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異世界オネェ~20センチのピンヒールで階段から落ちた先は魔王領だったわ~  作者: 夢想PEN
第2章 戦場に咲く乙女の華

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深淵の悪魔♡

 パァァン! パァァン!


 ウルカを背にしながら次々くるデカい鬼とか、ぶっさいくなゴブリンをスラップでぶっ飛ばす。

 本当にキリがないったりゃありゃしない。


「これが、スミレ様の……!」


 アタシの後ろにいるウルカから、アタシがぶっ飛ばす度に「おぉ」という素っ頓狂な声が聞こえる。


「ちょっと、関心してないで早く立ちなさい!」


 ウルカに退却を促しながら、鬼の大振りな拳を避けて腹にスラップを決める。

 吹き飛んだ鬼にぶつかった魔物の集団がボーリングのピンみたいにはじけ飛んでいく。


「は、はい! ありがとうございます!」


 ウルカが慌ててアガマに跨がり、撤退していく。


 ──良かった。


 胸の奥が、少しだけ温かくなる。


 でも──


 視界の端で、誰かが襲われているのが見えた。

 人間軍の兵士だった。


 巨大なサソリのハサミに体を挟まれながら悲鳴を上げている。

 盾が砕け、鎧が裂けている。


 その傍に、魔族の兵士も倒れていた。

 背中から血を流して、動かない。


 さらに奥。

 また別の場所でも、人が倒れている。


 ──まだ、いる。


 逃げ遅れた人たちが、魔物に襲われている。

 人間も、魔族も。

 関係なく、やられている。


「……最悪ね」


 胸の奥が、ざわついた。


 これ──

 前にもどこかで。


 ***


 新宿二丁目、アタシの店。


 酔っ払いが暴れて、グラスを割って、テーブルをひっくり返した。

 スタッフの子が止めようとして、突き飛ばされた。


 頭を打って、血が出た。

 他のお客さんも、怯えていた。

 店が、めちゃくちゃになった。


 その時、アタシは──


 何も考えずに、その酔っ払いの前に立ち、胸倉をつかみ、そのまま持ち上げる。


「……アタシの大切なものを、傷つけんじゃねーよ」


 一喝した。


 店は、シンと静まり返った。

 酔っ払いは震え上がり、酔いが醒めたみたいな顔して謝った。


 ***


 ──そうだ。

 アタシは、そういう奴だった。


 アタシの大切な場所を。

 アタシの大切な人たちを。

 めちゃくちゃにする奴は、許さない。


 守りたいとか、そういうんじゃない。

 許せないのよ。


「──アタシの大切なものを、傷つけんじゃねーよ」


 その瞬間だった。


 胸の奥で、何かが弾けた。


 熱いんじゃない。

 温かいんでもない。


 ──澄んでいる。


 まるで、綺麗に調律された音色のような感覚。

 バラバラだった不協和音が、一つの旋律になる。


 そして、脳内に響く声。


 ──口撃スキル進化──

 ──調律の声チューニング・ヴォイス絶対威圧コマンドプレッシャー発動──


「……何、これ……」


 次の瞬間──


 アタシの体から、ピンクの衝撃波が放たれた。

 それは広大な森を覆いつくすほどに広がって、地獄と化した森を一瞬にして飲み込んだ。


 時間が、止まった。


 いや、正確には──

 アタシ以外の全てが、止まった。


 魔物も。

 魔族も。

 人間も。

 風さえも。


 まるで、世界がアタシの「意志」に従ったかのように。


「……動ける……アタシだけ……?」


 ゆっくりと歩き出す。

 20センチヒールが枝葉を踏む音だけが、静寂の森に響く。


 魔物たちの前に立つ。

 鬼みたいな巨体も、ゴブリンの群れも、でっかいサソリも。


 全員が、まるで彫刻のように動きを止めている。


「……お前ら」


 アタシは、低い声でゆっくりと言った。


「マジ、いい加減にしろよ」


 その瞬間──


 魔物たちの目から、魔法陣が消えた。

 目を丸くして、アタシを見る。


 そして──

 冷や汗をかき始めた。

 歯をガタガタと鳴らしている。


 言葉が通じないはずなのに。

 アタシの「意志」が、そのまま伝わっている。


 恐怖している。

 アタシを。


「……へぇ。効いてるじゃない」


 そして、時間が動き出した。


 魔物は恐怖に震え、その場から動けない。

 人間軍も、魔王軍も、まだ動けないでいた。


 でも──

 その感覚は、それぞれ違っていた。


「な、なんだこれは……!?」


 グロセルの声が、震える。


「動けん……まるで、竜に睨まれたスライムのような感覚だ……」


 アランが低く呟く。


「……苦し……い」


 シンジィは錫杖を強く握りしめながら震えている。

 全身が、金縛りにあったように動かない。

 息をするのさえ、苦しい。


 圧倒的な力。

 抗えない存在。


 まるで、死神に睨まれたような──恐怖。


 一方、魔王軍の陣営。


「これは……前よりも強力な……!」


 サン・ショウが呟く。


 体は、確かに動かない。

 でも──


 恐怖ではなかった。


 むしろ──

 安心感。


 まるで、子供のピンチに親が助けに来たような。

 頼れる誰かが、守ってくれるような。


 温かい。


「お姉様……」


 ソルトとシュガーも、動けないながらも笑顔を浮かべていた。


「すごい……」

「すごいよ……でも動けないー!」


 ウルカも、涙を浮かべている。


「スミレ様が……守ってくださる……」


 アガマ部隊の犬獣人たちも、動けないまま、スミレを見つめていた。

 誰もが安堵し、ただ──見守っていた。


 自分たちの、大切な仲間を。


 そしてアタシは、ゆっくりと振り返る。

 人間軍の方を向いた。


「さぁて、……人間軍のみなさん」


 静かに言う。


「もう帰っていいわよ。ここは、アタシがなんとかしとくから」


 その瞬間──


 まるで金縛りが解けたかのように、人間軍が動けるようになった。

 その場の全員が呼吸するのを許されたように、肩で大きく息を吸い込む。


「……動ける……!?」


 グロセルが驚愕する。


 アランが、アタシを見つめる。

 その目には、複雑な感情が浮かんでいた。


「……すまん」


 アタシは、軽く笑った。


「いいのよ。でも、一つ貸しね♡」


 投げキッスをする。


「今度、デートしてちょうだい」


 アランの顔が、一瞬だけ赤くなった。


「……考えておく」


 そう言い残して、人間軍は撤退していく。


 アタシは、魔物たちに向き直った。


「さて、と」


 腕をぐるぐる回す。


「アンタたちが操られてたのは知ってるけどさ」


 右手を構える。


「やられたら、やり返すのがアタシだからさ」


 ニッコリ笑う。


「歯ぁ食いしばんな」


 次の瞬間──


 アタシは、魔物に向かって走り出した。


「いやぁぁぁぁん♡」


 パァァン! パァァン! パァァン!


 スラップが炸裂する度に、魔物が空へ舞い上がる。

 鬼みたいな巨体が、ぶっさいくなゴブリンが、猪が。


 次々と、ピンクのハートと共に、空へ打ち上げられていく。


「はい、一匹、二匹、三匹──」


 数えながら、次々とスラップを決める。


 十匹、二十匹、三十匹。


 まるで、花火を打ち上げるように。

 魔物たちが、森の上空へと放物線を描くように打ち上がる。


 ピンクのハートが、青空の下で輝く。


 五十匹を超えた辺りで、数えるのをやめた。


「もう、分かんないわよ!」


 それでも、スラップは止まらない。


「いやん♡ やん♡ やん♡」


 パァァン! パァァン! パァァン!


 魔物が次々と空へ飛んでいく。


 そして──

 その光景を、魔王軍は見守っていた。


「すごい……」

「スミレ様、すごい……」


 犬獣人たちが、感動に震えている。


 双子も、キラキラした目でアタシを見ている。


「お姉様、かっこいい……」

「最高だよ……」


 サン・ショウも、静かに頷いていた。


 ***


 ──その頃、フルールドセル王国。

 城壁の監視塔。


 見張りを務める兵士が、望遠鏡で深淵の森を見ていた。


「……ん?」


 遠く、森の内部。

 何かが光っている。


 ピンクの光。


 そして──

 何かが、空へ飛んでいく。


「なんだ、ありゃ……?」


 交代のため監視塔に登ってきた仲間に声をかける。


「おい、あれ見てみろよ」


 仲間も望遠鏡を覗く。


 そして──

 二人は、同時に震え上がった。


 森の中で、魔物が次々と空へ飛ばされている。

 ピンクのハートが、昼の光の中で無数に飛び散っている。


「な、なんだあれ……あのオーガも、キングゴブリンも、スコルピアまで!?」


「悪魔だ……森で、深淵の悪魔が暴れてる……」


 二人は、恐怖に震えながら、ただその光景を見つめるしかなかった。


 ***


 ──数分後。


 アタシは、最後の魔物を空へ打ち上げた。


「はぁ、はぁ……」


 息が上がる。


 周りを見渡す。

 魔物は、もういない。

 森は、静かになった。


 逃げ遅れていた人間は──

 みんな、無事に撤退できたみたいね。


「……やった、のかしら」


 その瞬間、膝が崩れた。


「わっ」


 ガマちゃんが駆けつけて、アタシを支える。


「ありがと、ガマちゃん」


 頭を撫でると、ガマちゃんが嬉しそうに喉を鳴らす。


「ギャウ!」


 サン・ショウちゃんたちも駆けつけてきた。


「スミレ……」


 サン・ショウちゃんが、静かに言った。


「お前なら、やってくれると信じていた」


 その言葉に、アタシは少しだけ驚いた。


「……信じてた、って」


「ああ」


 サン・ショウちゃんが、仮面の下で珍しく笑った。


「お前の力は、前とは違った。威圧されたが──恐怖ではなかった」


「え?」


「もう大丈夫という、安心感があった」


 双子も頷く。


「うん、そうだった」

「怖くなかった。お姉様が守ってくれるって、分かった」


 ウルカも涙を浮かべている。


「スミレ様……ありがとうございます……」


 胸の奥が、温かくなった。


「……そっか。アタシ、ちゃんと守れたんだ」


 ソルトとシュガーが、キラキラした目でアタシを見る。


「お姉様、すごかったよ!」

「魔物が全部空に飛んでった!」


「……そうね。アタシもびっくりよ」


 苦笑いする。


 そして──

 青空を見上げた。


 木々の隙間から、白い雲が流れていく。

 ピンクのハートは、もう消えている。


 でも──

 心の中に、まだ残っている。


 ──調律の声。


 アタシの新しい力。

 これで、みんなを守れる。


 でも、疲れた。

 すごく疲れた。


「あ、れ……」


 疲労が一気に押し寄せて、意識が遠のいていく。


「スミレ!」


 サン・ショウちゃんの声が遠くなる。


 アタシは、ガマちゃんに支えられながら──

 そのまま、意識を手放した。


 深淵の森に、静けさが戻る。

 木漏れ日が、優しくアタシを照らしていた。


 こうしてアタシの初陣は、終わった。


 でも、戦争は──

 まだ、終わっていない。

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