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異世界オネェ~20センチのピンヒールで階段から落ちた先は魔王領だったわ~  作者: 夢想PEN
第2章 戦場に咲く乙女の華

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勇者任命式

 

 魔王ウスターとスミレが訓練を始める少し前。

 フルールドセル王国──王宮の謁見の間では、勇者の任命式が厳かに進められていた。


 玉座に腰掛けた若き王、タラゴン三世は、跪く男に静かに問いかける。


「アラン。本当にいいのだな? 冒険者を辞め、軍直属の“勇者”になるということは……二度と冒険者には戻れぬという事だ。主は白金等級であったはずだろう?」


 背中に両刃の大剣を背負う、屈強な男アランは深く頭を下げ、はっきりと答えた。


「はい、構いません。私は大切なものを守るため冒険者になりました。しかし……友が魔族との戦いに敗れ、死んでいきました。冒険者ギルド所属である以上、私は手助けも、報復すらも許されなかった。家族がいる者だったのに……私に頼むと言い残して……」


 拳を握るアランの声が震える。


「だから私は、一刻も早くこの戦いを終わらせたい。そのために──勇者となります」


 謁見の間に集まった貴族たちがどよめき、称賛が起こる。


「分かった。……主も知っている通り、今の“勇者”は昔のように魔を滅ぼす象徴ではない。国からその武勇を認められ、国民の希望となる存在だ。作戦においては独立した権限が与えられ、己の判断で動く事も許される。求められるのはただ一つ──敵を打倒し、平和への道を切り開くことだ」


 アランは顔を上げ、まっすぐ王を見据えた。


「はい。必ずや私が、この国に平和をもたらします」


「頼もしいぞ、アラン。……では、王家に伝わりし剣“フランベルジュ”を託す」


 近衛兵が黄金の柄を持つ長剣を運ぶ。刃には古代文字が刻まれ、光を受けて七色に輝く。


 タラゴン王は立ち上がり、その剣をアランの肩へ置き、声高らかに宣言する。


「今この時より──アラン・ヤダーを勇者に任命する!」


 謁見の間は割れんばかりの拍手に包まれた。


 王が玉座へ戻ると、王に側仕えしていた男が、静かにタラゴン三世へ声をかける。


 その男──髪は全て白く、顔には深い皺が刻まれ、細身の体を黒衣に包んだ老宰相ブルーテ。

 その鋭い目は、常に周囲を見据え、何を考えているのか掴ませない。


「王よ、勇者の補佐となる者達をすでに用意しております。お呼びいたしましょうか?」


 タラゴン王はふっと表情を和らげ、頷く。


「そうであったな。さすがはブルーテ、仕事が早い。呼んでまいれ」


 ブルーテは入口の兵士へ静かに目で合図を送る。

 扉が開き、三名の人物がアランの後ろへ進み出て跪いた。


「勇者の仲間となる者を、ここに任ずる。まず一人目──王国騎士団・騎士長、スキッティ・テール」


「はっ、謹んでお受けいたします」


 背に大盾のみを背負った女性騎士。剣を持たず盾一本で騎士長にまで上り詰めた実力者だ。


「二人目。聖教会より──大聖女シンジィ・ラナイ」


「光栄に存じます」


 柔らかい声が謁見の間に響く。


「そして三人目。王国魔法師団より、魔法副師団長──モウ・アマエ・チャッテ」


 再び歓声が上がる。

 モウは16歳にして副師団長となった天才。世界に二人しか確認されていない“短縮詠唱”の使い手でもあった。


 大きすぎるウィッチ帽を押さえながら、元気よく答える。


「はい! 私にお任せください!」


 ブルーテは王へ一礼し、告げる。


「王よ、三名そろいました」


 タラゴン王は立ち上がり、力強く宣言した。


「今ここに、勇者とその仲間が結成された! 皆の者、喜べ! 今日はめでたき日である!」


 謁見の間が再び歓声で満ちる──その最中だった。


 バンッ!


 勢いよく扉が開き、兵士が駆け込んできた。


「た、大変です!!」


「大事な式典を邪魔するとは何事だ!」

 ブルーテが怒声を上げる。


「街に! 魔物が……サソリのような魔物が深淵の森側、南の城壁を破り侵入! すでに市街地には被害が出ております!」


「魔物だと!? 偵察は何をしていた!」


「それが……急に現れ、暴れだしたと!」


 謁見の間に緊張が走る。


「なぜこのタイミングで……いや、それは後だ! ギルドへの依頼では間に合わん、今すぐ騎士団に──」


「お待ちください」


 アランが一歩前に出た。


「勇者アラン、今はそれどころでは──」


「だからこそです。魔物の討伐は、元冒険者の私が適任でしょう。今すぐ動けます!」


 ブルーテは言葉に詰まるが、王が制した。


「よい、ブルーテ。アランに任せよ。……アラン、頼めるか?」


「お任せを! 行くぞ!」


 アランは三人の仲間と共に駆け出していった。


「頼んだぞ……アラン」


 どよめきの残る中、タラゴン王が静かに呟く。


 ──その時、誰も気づいていなかった。

 焦っていたはずのブルーテの口元が、わずかに歪んでいたことに。


面白かったら、評価頂けると泣いて喜びます。(ジャンピング土下寝)

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