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異世界オネェ~20センチのピンヒールで階段から落ちた先は魔王領だったわ~  作者: 夢想PEN
第2章 戦場に咲く乙女の華

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アタシ、出撃?

 そして、再び魔王領──。


 円卓の間では、ウスターを中心にダシ、サン・ショウ、シュガー、ソルトの四天王が座していた。


「不可解だ……。攻め込むにしても、なぜあの程度の人数なのだ?」


 腕を組んだ魔王ちゃんが首を傾げる。


「深淵の森はこちらの領土。地の利もある。……まさか、別の理由があるのか?」


「魔王様、また“泉”を狙っての進軍では? 探りを入れているとしか思えませんね」


 ダシでさえ首をひねっている。


「もうさ、勝手に入ってくるならやっちゃえばいいんじゃない? 僕とソルトで皆殺しにしてくるよ!」


「黙りなさいシュガー。全面戦争になり得ると言ってるのですよ? 少しは自覚しなさい」


「ほら怒られた〜シュガー」


 舌を出し合う双子。ダシはほんとお父さん。


 ……でも、アタシも気になってたのよね。

 円卓に手を重ね、魔王ちゃんに向き直る。


「ねぇ魔王ちゃん。人間と小競り合いが増えたって言ってたけど、あの森でもそうなの?

 もしそうなら……なんで大きな争いにまで発展してないの?」


 魔王ちゃんは小さく息を吐き、地図をダシに広げさせた。


「まず二百年以上前──深淵の森は“誰のものでもなかった”。

 魔物が濃すぎて、土地として成立しなかったからな」


 森の中央を指差す。


「魔王国は古くから、この森の魔物を狩ってきた。放置すれば侵攻してくる。

 それを防ぐために狩り続けた結果……自然と“管理”する形になった」


 次に、地図の西側、フルールドセル側へ。


「一方で百五十年前まで、この入口付近には小さな村があったらしい。

 フルールドセルの農民と冒険者が住み、弱い魔物を倒しながら暮らしていたそうだ」


 魔王ちゃんの目が細くなる。


「だが百二十年前──村は突然、人が消え、森に呑まれた。理由は不明だ。

 ……かの森とはそういう場所だ」


 さらに泉の位置へ指を移す。


「そして百年前。“精霊の泉”をタラゴン一世が発見し、戦争を仕掛けてきた。

 我が父と相打ちになったのはここだ」


 魔王ちゃんは静かに続ける。


「戦後、フルールドセルはこう主張し続けている。

 “入口周辺は、昔ウチの村があったから自国領だ”と。

 だが、我らからすれば二百年以上魔物を狩り続けた土地。

 当然、森全域は魔王国の領土だ」


 椅子にもたれながら魔王ちゃんが言った。


「領有権の根拠が“古い村の記憶”か“長年の治安維持”か……。

 互いに間違っていないからこそ、火種は消えぬ。境界も曖昧なままだ」


 瞳が鋭くなる。


「だから深淵の森の入口は、常に小競り合いの危険を孕む。

 一歩踏み込めば“理由”にされる。……人間は、理由さえあれば剣を取るからな」


 アタシは身を乗り出す。


「え、それって……あんた、いつでも好きなとこまで“領土”って言い張れるじゃん」


 空気がピリッとした。

 魔王ちゃんは淡々と説明を続ける。


「表向きはそうでも、あちらも森の奥は怖れている。

 森の南側最奥には“深淵の神”が眠ると言われている。

 挑んだ者は全滅した──そんな記録しか残っていない」


「深淵の神……? 魔物の一種ってこと?」


「そうだ。だが我でさえ知らぬ存在だ。……今回の件で刺激しなければよいがな」


 沈黙を破るように、ダシが一礼する。


「魔王様。ならば我が軍が正面に出向き、敵の司令官に直接“理由”を聞いては?

 森では我々が有利。対処もできます」


 魔王ちゃんが笑う。


「ダッハハハハ。ダシよ、“分からねば直接聞け”か。

 フフ……よい。至急、王城前にアガマ部隊を集めろ」


「はっ!」


 ダシが霧のように消える。


 アタシは思わずつぶやく。


「また瞬間移動……いいなぁ……」


 すると魔王ちゃんがアタシの肩をぽんと叩いた。


「スミレ。今回は其方にも行ってもらう。励むように」


「はぁ!? 『励むように』じゃないわよ! ストレスで禿げるって!」


「すとれす? よく分からぬが……魔王命令だ。異論は許さん」


「あーはいはい。分かりましたよ。スミレがんばりますー……」


 魔王ちゃんは口元に笑みを残したまま立ち上がり、円卓の間を後にする。

 アタシ、サン・ショウ、シュガー、ソルトもぞろぞろ続いた。


 そして──王城前。


 エリマキトカゲのようなフリフリの首に、カメレオンのような目をしたトカゲがずらりと勢ぞろいしていた。

 数は分からないけど四十くらいかしら。その隣に目が鋭い、屈強な犬の獣人が各々のトカゲの背中をさすっているのが見えた。


「スミレ、見よ。あれが我が軍が誇る”アガマ部隊"だ。

 彼らは我が軍の精鋭部隊で、斥候、探索、魔法、弓、剣などは一通りこなせる。

 逆に言うと全部出来なければあの森では死ぬから——なのだがな」


 関心しながら魔王ちゃんの話に耳を傾ける。


「其方の分のアガマも用意してあるぞ、そこにいる首元が少し赤みがかっているのがそうだ。

 ……気性が荒くてだれも乗せてくれないのだが。もしかしたら其方なら……フ」


「……何笑ってんのよ。まぁ任せなさいな、クレーマー手懐けるのと変わんないでしょ?」


 そういいながら近づき、頭を撫でた。


 そして噛まれた。


「いったいわね!」


 反射的にスラップが飛ぶ。


 ——”おねぇスラップ発動”——


「ギヤァァス」


 ハートが飛び散り、アガマが回転しながら城壁に激突する。


 えーーーー!? アタシ、『いやん♡』なんて言ってないわよ。

 反射的にも出るもんなの? ちょっと、さっきの訓練でバグってない?

 それより、あのトカゲ大丈夫かしら。


 急いで駆け寄り、安否を確認する。


「あーん、ごめん! トカゲちゃん。生きてる?」


 アガマはぴくぴくしながらも、弱弱しく目を開け応える。


 ダシも急いで近づいて回復魔法をかけながらアタシを睨む。


「本当に、貴方って人は。……進軍前に戦力を減らさないでいただきたい」


 その奥、魔王ちゃんは驚いた表情の後、腹を抱えて笑う。


「……ぷっ。スミレよ。其方はひどい奴だな……くっ」


「笑いごとじゃないわよ……まったく」


 魔王ちゃんは腹を抱えて笑い続けてるし、ダシはため息の呼吸で森を浄化できそうなくらい呆れてる。


 アガマ部隊の犬系獣人の一人が、ドン引き顔でこっちを見る。


「……あ、あの……大丈夫……ですか? その……アガマ、まだ息ありますか?……」


「いやホントごめんってば! アタシだってビンタでトカゲ飛ばすつもりなかったし!」


 そう言いながらアタシはアガマの頭をそっと撫でる。


 アガマは涙目で「ギャゥ……」と鳴いた。

 かわいいじゃん……ごめんねぇほんと。


 すると魔王ちゃんがニヤニヤしながら近寄ってくる。


「スミレよ、そやつは其方を気に入ったようだぞ?」


「は? どこがよ。今の完全にDVじゃん……」


「アガマは気性が荒く、気に入った者ほど噛む。噛んで反応を試し、気に入れば懐く。

 ……其方は“合格”ということだ」


「それ先に言ってよ!? アタシの後悔返しなさい!」


 魔王ちゃんは肩をすくめて笑う。


「まぁよい。これでアガマと其方の主従関係は成立した。出撃の準備を進めるぞ」


 サン・ショウがアタシの横でそっと笑う。


「……暴力女」


「違うわよ! 事故っただけよ! ほんとに!」


 すると、さっきまで涙目だったアガマが、よろよろ立ち上がりながらアタシに身体を寄せる。

 ……あっ、これ完全に懐いてるわ。


「……アンタ、ほんと強い子ねぇ……」


 そっと頭を撫でると、アガマは喉を鳴らして首元のフリルを小さく広げた。


 かわ……いやちょっと待って、アタシこの子乗るの? これ?


 魔王ちゃんが姿勢をただし、部隊全体に声を張り上げる。


「これより、魔王軍アガマ部隊、深淵の森入口へ向かえ!

 敵の司令官に“侵攻理由”を直接問う!

 余計な戦闘はするな、よいな! そして、今回の指揮はサン・ショウが執る。

 後方に新しい幹部スミレ、そしてシュガー、ソルトを配置する。皆の検討を祈る!」


 サン・ショウちゃんが、頭を下げ、犬獣人たちが一斉に胸を打ち鳴らす。

 アガマたちもフリフリを広げて発声し、甲高い鳴き声が城前に響く。


 そして魔王ちゃんが、アタシに向けてそっと言う。


「スミレ……其方の力、今回は頼りにしているぞ。我とダシは居残りだ。失敗するなよ」


「……いや、プレッシャー与えるのやめて。禿げるから」


「禿げても其方は其方だろう? 自信を持て」


「フォローが全然フォローじゃないんだけど!? ねぇ!?」


 そんなやり取りをしてると、ソルトとシュガーも横に並ぶ。


「お姉様は僕が守るからね!」


「お姉様は私が守るからね!」


 また舌を出し合いながらいがみ合う。


 ほんと大丈夫かしら……?


 サン・ショウがアガマにまたがりアタシの前に来る。

 そして振り向かずに言った。


「死ぬなよ…………アガマみたいに」


「やめてよ……泣いちゃうから……ってか殺してないつーの!」


 そして、アタシもアガマの背中にしがみついて乗り込んだ。


「もう、やってやるわよ。……そうだ、アンタ名前つけなきゃね?

 ……ガマちゃんにしましょう。アタシもオカマだからなんか親近感あるし」


「ギャアス」とだけ鳴いて前を向く。


 ふわっと身体が浮いて、アガマの首のフリルが風になびく。


 魔王ちゃんが手を掲げる。


「征け!」


 アガマ部隊が一斉に走り出す。


 森へ向かうアガマの走りと風のうねりの中で、アタシは叫んだ。


「ちょっと! ガマちゃん!速度落としてぇぇぇえええええ!!!」


 ――そして深淵の森へ向かうのであった。

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ついに人間の部隊と顔合わせですかね…"(ノ*>∀<)ノ 次の更新も楽しみにしてます!
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