勇者任命式
魔王ウスターとスミレが訓練を始める少し前。
フルールドセル王国──王宮の謁見の間では、勇者の任命式が厳かに進められていた。
玉座に腰掛けた若き王、タラゴン三世は、跪く男に静かに問いかける。
「アラン。本当にいいのだな? 冒険者を辞め、軍直属の“勇者”になるということは……二度と冒険者には戻れぬという事だ。主は白金等級であったはずだろう?」
背中に両刃の大剣を背負う、屈強な男アランは深く頭を下げ、はっきりと答えた。
「はい、構いません。私は大切なものを守るため冒険者になりました。しかし……友が魔族との戦いに敗れ、死んでいきました。冒険者ギルド所属である以上、私は手助けも、報復すらも許されなかった。家族がいる者だったのに……私に頼むと言い残して……」
拳を握るアランの声が震える。
「だから私は、一刻も早くこの戦いを終わらせたい。そのために──勇者となります」
謁見の間に集まった貴族たちがどよめき、称賛が起こる。
「分かった。……主も知っている通り、今の“勇者”は昔のように魔を滅ぼす象徴ではない。国からその武勇を認められ、国民の希望となる存在だ。作戦においては独立した権限が与えられ、己の判断で動く事も許される。求められるのはただ一つ──敵を打倒し、平和への道を切り開くことだ」
アランは顔を上げ、まっすぐ王を見据えた。
「はい。必ずや私が、この国に平和をもたらします」
「頼もしいぞ、アラン。……では、王家に伝わりし剣“フランベルジュ”を託す」
近衛兵が黄金の柄を持つ長剣を運ぶ。刃には古代文字が刻まれ、光を受けて七色に輝く。
タラゴン王は立ち上がり、その剣をアランの肩へ置き、声高らかに宣言する。
「今この時より──アラン・ヤダーを勇者に任命する!」
謁見の間は割れんばかりの拍手に包まれた。
王が玉座へ戻ると、王に側仕えしていた男が、静かにタラゴン三世へ声をかける。
その男──髪は全て白く、顔には深い皺が刻まれ、細身の体を黒衣に包んだ老宰相ブルーテ。
その鋭い目は、常に周囲を見据え、何を考えているのか掴ませない。
「王よ、勇者の補佐となる者達をすでに用意しております。お呼びいたしましょうか?」
タラゴン王はふっと表情を和らげ、頷く。
「そうであったな。さすがはブルーテ、仕事が早い。呼んでまいれ」
ブルーテは入口の兵士へ静かに目で合図を送る。
扉が開き、三名の人物がアランの後ろへ進み出て跪いた。
「勇者の仲間となる者を、ここに任ずる。まず一人目──王国騎士団・騎士長、スキッティ・テール」
「はっ、謹んでお受けいたします」
背に大盾のみを背負った女性騎士。剣を持たず盾一本で騎士長にまで上り詰めた実力者だ。
「二人目。聖教会より──大聖女シンジィ・ラナイ」
「光栄に存じます」
柔らかい声が謁見の間に響く。
「そして三人目。王国魔法師団より、魔法副師団長──モウ・アマエ・チャッテ」
再び歓声が上がる。
モウは16歳にして副師団長となった天才。世界に二人しか確認されていない“短縮詠唱”の使い手でもあった。
大きすぎるウィッチ帽を押さえながら、元気よく答える。
「はい! 私にお任せください!」
ブルーテは王へ一礼し、告げる。
「王よ、三名そろいました」
タラゴン王は立ち上がり、力強く宣言した。
「今ここに、勇者とその仲間が結成された! 皆の者、喜べ! 今日はめでたき日である!」
謁見の間が再び歓声で満ちる──その最中だった。
バンッ!
勢いよく扉が開き、兵士が駆け込んできた。
「た、大変です!!」
「大事な式典を邪魔するとは何事だ!」
ブルーテが怒声を上げる。
「街に! 魔物が……サソリのような魔物が深淵の森側、南の城壁を破り侵入! すでに市街地には被害が出ております!」
「魔物だと!? 偵察は何をしていた!」
「それが……急に現れ、暴れだしたと!」
謁見の間に緊張が走る。
「なぜこのタイミングで……いや、それは後だ! ギルドへの依頼では間に合わん、今すぐ騎士団に──」
「お待ちください」
アランが一歩前に出た。
「勇者アラン、今はそれどころでは──」
「だからこそです。魔物の討伐は、元冒険者の私が適任でしょう。今すぐ動けます!」
ブルーテは言葉に詰まるが、王が制した。
「よい、ブルーテ。アランに任せよ。……アラン、頼めるか?」
「お任せを! 行くぞ!」
アランは三人の仲間と共に駆け出していった。
「頼んだぞ……アラン」
どよめきの残る中、タラゴン王が静かに呟く。
──その時、誰も気づいていなかった。
焦っていたはずのブルーテの口元が、わずかに歪んでいたことに。
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