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異世界オネェ~20センチのピンヒールで階段から落ちた先は魔王領だったわ~  作者: 夢想PEN
第1章 新宿2丁目のお・ん・な

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な~んかこの女神気に食わないわね

どこまでも続く、真っ白な空間。

 自分が立っているのか浮いているのかすら分からない。

 そんな感覚のまま進んでいくと、うっすらと光の中に四本の絢爛な支柱と、その中心に玉座のようなものが見えてきた。


「もう、なんなのここ? 白すぎて目がシパシパするわ……」


 目を凝らすと、玉座にはひとりの女が腰かけていた。

 頭には花の冠、身にまとうのは半透明のベール――その下には、布面積の少なすぎる乳バンドと、気に食わないレースのパンツ。


「……はぁ、やっと来たわね」


 ひじ掛けにもたれながら、退屈そうに吐かれたその声。

 聞き覚えがある。――あの、新宿の夜空で聞いた声だ。


「ちょっとぉ~、初対面でなんか感じ悪くな~い? まぁ、別にいいけど」


「良くいらっしゃいました。私の名は“ハレンチ”。生と死を司る女神です。あなたの“死後の願い”を叶えるためにお迎えしましたー」

やる気の無い、気だるそうな声。


「はいはい、ご丁寧にどうも。アタシは純恋スミレよ。よろしくね。……ていうか、アンタその格好なに? 名は体を表すってこういうこと?」


「うるさいわねっ! これは天界の制服よ! 好きで着てるわけじゃないの!」


 立ち上がって手をバタつかせるハレンチに、思わず笑いが込み上げてくる。


「おぉ~怖っ。アンタ、仮にも“女神”なんだからもうちょい神々しくしなさいよ。……まあ、ツンケンしてるよりはマシだけどね。それで? アタシ、なんで呼ばれたわけ?」


「はぁ……これだから人間は……」


「何か言ったかしら?」


「いえ、なんでもありません」


 咳払いをして服を整えると、女神ハレンチは神妙な顔つきで語りだした。


「あなたはその心の清さゆえ、天界から特別に“願いを叶え”、新たな生を享受することが認められました。――よって、“スキル”を授けたうえで別の世界へ送ります。“転生”か“転移”、どちらを選びますか?」


 わけが分からず首をかしげた。


(てんせい? てんい? なにそれ?)


「生まれ変わるのはわかったけど、その“転生”と“転移”ってなにが違うの?」


「転生は、その世界で新たに生まれ直すこと。転移は、今の姿のまま別の世界へ行くことです。……おすすめは転生です。何も背負わず、まっさらな人生を歩めますから。逆に転移だと、現在の姿のまま行くため――ぷっ」


 ハレンチは思わず吹き出し、肩を震わせている。


「……なに笑ってんのよ」


「いえ……失礼。ふふ……転移だと、今のその……姿のまま行くことになりますので、現地では……ぷっ、トラブルが起きるかもしれませんね」


「アンタ、ほんっと気に食わない女ね。嫌いよ。……でも、アタシは転移を選ぶわ」


「理由を、聞いてもいい?」


 ふふ、そんなの決まってるじゃない。


「もし生まれ変わったとして……それは本当に“アタシ”なのかしら?

 今のアタシを作ったのは、これまでのなが~い苦労と涙と笑いよ。アタシはアタシのまま、恋して、笑って、生きたいの。それが理由」


 女神ハレンチは少し呆れたようにため息をついた。


「……なるほどね。そこまで言うなら止めないわ。転移を選ぶ人間なんて珍しいけど」


「珍しいのは昔からよ。流行りとか、合わせられない性分なの」


 腰に手を当て、胸を張る。ピンヒールの音が“カツン”と白い床に響いた。

 ハレンチは口元をわずかに緩め、指を鳴らす。


 空中に女神の体半分くらいの大きさで、金色に輝く本が現れ、パラパラと紙がめくれ、眩い光が飛び出す。


「ではスキルを授けます。これには、今までの人生が反映されるわ。

……ん?初めてみるわね。……まぁいいや。

えっと、あなたには――『口撃こうげき』と『おねぇスラップ』の二つになるわ」

空中にスキル名が浮かび上がる。


「ちょっと、『口撃』って……下ネタっぽい響きねぇ。アタシは得意だけど、アンタのセンスないわよ」


「違うの! “言葉で相手の精神を揺さぶる”攻撃スキルよ! あなたの“言葉の刃”は、人間界でも相当だったでしょ?」


「まぁね♡ 営業で何人のクレーマー黙らせたと思ってんのよ〜?」


「そしてもう一つ、『おねぇスラップ』。えっと……手のひらで“いやん♡”と叩くと、その瞬間あらゆる魔法や物理攻撃を無効化できる。ただし――気持ちが乗ってないと発動しません。……なんなのこのスキル」


「気持ちが乗ってないと? つまりテンション低い時はダメってこと?」


「そういうことみたいね。……私もよく分からないけど、もしかしてあなたって、ノリが悪いと何もできないタイプ?」


「失礼ねぇ! アタシはノリと勢いで生きてきたオンナよ!!」


 アタシが腰をくねらせて怒鳴ると、ハレンチはまた“ぷっ”と吹いた。


「なによっ!」


「だって……そのヒールで腰振ると……転びそうなんだもーん……っ!」


「うっさいわねぇぇぇぇええ!!!」


 アタシの怒号が響いた瞬間、床に光の魔法陣が浮かび上がる。


「なにこれ!? まだ心の準備が──」


「転移の儀式、開始。じゃあね、“特別扱い”のオネェさん♡ あっ、言葉は通じる様にしといたから、感謝しなさい」


「待ちなさい女神ッ! アンタ、アタシのパンツも違うのにしな──っ!?」


 まばゆい光とともに、体は宙へと放り出された。


 次に目を開けた時、冷たい風。木々のざわめき。

 ヒールが空を切り、地上まで急加速。


「え、ちょっと待って……これ、地面どこ!? 地面どこよォォォッ!!!」


 ――ドガァァァァン!!


「……っっいたぁぁぁぁぁぁ!!!」


 どうやら二十メートルはあろうかという崖から真っ逆さまに落ちたらしい。

 砂煙の中で頭を抱えると、怒りが湧いてきた。


「……あの女神、ぜっっっったい許さないから!!」


 その時、森の奥から遠吠えが聞こえた。


「あら、やだ。早速何!? アタシ、まだリップも塗ってないのにぃ!」


 ――こうして、八尺純恋の新たな人生(?)が、静かに幕を開けた。


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