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異世界オネェ~20センチのピンヒールで階段から落ちた先は魔王領だったわ~  作者: 夢想PEN
第2章 戦場に咲く乙女の華

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深淵からの声

 両陣営が朝を迎えた。


 霧の中を、夜明けの薄明りを頼りに人間軍は進軍を始めた。

 疲れは取れていないが、皆戦士の顔をして無言で枯れ枝を踏みながら進む。


 一方、魔族軍は泉の前で整列し、サン・ショウの言葉を待っていた。

 泉の水のおかげか、魔族兵はすっきりとした表情で全員が前を向き、アガマも喉を鳴らす。


「……この戦い、正義は我らにある。深追いする必要はない。

 アガマで翻弄しながら数を減らし、敵を撤退に追い込め」


 魔族兵の雄たけびの中、アタシは手をぎゅっと握る。


「そう、アタシは決めたの。みんなを守るって。やってやるわよ」


 サン・ショウちゃんの合図で、みんなアガマにまたがって深淵の森へと走り出した。


 ***


 ソルトとシュガーがアタシの両脇に並んだ。


「お姉様、今日も後方で待機だからね」

「僕たちが守るから、安心してよ」


「えぇ、分かってるわよ。……でも、本当にアタシ役に立ってるのかしら?」


 双子が同時に振り向き、ニコッと笑う。


「「お姉様がいるだけで、みんな元気になるんだよ」」


 そう言い残して、二人は木々の間へ消えていった。


 アタシはガマちゃんの首にしがみつき、小さく息を吐く。


「……さて、今日はどうなることやら」


 ***


 森の入口では、人間軍が整然と並んでいた。


「全軍、前進! 昨日の陣形を維持しろ!」


 グロセルの号令とともに、盾兵が前へ進む。

 その後ろにアラン、そして勇者パーティーが続く。


「アランさん、今日も魔物が少ないですね……」


 モウが周囲を見回しながら呟く。


「ああ……やはりおかしい。警戒を怠るな」


 アランが大剣を構え直したその時──


 ドォンッ!


 地面から巨大な木の根が突き出し、人間軍の隊列を分断した。


「くっ、またあの技か!

 全軍、散開! 各小隊で対処しろ!」


 グロセルの指示で、人間軍は四つの小隊に分かれる。

 そして、木々の上から矢の雨が降り注いだ。


「魔法師隊、反撃! 雷撃で木の上を狙え!」


 モウとエシレが詠唱を始める。


「「——雷魔法・蛛網黒雷ちゅもくこくらい!」」」


 黒い雷撃が空を走り、アガマ部隊が木から飛び降りる。


「さすがに同じ手は通じないか……」


 サン・ショウが呟き、剣を抜く。


「ならば──地上戦だ」


 ***


 アタシは後方の大きな木の上で、戦況を見守っていた。


 サン・ショウちゃんの精霊剣が地を裂き、

 双子の双魔舞踏が人間兵を翻弄する。


 アガマ部隊も健闘しているけど──

 人間軍も連携が取れている。


「……このままじゃ、長期戦になるわね」


 そう呟いた時、下から声が聞こえた。


「おい、あそこに誰かいるぞ!」


 ギクッとして見下ろすと──

 四人の人間がこちらを見上げていた。


 屈強な男。

 大盾を持つ女騎士。

 大きな帽子の少女。

 そして、白い服の女……。

 ちょっとあの女神に似ててむかつくわね。


「あらやだ、見つかっちゃった……」


 ガマちゃんから飛び降りて、地面に着地する。

 20センチヒールでも、なぜか衝撃を感じない。

 クロちゃんの服、優秀ね。


 大剣の男が一歩前に出た。


「……人間、か? なぜ魔王軍に?」


「あら、アタシ?

 アタシは魔王軍の幹部よ」


 胸を張って答える。


「人間が……魔王軍の?」


 白い服の女性が驚いた顔をする。


 大剣の男がゆっくりと剣を構える。

 その瞬間、アタシの目が釘付けになった。


 浅黒い肌。

 引き締まった体。

 両手で大剣を構える腕の筋肉。

 整った顔立ち。


 ──あら、やだ。ドストライクじゃない。


()()()()()()()() 良い男じゃない」


 大剣の男の目が見開かれる。


「なぜ俺の名を!?」


「え?」

「ん?」


 白い服の女性──シンジィが一歩前に出て、錫杖を構えた。


「アラン様、危険です!

 その人からは魔力とは違う何かを感じます」


 アタシは思わずツッコミを入れた。


()()()()()()()、今いいとこなんだから黙っといてよブス」


 シンジィの顔が凍りつく。


「えっ、なぜ私の名を?」


「え」

「はい?」


 二人が同時に首を傾げる。


 大きな帽子の少女が、

 大剣の男──アランの後ろに下がり警戒する。


「アランさん、敵?ですよね……?

 なんかすごい迫力を感じます」


 アタシは首を傾げて、改めて大剣の男を見る。


「あら、あなたアランって言うのね。いい名前。

 アタシは八尺純恋よ♡ スミレちゃんって呼んで」


 アランは帽子の少女を守るように腕で隠すしぐさをとる。


「モウ、下がれ。

 サン・ショウとは違う強さを感じる」


()()() ()()()()()()()

 アタシもそんな風に守られてみたーい」


 帽子の少女──モウが顔を出す。


「えっ、なんで私の名前を?」


「ん?」

「え?」


 アランが警戒した目でアタシを見つめる。

 その真剣な瞳に、アタシは思わず胸がときめく。


「そんな目で見ないで、

 アタシのこと、()()()()()()()()♡」


 大盾を持つ女騎士が盾を前に構え、低い声で言った。


「なぜ私の名を……? 危険すぎる。

 アラン殿、やるしかありませんよ!

 四人で一気に攻めましょう」


 女騎士──スキッティの目が鋭くなる。


 アタシは腰に手を当ててため息をついた。


「はぁ、せっかくいい男に逢えたと思ったら、

 取り巻きの女達がやな感じね。

 話し合いも出来ないじゃないの」


 四人が顔を見合わせる。


「……おい、もしかして」


 アランが呟く。


「この女、俺たちの名前を全て知っている……」


「諜報活動?

 いつの間に情報が漏れたんですか?」


 モウが警戒を強める。


「違うわよ。

 さっきから何言ってんのよ、アンタたち」


 アタシは呆れたように言った。


 四人が顔を見合わせる。


「……まさか」


 アランが呟く。


「俺の名前は、アラン・ヤダー……」

「私は、シンジィ・ラナイ……」

「モゥ・アマエ・チャッテ……」

「スキッティ・テール……」


 四人が同時に顔を上げる。


「「「「名前が!?」」」」


 アタシは首を傾げた。


「え? 何?

 アンタたち、急にどうしたの?」


「……そういうことか」


 アランが額に手を当てる。


「だから、何の話よ!?」


 アタシが叫ぶ。


「いや、待て。

 今は名前の話はどうでもいい」


 アランが話を戻す。


「お前は……人間でありながら、

 魔王軍の幹部なんだな?」


「そうよ。よろしくね♡」


 軽く会釈する。


「……なぜ、人間が魔王軍に?」


 シンジィが静かに問う。


「それはね──」


 アタシは真剣な目で四人を見た。


「この戦い、おかしいと思わないの?」


「……何?」


 アランの目が細くなる。


「アンタたち、この戦争が

 誰かに仕組まれたって考えたことある?」


「仕組まれた……? どういう意味だ」


「最初の魔物襲撃。

 魔族の仕業だって、誰が決めたの?

 証拠はあるの?」


「それは……宰相ブルーテ様が、

 魔法陣を発見して……」


 モウが答える。


「本当に魔族がやったの?

 もしかして、誰かが魔族に罪をなすりつけたんじゃない?」


 アランが一瞬、動揺する。


「……確かに、おかしな点はある。

 魔物が少なすぎる。この森では、ありえない」


「でしょ?

 何かがおかしいのよ。

 アンタたちも、アタシたちも──

 踊らされてるだけなんじゃないかって」


 シンジィが息を呑む。


「……もし、それが本当なら……」


「本当よ。

 アタシは、感には自信があるの。

 きっと黒幕がいる。

 そいつが、この戦争を起こしてるの」


 モウが帽子を押さえながら言う。


「でも……だとしても、今は──」


「分かってる」


 アランが大剣を構え直した。


「……確かに、疑問はある。

 だが、今は目の前の敵を倒すしかない。

 これは命令であり、俺の使命だ。

 平和のために──討たせてもらう!」


 アタシは小さく息を吐いた。


「はぁ……やっぱりそうなるのね」


 ──話せたかもしれないのに。

 ほんの少し、分かり合えそうだったのに。


「……やるしかないのね」


 腰を落とし、右手を前に出す。

 おねぇスラップの構え。


 アランが大剣を振り上げ、

 シンジィが錫杖を構え、

 モウが魔法を溜め、

 スキッティが盾を前に出す。


 一触即発の空気。


 ──その瞬間。


 ゴオオオオオオオオオオオオオ……


 地の底から、世界を震わせる咆哮が響いた。


「「「……!?」」」


 全員が武器を下ろし、周囲を警戒する。

 地面が揺れ、木々が軋み、葉が一斉に舞い落ちる。


「な、なんだこれ……!?」


 アランが周囲を見回す。


「やだ……これ、すっごく嫌な予感がするんですけど……」


 アタシもガマちゃんに飛び乗る。


 遠くで、サン・ショウちゃんの声が響く。


「……まさか、深淵の神が……!?」


 森が、静まり返った。


 戦っていた魔族も、人間も、動きを止める。


 そして──


 森の奥で、何かが動く気配。

 木々がざわめき、鳥たちが一斉に飛び立つ。


 魔物たちが、一斉に顔を上げた。

 その目には──魔法陣が浮かんでいる。


「……何、これ……」


 アタシは呟いた。


 次の瞬間──


 ドドドドドドドドドドドド……


 森の奥から、無数の足音が迫ってきていた。

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