ツインデビル
シュガーとソルトは、アガマで木の上を疾走していた。
『ああぁぁあああああ!』
後方で人間軍の悲鳴が上がる。
ソルトが口元を押さえながら笑った。
「ねぇ、今の聞いた? シュガー」
シュガーもニヤッと頬を上げる。
「聞いた聞いた。さすがスミレお姉様。僕たちも負けてられないや」
二人は同時に手綱を弾き、アガマを加速させた。
地上ではサン・ショウの技で分断された人間軍が、魔族兵と乱戦の真っ最中。
その一角で、木から撃ち落とされた魔族兵が七名の人間兵に囲まれているのが見えた。
シュガーがソルトに視線で合図を送る。
二人の兵士が斬りかかろうとした瞬間——
大鎌が弧を描いた。
続けて両手に持った短刀の十字斬りが、鮮血を舞わせる。
双子は、血の雨の中心で静かに佇んでいた。
「あ……あれは、魔王国の双子悪魔……!?」
その一言で、その場にいた人間兵に動揺が走る。
ゆらりと大鎌を下段に構え、ソルトが微笑む。
「ようこそ、人間の皆さま」
シュガーは短剣の血を払ってくるりと回し、背中合わせに立つ。
「よろしければ、僕らと一緒に——」
「「踊ってくださる?」」
薄ら笑いを浮かべ、二人は武器を構えた。
「「戦技——双魔舞踏・ワルツ・オブ・デス!」」
影が弾けるように揺れ、双子の姿が消える。
シュガーの短刀が軽やかに舞い、兵士たちの足を切り刻む。
膝が落ちた一瞬後、大鎌の一閃が薙ぎ払い——
人間兵が同時に前のめりに倒れた。
中心に立った双子は、まるで観客に向けるかのようにお辞儀をする。
「「また踊ってくださいね」」
戦場に響く悲鳴は、双子にとって歓声そのものだった。
***
同じころ。
フルールドセル王国副騎士団長グロセルは声を張り上げていた。
(このままじゃジリ貧だ……!)
「フルールドセル軍、こっちだ! 盾兵を外側に、円陣を組め!」
散り散りだった兵が集まり、シンジィとモウを中心に陣を固める。
スキッティが大盾で魔法を弾きながら叫ぶ。
「お待ちしておりました、グロセル副団長!」
「すまない、スキッティ……油断した」
アランとサン・ショウが激しく剣を交えているのが見えた。
(アラン殿が抑えている、今が立て直しの好機……!)
「シンジィさんは防御魔法を! モウはその内側から攻撃だ!」
「「はい!」」
神官たちが錫杖を掲げ、魔力を高める。
モウが魔法師に向けて叫ぶ。
「火魔法は禁止で! 雷でいきます! エシレ、あれやるよ!」
「了解です! 副師団長!」
モウとエシレが声を重ねる。
「「たちこめる雷雲、ひび割れる轟雷——
安寧の巣となり邪を捕らえよ!
——雷魔法・蛛網黒雷!」」」
黒い雷撃が空で絡み合い、巨大な蜘蛛の巣のように広がった。
頭上の魔族兵が次々に感電し、地へ落ちていく。
同時に、シンジィ率いる神官部隊の防御魔法が展開。
薔薇の花弁のように重なり合う魔法障壁が、敵の攻撃を弾いた。
「よぉし! 反撃開始だ! 魔族共を蹴散らせ!」
騎士たちの士気が上がる。
***
木の上で双子がその様子を見下ろす。
「ねぇシュガー、あれちょっと不味くない?」
「ん〜、サン・ショウがあの調子じゃね。あの人間、普通じゃないねぇ」
「じゃあさ、“あれ”で吹き飛ばしちゃお?」
ソルトが不敵に笑う。
「賛成〜。やろっ」
二人は再び木の上を駆け、円陣の真上で止まる。
太い幹の陰で、手を絡ませて詠唱。
「「蒼き風、慟哭の牙。白き風、出盧の神渡し——
合体風魔法・双嵐襲来!」」
巻き上がった風が二対の竜巻となり、真空の刃を纏って降り注ぐ。
障壁がギャリギャリと削られていく。
シンジィは錫杖を握りしめ、震える。
「す、すごい……まさか、この障壁が……破られる……?」
そして例の“いけない反応”が全身を走り、疼きが錫杖を揺らす——
(あぁ、すごい……いっそ、このまま……)
「……あぁん♡」
大聖女シンジィの嬌声に周囲の兵が一斉に動揺する。
「またぁ!? シンジィさん! しっかりしてくださいよ、この変態聖女ー!!」
モウが叫び、障壁が砕ける——その瞬間。
アランの大剣が竜巻ごと双嵐を切り裂いた。
「すまない! 無事か!?」
円陣の前に立つアラン。
グロセルが叫ぶ。
「アラン殿! 助かりました! ……サン・ショウを倒したのですか?」
「いや、まだだ。……あそこだ」
サン・ショウは肩を押さえ、木の上から見下ろしていた。
その両脇に双子。
サン・ショウが声を張る。
「……魔王軍、一時撤退! 深追いはするな!」
魔族兵たちはアガマを翻し、魔王国方向へ去っていく。
こうして、激しい初日の戦いは幕を下ろした。




