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異世界オネェ~20センチのピンヒールで階段から落ちた先は魔王領だったわ~  作者: 夢想PEN
第3章 ガルム王国と不穏な香り

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起きたら腰が痛いったらなんの

 意識が、浮上していく。

 頭が、ぼんやりする。

 体が、重い。


 ……ここ、どこ?


 ゆっくりと、瞼を開けた。

 見慣れた天井が、視界に入る。


「……魔王城?」


 アタシの部屋だ。

 自室のベッドで、寝ていたらしい。


 のそっと体を起こそうとして──


「いったぁぁぁ!!」


 腰が、痛い。

 体が、ガチガチ。

 まるで、フルマラソン走った翌日みたいな筋肉痛。


「なによこれ……アタシ、どんだけ動いたのよ……」


 ゆっくりと上半身を起こす。

 体中が軋む。

 特に腰が痛い。


「中年の体に、ムチ打ちすぎたわね……」


 深淵の森での戦いが、フラッシュバックする。

 魔物の大暴走。

 ウルカを救った。

 そして──


 掌を、見つめる。


「……アタシが、みんなを守ったのね」


 調律の声―チューニング・ヴォイス。

 あの新しい力で、魔物を全部吹き飛ばした。

 人間軍も、魔王軍も、守れた。


「でも、疲れたわぁ……」


 その瞬間──


 ガチャリ。


 部屋のドアが開いた。


「失礼しま──」


 小柄なネズミ獣人のハジカミちゃんが、箒を持って入ってくる。

 そして、アタシと目が合った瞬間──


 ガランッ!!


 箒を落とした。


「ス、スミレ様!! お目覚めになったんですね!!」


 慌てて駆け寄ってくる。

 小さな手が、テーブルのコップに水を注いで、アタシに差し出す。


「ありがと、ハジカミちゃん」


 水を一気に飲み干す。

 喉が、カラカラだった。


「ぷはぁ……生き返るわぁ」


「スミレ様、ご無事で……本当に良かったです……」


 ハジカミちゃんの目に、涙が浮かんでいる。


「え、ちょっと、どうしたの?」


「だって……スミレ様、三日間も眠り続けていたんですよ!?

 みんな心配して……」


「……三日?」


 え。

 そんなに?


「そう、三日間……。お医者様も、消耗が激しいって。

 いつ目を覚ますか分からないって……」


「あらま……」


 そりゃあ、体もガチガチになるわよね。

 三日間ベッドで寝たきりだったんだから。


「でも、良かった……本当に……」


 ハジカミちゃんが、涙を拭う。


「ごめんね、心配かけて」


「いえ! スミレ様が無事なら、それで!」


 ハジカミちゃんが、パッと顔を上げた。


「あ、そうだ! 報告に行きます!

 スミレ様がお目覚めになったって、みなさんにお伝えしないと!」


「あ、ちょっと──」


 止める間もなく、ハジカミちゃんが部屋から飛び出していく。


 バタン!


 ドアが閉まる。


「……行っちゃった」


 一人、取り残される。


 まぁ、いいわ。

 アタシも、みんなに会いたいし。


 ゆっくりとベッドから降りる。

 腰が、また痛む。


「いたたた……」


 鏡を見る。

 髪はボサボサ。

 顔色も悪い。


「うわぁ……ひどい顔してるわね、アタシ」


 でも、生きてる。

 みんなを守れた。

 それで、良かった。


 ***


 しばらくして──


 再びドアが開いた。


「スミレ様!」


 ハジカミちゃんが戻ってくる。


「玉座の間で、皆様がお待ちです!」


「分かったわ。ちょっと待ってて」


 アタシは、クローゼットから服を選ぶ。


 今日は──紫のドレスにしようかしら。


 着替えて、髪を整えて、軽くメイク。

 そして──

 20センチのピンヒールを履く。


 カツン、カツン。


 廊下を歩く音が、城に響く。


 この音、やっぱり好き。

 アタシが、アタシでいる証拠。


 ハジカミちゃんが先導して、玉座の間へ向かう。


 大きな扉の前で、ハジカミちゃんが止まる。


「スミレ様、どうぞ」


 ハジカミちゃんが扉を開ける。


 玉座の間。

 広い空間に、魔王ウスターが玉座に座っている。


 そして──

 その前に、四天王が並んでいる。


 アタシが入ると──


「お姉様ぁ!!」


 双子が、一斉に駆け寄ってくる。


「お姉様、無事だったんだね!!」

「心配したよぉ!!」


 ソルトとシュガーが、アタシに抱きつく。


「ちょっと、二人とも、痛い痛い! 腰が痛いのよ!」


「あ、ごめんなさい!」


 二人が離れる。


 サン・ショウちゃんも、仮面の下で微笑んでいるのが分かる。


「スミレ……無事で良かった」


 その声は、いつもより温かい。


 ウスターも、玉座から立ち上がる。


「スミレよ、よくぞ戻った。

 お前の活躍は聞いている。見事であった。もう体調は問題ないか?」


「ありがと、ウスターちゃん。おかげ様で、腰が痛いくらいだわ」


 でも──

 一人だけ、複雑な表情をしている人がいる。


 ダシ。

 白髪の参謀が、アタシを見ている。


 その目は──何か、言いたげ。

 でも、何も言わない。


 ウスターが、話し始める。


「サン・ショウ、スミレ、シュガー、ソルト。

 良くやった。今回は我々の勝利と言っていい」


 ウスターの声が、玉座の間に響く。


「人間軍の誰かが、裏で手を引いていることが分かっただけでも収穫だ」


 そして、サン・ショウちゃんを見る。


「サン・ショウ、戦いの中で他に気づいたことは無いか?」


 サン・ショウちゃんが、少し考えてから答える。


「……敵の、司令官が魔法付与エンチャント武器を使っていました」


 その瞬間──

 ダシが、顔色を変えた。


「なんですって!?」


 ダシの声が、珍しく大きい。


「魔法付与武器はガルム王国の秘伝ですよ!?

 あのガルムが人間軍と繋がっていると言う事ですか?」


 ガルム王国。

 ドワーフの国で、人間を憎んでいるって、ウスターちゃんから聞いたことがある。


 そんな国が、フルール・ド・セルと協力?


 ……おかしいわね。


 サン・ショウちゃんが続ける。


「分からぬ。他にも、人間の兵士達の剣がやけに切れ味が良かったと、アガマ部隊から聞いている」


 ダシが、腕を組む。


「ガルムは、人間を憎んでいる。

 かの国は、冒険者が武器を購入する際も、厳しく持ち主を管理しています。

 それほど、慎重なのです」


 ダシが、苦々しく続ける。


「人間軍が、ガルムの武器を持っている……ありえないことです」


 ウスターが、深く息を吐く。


「……なるほど。

 人間嫌いのあの国が、フルール・ド・セルと協力するとは思えないが……」


 そして、ダシを見る。


「ダシよ、ガルムに赴き調べてみてくれ」


「はい、かしこまりまし──」


 ダシが、頭を下げかける。

 でも──


「スミレと共に……な」


 ウスターが、付け加えた。


「……?

 えっ、私が、この人と一緒にですか!?」


 ダシが、アタシを見る。

 その目は──明らかに嫌そう。


 あらま。

 アタシ、そんなに嫌われてるのかしら。


「いいじゃない。アタシとじゃいやかしら?」


 ニッコリ笑ってみる。


「……くっ」


 ダシが、歯を食いしばる。

 でも、何も言えない。


 王の前だから、変なことは言えないわよね。


 ウスターが、諭すように言う。


「ダシよ、お前が人間が嫌いなのは分かる。

 しかし、スミレは別だ」


 そして、少し厳しい口調で続ける。


「我としても、幹部がまとまってないと困るのだ。

 故に、ともにこの任務を果たしてみよ」


 ダシが、深く息を吐く。


「……かしこまりました」


 渋々、頭を下げる。


 双子が、クスクス笑う。


「ダシ、変な顔ー!」

「いつもクールなのにぃ!」


「うるさい」


 ダシが、双子を睨む。

 でも、双子は笑い続ける。


 ウスターが、話を締めくくる。


「出発日は、準備が整い次第で良い。

 まずは、街にでも行って物資を整えろ」


 アタシは、ニッコリ笑う。


「分かったわ。次もアタシ頑張っちゃう」


 ウスターが、珍しく笑った。


「頼むぞ、スミレ」


 ***


 会議が終わり、玉座の間を出る。


 双子が、アタシの両脇を歩く。


「お姉様、ダシと一緒で大丈夫?」

「あの人、ちょっと怖いよね」


「大丈夫よ。アタシ、人を口説くの得意だから」


「口説く!?」


 双子が、目をキラキラさせる。


「お姉様、恋バナ!?」

「違うわよ! 説得するって意味!」


 三人で笑いながら、廊下を歩く。


 サン・ショウちゃんも、後ろから付いてくる。


「スミレ……無理はするなよ」


「ありがと、サン・ショウちゃん。でも、大丈夫」


 アタシは、振り返って笑う。


「アタシ、みんなを守るって決めたから」


 サン・ショウちゃんが、小さく頷く。


「……ああ。お前なら、大丈夫だ」


 その言葉が、温かい。


 アタシは、また前を向く。


 ガルム王国か。

 ダシと二人っきりの任務。


 ちょっと不安だけど──

 でも、きっと大丈夫。


 アタシなら、なんとかなるわよ。


 廊下の先に、光が差している。


 アタシは、その光に向かって歩き出した。


 カツン、カツン。


 ピンヒールの音が、城に響く。


 次の冒険が、始まる。

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