。
「お、お前頭を下げろ! あの方は魔王軍四天王の一人、参謀のダシ・ホワイト様だ! まさか、説明する前に自らお越しになるとは……!」
ふ~ん。でもちょっとだけ、イラっとしちゃう。
「なんでよ。アタシ悪いこともしてないのに、下げる頭はないわ」
少し呆れたように、ダシが話し出す。
「……下賤な人間如きが、この魔王城に足を踏み入れるとは。……ゼフ、言い訳次第では尻尾の一本くらい無くなる覚悟があるのでしょうね? この人間を連れてきた理由を述べなさい」
空間に漂う強烈な圧力。アタシの目の前で伏せるゼフが身震いしている。
もう、見てらんないわ。こんなのパワハラよ、やんなっちゃう。
「ねぇ、白ダシだか黒ダシだか知らないけど、上司なら先ずは優しく聞いてあげなさいな」
「黙りなさい人間。私はゼフに聞いているのです。あなたの処分はその後。……せいぜい楽しみにしていてください」
そう言ってゼフに何か言おうとした瞬間、空の上から大型の恐竜のような鳥が姿を現した。
「ダシ様ーッ!!」
焦った様子で石畳に降り立つ。
「何事ですか……?」
落ち着いた声でダシが問う。
「偵察部隊所属、ワイバーン隊デルトンです! ダシ様、緊急事態です! ……魔物が! “死の山”から暴走した火竜が、こちらをめがけて向かって来ております!」
その言葉と同時に、遠くの空が真っ赤に染まり、風が熱を帯び始めた。
そして、見えてきたのは赤い鱗の巨躯――魔王城の上空を覆うように迫る。
「なぜだ!? ……あの山の魔物は縄張り意識が強く、あそこから出ないはず……!」
ゼフが牙を剥き出し、尻尾を上げる。警戒心むき出しの表情。
火竜は空中で羽ばたきを止め、そのままこちらを向いて口を大きく開けた。
喉元が赤く光り、大気が熱をもって震える。
「やだぁ、なんか嫌な感じがするわぁ……」
アタシの声をかき消すように、ゴォォという轟音がなる。そして、竜の口から放たれた巨大な火球が広場めがけて撃ち込まれた。
石畳が赤く照らされ、急激に熱を持ちはじめた。
「あぁ、もしかしてアタシここでまた死ぬのかしら? 丸焼けなんて、勘弁してほしいのだけど……」
そう呟いた途端、ダシの杖が光を放つ。
「まったく、今日は嫌な客人が多いですね。……——守れ“ 幻鏡六角穹・歪真”——」
魔王城上空に、六角形の青い光が展開。火球がぶつかり、花火のように弾けて夜空を美しく照らした。
「あらぁ、綺麗だわぁ。まるでファンタジーの世界ね」
「すっげーす!! ダシ様! まさか、あの“短縮詠唱”が見られるなんて!」
リッタが飛び跳ね、喜ぶ。
「まだ……終わってませんよ!」
ダシが言ったその時、火竜が翼をたたみ、急降下した。
「まずい! あの盾は、強力な物理攻撃は防げません。そのまま突っ込む気ですか!」
火の竜の真下にはリッタ。
その瞬間、なぜかアタシの目には時間が遅く見えた。
光の盾を突き破り襲いかかる竜。そして怯えた表情のリッタ。
“リッタちゃんを──助けなきゃ”
そう思った瞬間、脳内にあの声が響く。
——”おねぇスラップ発動”——
聞こえたと同時に、アタシの手が火の竜の右頬をとらえる。
「いや〜ん♡」
パァァァアアアン!!!
叩いたところからド派手なピンク色のハートが弾け、竜が吹き飛ぶ。
そのまま壁面に激突し、夜空に白い煙が舞い上がった。
一同、沈黙。
白目をむいて倒れる火の竜。
呆然とするアタシ。
「あ……あら?」
「「「えーーー!!!」」」
みんなの驚愕の声が夜空に響いた。




