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異世界オネェ~20センチのピンヒールで階段から落ちた先は魔王領だったわ~  作者: 夢想PEN
第2章 戦場に咲く乙女の華

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激しいのは、嫌いじゃないけど……


 魔王国での生活も慣れてきたころ、いつものように食堂で朝ご飯を食べていると魔王ちゃんが言った。


「スミレよ、前にソルトとシュガーの喧嘩を止めてくれたようだな。感謝する。あれらは良く喧嘩して手を焼いていたのだ。……いつもはダシが止めていたのだが、其方が止めてから嘘のように喧嘩しなくなった。……どうやったのだ?」


 上品にフォークを置き、ナプキンで口を拭く。

 そして、まっすぐ魔王ちゃんを見て答える。


「アタシはな~んにもしてないわよ。……ただ、優しくダメよって言っただけ。アタシは子供には優しいんだから」


「ダハハハ。そうか、あの双子は60歳。まだまだ若造故、許してほしい」


「えぇ、分かったわ。……えぇ??  60歳?? めちゃくちゃ年上じゃない」


 少し首を傾げながら魔王ちゃんが答える。


「……あぁ、そうか。我ら魔族は人間の約五倍は生きるのだ。故に、60歳は人間でいえば……10代前半といった頃か。長く生きたからと言って、精神の成長が伴うとは限らない。ちなみに我は120歳だ」


 アタシはコーヒーによく似た飲み物が入ったカップを少し飲んで受け皿に置く。


「そうなのね。まぁでも、年齢は飾りでしかないわよね。アタシはいつも通りの態度で接するわ」


 魔王ちゃんも同じくカップを置く。カチャリと小さな音がする。


「そうしてくれ。……それはそうと、今日は少し我に付き合って欲しい。……気合をいれてな」


 そういって少しだけ不敵な笑みを浮かべる。

 え?  気合を入れて付き合う?  ちょっとドキドキしちゃうじゃない。


 そして、そのあと二人で城門の外の草原に行った。

 アタシは後ろをついて歩く。

 なんか、付き合いたてのカップルみたいじゃない?


 太陽は高く、風が気持ちよく草を鳴らす。遠くには深淵の森が今日も存在感を放っていた。

 そして、城から少し離れたころ、魔王ちゃんがふと立ち止まり言った。


「スミレよ、其方の世界では戦争はあったか?」


 急にどうしたのかしら?

 魔王ちゃんの後ろ姿を見ながら答える。


「えぇ、有るには有るけど……アタシのいた国では、今は無いわね」


「……其方の力は認めているが、この世界では何が起こるか分からん。我も折角出来た”戦争終結の鍵”を無くすわけにはいかぬ」


 草原を吹く風が二人の間を通りすぎていく。


「アタシが鍵だなんて、そんな買い被りすぎよ? まぁ気持ちは嬉しいけど。アタシはまだ何をすべきかなんて分かってないし、魔王軍に入ってもまだお荷物じゃない」


 少しの沈黙。


「いや、我の見る目に間違いはない。其方はいずれ世界を変える。……だが、その前に、生き抜いて貰う必要がある」


 振り向いて真剣な顔をする。


「……つまり?」


「スミレ、今から我と戦闘訓練といくぞ! 気合を入れろ!」


 そして、空に飛びあがり腰元から剣を抜く。


「ちょっと! ちょっと! アタシ、戦い方なんて知らないわよ?」


 不敵な笑みを浮かべながら魔王ちゃんが言う。


「だからそれを教えるというのだ、さぁ先ずはこれを避けてみろ——”戦技・影切り”——」


 魔王ちゃんが振った刀身から、黒い月の様なものが放たれ、アタシに向かって襲いかかる。


 その場でアタフタしながら、真横にハリウッドダイブ。

 黒閃が一直線に走り、抉れた地面に黒いもやが残る。


「ちょっとー!! 魔王ちゃん! アタシ殺す気??」


「ダハハハ! 殺しはしないが、油断すると死ぬぞ! ほら、まだまだぁー!」


 今度は続けざまに二撃、三撃。


「あぁん! やだー! スパルタ―!」


 アタシは情けなく連続ダイブして避ける。

 その繰り返し。


 そして一時間ほど経過した。

 体は汗でべとべと。顔面総崩れ、でもなぜか服は汚れてない。

 クロちゃんの服……やるわね。

 じゃなくて!


 アタシは肩で大きく呼吸をして、両手を膝に置く。

 魔王ちゃんは太陽を背に飛びながら言う。


「我の攻撃を“戦技”という。鍛え抜かれた技の極地だ。……魔法と違い、使える者は少ないが攻撃の出が早い。故に、見切らねば死ぬ」


「はぁ……はぁ……アタ、アタシにどうしろと……?」


「其方は無駄な動きが多い。体力がいくらあっても足りぬ。……見切るのだ。動きを予測し、観察しろ。其方ならできるはずだ。——あの火竜の時のように」


 あの火竜? あぁ、リッタちゃんを襲ったトカゲね? 確かに時間がゆっくり見えたけど。……あれは、集中していてどうにか助けたかったからで。

 いや、……トカゲが落ちてくるその瞬間まで。——アタシ……見てたわ。


 思い出すのよ、スミレ。

 新宿のアタシの店を。

 お客さんのグラスの量、表情、声色、服に至るまで全部見てたじゃない。少しの変化も見逃さないように——


「いくぞ! スミレ!!」


 魔王ちゃんが大きく振りかぶり、技を放つ。

 近寄ってくる脅威、当たれば多分ただじゃ済まない。

 見る。見て。見るのよスミレ!


——気づけばアタシは左足を引き、身体をひねっていた。

黒い一閃が目の前を走り地面を裂く。


 少しの沈黙の後、魔王ちゃんが剣を収め、言った。


「……よくやったスミレ。最後まで目を離さぬ事、それが生き抜くコツだ、そして絶対に生をあきらめぬこと。……ちょうど、おあつらえ向きな奴が来たぞ。最終試験だ、アレを避けてみろ」


 魔王ちゃんの視線の先。

 深淵の森から……牛?みたいな魔物がよだれを撒き散らして突っ込んでくる。


「なに、あれ~」


「あれは、ブルトーガと言う。凶暴な魔物だ、我らの訓練に触発されて出てきたのだろう」


 角は両端の二本と、真ん中に一本。

 当たったら死ぬわ。もう体力はスッカラカン。でも……やるしかない。


 息を整え、目を閉じる。そして、ゆっくり心を整えて瞼を開く。


 ——世界が澄んでいるわね。


 規則正しく草を踏みしめる音、息遣い、迫る殺意。全部わかる。目は血走りほんと可愛くない。

 あぁもう……牛、嫌いになりそう。

 イラついてきた。アタシ死ぬわけにはいかないの。


「はぁ、こいよクソ牛。オカマなめんな」


 ブルトーガが頭を振り上げて突っ込んできた刹那——

 アタシの手は勝手に振り下ろしていた。


「いやぁーーーーーん!!!」


 ——“おねぇスラップ発動”——


 ズッドォォン!!


 ハートのエフェクトが飛び散り、地面に10メートル級のクレーター。

 そして牛の頭が垂直に地面に深々とめり込み、足が天へと跳ね上がる。


 アタシは瓦割りポーズのまま空に向かって叫んだ。

「うぉらああああ!!」


 それは、紛れもない漢の声だった。


 土煙が舞うなか、アタシはついにこの力を理解した。


 ——“誰かを守る気持ちと、生きる本能ね”


「ダッハハハハ! やはり、其方は素晴らしいな! これならばいつでも前線に行ける。我の想像以上だ」


 そういいながら、魔王ちゃんが空から降りてきた。


「……前線は勘弁してちょうだい」


 アタシが疲れた笑みを浮かべたそのとき。

 深淵の森からまた気配。


 今度は何よ……。


「魔王様ー! スミレ様ー! 大変です!」


 ゼフ達ワンちゃん隊だった。


「アンタ達どうしたのよ? そんなに慌ててー?」


 ゼフが叫ぶ。


「人間軍が来ます! 数は約80名! 深淵の森到着まであと“1アージ”(一時間)です!!」


 魔王ちゃんの表情が険しくなる——


「スミレ、戻るぞ。今すぐ緊急会議を開く!」


 こうして、平和だと勘違いしていたアタシの日常が終わりを告げた。


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