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異世界オネェ~20センチのピンヒールで階段から落ちた先は魔王領だったわ~  作者: 夢想PEN
第1章 新宿2丁目のお・ん・な

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いざゆかん、魔王城

  深淵の森を歩き始めて、しばらく経った。

 相変わらず、三頭に囲まれながら進む。


 前方を歩くワンちゃん――いや、隊長のゼフに聞きたいことがあった。


「ねぇ、ゼフちゃん。この深淵の森ってなんで危険なの?」


 ゼフは振り返らずに答える。


「お前、そんな事も知らずにこの森にいたのか?……まぁいい。この森一帯は濃い“マナ”の影響で魔物が溢れている。いつ襲われても不思議じゃない場所だ」


 周りをキョロキョロと見渡す。


「そう。でも、さっきから何にも襲ってこないじゃない」


「……それは我々が比較的安全なルートを知っているからだ。まぁ、冒険者達なら気にせず突っ込むだろうが」


「ねっ、アンタ達は自分のことを“魔族”って言うじゃない? それって魔物と何が違うのかしら?」


「本当になんも知らないんだな……魔物とは“知恵を持たず魔法を使えない者”。魔族とは“言葉を話し、魔法を使える者”のことだ。見た目は似てる奴がいても、根本的に違う」


 魔法――なんて素敵な響き。

 おとぎ話の中でしか聞いたことがない言葉に、心が躍る。


「えっ、じゃあさ、ゼフちゃんも魔法が使えるのかしら?」


 ゼフが答えようとしたその時、地鳴りが走り、地面が裂けた。

「下がれ!」

 巨大なミミズのような生物が、大口を開けて這い出してくる。


 ゼフが身を翻し、攻撃をかわす。空中を一回転し、地面に軽やかに着地。


「魔法が使えるか。愚問だな……見ておけ――“そよ風よ、流るる螺旋の渦よ、今重なりて刃と成せ”――風刃烈斬ふうじんれつざん!」


 木々がざわめき、風の音が響く。ゼフの周囲に風が集まった瞬間、真空の刃が走り、巨大ミミズを真っ二つに切り裂いた。


 ドォォン――!

 血しぶきと共に地面が震える。


「いやあぁああん♡ ゼフちゃん、かっこいいわぁ!」


 巨大ミミズよりも、ゼフの魔法の方がよっぽど衝撃的だった。


「隊長さすがっす!」「さすが隊長!」

 レッタとトールも尾を振りながら喜んでいる。やっぱり犬ね。


 ミミズの死体を横目に歩き出すと、ゼフが言った。


「魔族は皆、魔法を使う。人間も……お前がさっき使ったのもそうじゃないのか? 我々を萎縮させた、あの衝撃波。あんな風になったのは初めてだった」


 ――女神がくれた“スキル”ってやつね、きっと。

 でも、なんだろう。少し違う気がするわ。


「ん~どうかしら、アタシもよく分からないわ」


「……そうか」

 そう言って前を向き直ったゼフの横顔は、少し怪訝そうだった。


 やがて、歩き疲れてきた頃――急に森が開け、広大な草原が広がった。

 そよ風が草を撫で、少し欠けている月がやわらかく照らす。


 気持ちのいい夜風が頬をなでる。

 その先――草原の奥に、東京都庁を三倍にしたような巨大な城が浮かび上がった。


 すんごいお城。アタシ、本当に異世界に来たのね……。


 呆然としていると、後ろのレッタが声をかける。


「あれが“ナットゥ魔王国”、魔王城です」


「そう……あれが……って、アタシを魔王城に連れてく気? お化粧も直してないのに?」


「ご、ごめんなさい。安全な場所って、近くじゃここしかなくて……」


 しょんぼりと尻尾を下げるレッタ。思わず微笑んでしまう。


「いや、いいのよレッタちゃん。ごめんなさいね。アンタたちは悪くないわ。全部、あのバカ女神のせいよ」


 そんな会話を交わしながら歩いていく。

 思えばワンちゃんと話すのなんて初めてなのに、全然平気ね。

 さすがアタシ、ちょっとのトラブルじゃ動じないオンナ。


「ついたぞ」


 ゼフが振り返り、アタシと目を合わせる。

 その先には――高さ二十メートルはある金属の荘厳な門。

 左右には果てしない城壁が連なり、魔王城を囲っていた。


「おったまげたわね……すんごく、おっきくて……ふっとぉい門♡」


 後ろの二匹が、なぜか身震いしている。


「トール先輩、なんか僕いま悪寒がしました」

「……俺もだ。こいつ、やはり危険だぞ」


 こそこそ話してるのが聞こえる。……まぁ、聞かなかったことにしとこ。


 それにしても、このスケール。

 前言撤回だわ。さすがのアタシでも驚いた。


 巨大な門を見上げていると、ゼフがそっと前足をかざした。


「――ひらけゴマ」


「あら、シンプルなのね♡」


「……うるさい」


 少し恥ずかしそうなゼフ。……胸がキュンとした。


 門を囲むように光が走り、ゴゴゴゴゴと鈍重な音を立てて開いていく。


 目の前には端然とした石畳の広場があり、その奥にそびえるのが――魔王城。


「会ってほしい方がいる。ついてきてくれ」


 ゼフの後ろを歩く。

 石畳をピンヒールが響く。緊張より、好奇心が勝る。


 壁に刻まれた彫刻、整然と並ぶ石像。

 その一つ一つが、ここがもう“元の世界じゃない”ことを静かに告げていた。


 ――今はまだ、正直楽しんでいた。

 これから何が起きるのかも知らずに。

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