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異世界オネェ~20センチのピンヒールで階段から落ちた先は魔王領だったわ~  作者: 夢想PEN
第2章 戦場に咲く乙女の華

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火蓋は下すと熱いんだからッ!

 アガマ部隊が森へ駆けていったあと、魔王城前には静けさが戻っていた。

 ウスターとダシが並んで深淵の森の暗がりを見つめている。


 沈黙を割るように、ダシが控えめにつぶやいた。


「……魔王様、差し出がましいようですが。

 本当に、サン・ショウに指揮を任せて良かったのでしょうか?

 彼は腕は立ちますが……指揮官向きとは、あまり……」


 ウスターは鼻で笑い、腕を組んだ。


「ダシよ、お前はまだ分かっておらぬな。

 あやつにも成長の機会は必要だ。

 ……それに、あの森でサン・ショウに敵う者などおらぬ」


「……まさか、彼の種族と関係が?」


「ふむ。そういえば話していなかったか。

 サン・ショウが軍に入った理由と、あやつの“力”の正体をな……」


 ウスターが語り出そうとした、その時。


 ──深淵の森の奥、アガマ達の鳴き声が一斉に遠くで反響した。


「……森が、騒いでおりますね」


 ダシの低い声が、不吉な風に溶けた。


 ***


 一方その頃、深淵の森では──。


 部隊の最後尾で、スミレがアガマの“ガマちゃん”にしがみついていた。


 地を駆け抜けたかと思えば木に登り、枝から枝へ飛び移り、また地上へ。

 ……まじでジェットコースターじゃない。

 ガマちゃんの振動で、アタシの腰が粉砕寸前なんですけど?


 横でぴょんぴょん木を飛び移るソルトが、私の青ざめた顔を見てクスクス笑う。


「スミレお姉様、顔めっちゃ青白い〜。いつもの倍白いよ?」


「誰が厚化粧よ! あーもう無理っ……ぐえ……

 アタシ絶叫マシンほんとダメなのー!」


「ダメだよソルト。スミレお姉様は楽しんでるんだから」

 ってニヤついて言うシュガー。


「アンタら覚えてなさいよ……パンケーキに激辛ソースぶっかけてやるから」


「「こわ〜い♡」」


「はぁ、……ほんともう勘弁して……」


 ガマちゃんの首にしがみつくこと約一時間。

 森の魔物たちを華麗にスルーしながら、西へ一直線。


 倒木をまたぎ、岩肌を滑り降り、木の陰には──ちらりと美しい泉が見えた。

 あれが“精霊の泉”……?


 そんなことを思った直後。


「ギャウッ!」


 サン・ショウのアガマが甲高く叫び、ピタリと隊が止まる。

 空気が、ふっと冷たく変わった。


 アタシたち双子組は後方の枝へ飛び乗り、身を低くした。


 ソルトが言う。


「お姉様、たぶん……敵を見つけたんだと思う」


「……はぁ……具合悪……で、アタシなにしたらいいわけ?」


「あー、考えてなかった。まぁ、でも今日は何も起きないと思うし」


「それ、フラグっていうのよ……」


「フラグ? 何それ、食べ物?

 あ、ちょっと待って。音が聞こえない」


 ソルトが目を閉じ、そっと両手を広げる。


「“風流れ、声誘う──声流れ、風伝う”

 ──風魔法かぜまほう鳴風なりかぜ


 掬うように広げた手のひらの上に、小さな風の球が六つ現れ、一つを残して前方へ飛んだ。


「これで、サン・ショウの声が聞こえるよ」


 魔法万能すぎじゃない?


 ***

 その頃、サン・ショウはアガマから静かに降り、地を踏む。


 前には人間軍八十名。

 装備は汚れ、盾持ちは疲労している。

 そして中央──妙に装備の整った一団がこちらを値踏みしていた。


(……あの大剣の男、強い。

 他の者は魔物と戦って消耗している……

 アガマ無しで森に入るなど正気ではない)


 サン・ショウは腰元の剣に手を添えながらゆっくりと前へ歩き、最前列の男を見据えた。



「……お前が人間の指揮官か」


 男は堂々と名乗る。


「いかにも。

 フルールドセル王国騎士団──副騎士団長、グロセルだ。

 貴様は?」


「……サン・ショウ。ナットゥ魔王国・四天王の一人。

 今日は何の騒ぎだ?」


 グロセルは鼻で笑って返した。


「それは……お前たちが知っているはずだ」


「……なんの事だ」


「少し前、我が王都に魔物が襲いかかった。

 操られていた痕跡があった。

 ──魔王国の仕業だろう?」


「……言いがかりだ。我らは関与していない」


「シラを切るつもりか。

 ならば、その術士を引き渡せ。

 それだけでいい。

 そうすれば我々は即座に撤退する」


「……答える義務はない。

 知らぬものは知らぬ。その程度だ」


 湿った風が、ざわりと二人の間を通り抜ける。


 魔物の鳴き声すら止まり、森が息を潜める。


 そして──。


 サン・ショウの背後の茂み、“魔王軍側の方角”から、矢が一直線にグロセルへ飛んだ。

 振り返ると、視線の端に黒い外套が草むらを這うように消える。


「……何ッ!?誰が!?」

 サン・ショウは焦りを隠せない。


 グロセルは咄嗟に大斧で叩き落とし、怒号をあげる。


「やはり貴様らの罠だったか!!

 全隊──戦闘態勢!

 魔王軍を殲滅せよ!!」


 騎士たちの咆哮が森を震わせた。

 その衝撃は、後方のスミレたちの元まで届く。


「お姉様……始まっちゃった」


 ソルトが舌をちょろっと出す。


「ほら来た! 言ったじゃないフラグだって!

 ちょっとアタシどうすんのこれぇぇ!!?」


 ──こうして、深淵の森にて。

 魔族と人間の戦闘の火蓋は静かに、しかし確実に切って落とされた。

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