ちょっと~、喧嘩やめなさいよ
今日も優雅な一日が始まる。
朝日に照らされて、キラキラお化粧が映える。
そう、アタシはいいオンナ。
サン・ショウちゃんと街にいって、買った化粧品が思った以上に肌にあう。
でも、アイシャドーはやっぱり派手な方がいいわよね~。
この世界にもあるのかしら? もし無いならアタシが作ってみたら大儲け……アリね。
そんなことを思いながらアイラインをゆっくり引く。
「このキリっとした目じりが大事なのよ——」
ドガァアアン!!
城内を揺るがす衝撃音。
アイラインは崩れて、歌舞伎役者みたくなる。
「な、何!?!? また魔物の襲撃!??」
ドアを急いで開けると、メイドたちが悲鳴をあげて騒いでいる。
ちょうど通りかかったハジカミちゃんを捕まえる。
「ねぇ、ハジカミちゃん! 今の音はなに? みんな大丈夫なの??」
ハジカミちゃんが肩を揺らし、大きく息を整えて言った。
「……スミレさま! また始まりました!」
「また? またって何がよ」
「ソルト様と、シュガー様の兄妹喧嘩です!」
「……はぁ?」
同時刻、城内一階・玄関ホール
「シュガー! 今日という今日はぜっっったい許さないんだから!」
ソルトが、身の丈ほどの鎌を大きく振りかぶり、シュガーを狙って振り下ろす。
床を抉る衝撃と共に赤い絨毯がはじけ飛ぶ。
「そんなのが僕に当たるわけないじゃん!」
シュガーが軽やかなステップで鎌をかわす。
そして互いに距離をとり、魔法の詠唱を始める。
「“清かなる水の奔流よ、荒れたる波間の渦潮よ”——」
ソルトの伸ばした手に水が集まり始める。
「“浄なる炎の奔流よ、荒れたる火間の業渦よ”——」
シュガーの手には火が集まり、火球となる。
二人が詠唱をし始めたその時、
スミレが二階から参戦。
「ちょっとぉー! 二人とも何してるの!? お城がめちゃくちゃじゃない!」
ソルトが、魔法を手に溜めながら言う。
「うるさいわね! 新入りは黙ってて! 今忙しいの!」
「そうだよ! これは僕たちの問題なんだ!」
ふーん。……あぁ、そう。二人の問題ね。自己中が過ぎるわね。
こちとらメイクが崩れて顔面が傾いてんのに??
「とりあえず、やめてちょうだいな……」
もちろん二人は聞く耳を持たない。
「——“水球・蒼波弾……”」
「——“火球・紅破弾……”」
そして、それぞれの魔法が臨界に到達したその時───
——“口撃スキル発動”——
「やめろって言ってんだろぉぉ!!! こんのクソガキどもがー!!!」
城内を揺るがす野太くドスの効いた声と、ピンクの衝撃波。
「「ヒィィィッ!!!」」
双子はビキィッと固まり、冷や汗ダラダラ。
メイドさんたちも涙目でピシッと背筋が伸びている。
メイドさん達ごめんなさいね。
……でも、今はこいつ等を締めなきゃならないの。
アタシはゆっくり螺旋階段を下りて、動けなくなっているソルトの背後へ。
肩に手を置き、真っ赤なネイルでソルトの首元を小指から順に、皮膚を優しく刺していく。
「……ねぇ? ソルトちゃん? なんで二人で暴れてたのかな〜? オネェさんに教えてくれないかなぁ?」
優しくて、甘くて、そしてドスの効いたオカマの声。
「あっ……あっ……シュガーが、私の隠してたお菓子を取ったの!」
怯えながら吐き出した喧嘩の理由。
お菓子? はい解散。
「あんたは言い訳あるのかい? シュガー」
目線を向けると、歯をガタガタ言わせながらシュガーが答える。
「……だって、いつもソルトだけ美味しいの食べてるんだもん!」
思わず深いため息が出る。
そしてソルトに拳骨を一発。
「いたーい!」
そのままシュガーに近寄って二発目の拳骨を食らわせる。
「うぅ……!」
二人の中央に立ち、説教開始よ。
「アンタら、こんなにめちゃくちゃにしてどうするの? これ誰が片付けると思ってるの? アンタらこれ片付けたことあるわけ?」
二人は顔だけ横にふる。
「……そうよね。さっき、二人の問題ってほざいたわよね?
アンタら二人だけの喧嘩なら止めないわ。
……でも、周りを見てみなさいな? この惨状を片付ける人がいるわよね?
もしかしたら、巻き込まれて怪我をしてたかもしれない。
……それは四天王としてふさわしい事なのかしら?」
また二人は首を横にふる。
「そうよね? 守る立場の人が仲間を傷つけたり、迷惑かけちゃダメじゃない。
……今度から外でしなさい。
それと、片付けもちゃんとしなさいね? ……分かったかしら?」
二人は無言で頭を縦にふる。
「返事は!!?」
「「はいぃぃい!!」」
こうして朝の大騒動が終わった。
───その日の午後
補修工事を手伝わせた二人を呼び出し、食堂へ。
「ちょっと、二人ともそこに座って待ってなさい」
奥からトレーを押してきて、銀色の蓋が被さった皿を二人の前に置く。
「これは……?」
シュガーが言う。
「まぁ、開けてみなさいよ」
二人が同時に蓋を開けると、そこにはフワッフワのパンケーキ。
上にはホイップクリームが贅沢に乗っかり、チョコのソースがかかっている。
「わぁ! おいしそう! これ、何ていうの?」
ソルトが目を輝かせて言う。
「これはね、“パンケーキ”っていうの。アタシの必殺料理よ。
これでオトコを……んっ、なんでもないわ。とりあえず食べてみなさいよ」
アタシがそう言うと、双子ちゃんは一気に頬張り始めた。
「「美味しー!!」」
「そう。……よかったわ。アンタ達が喧嘩しないで、いい子にしてたらまた作ってあげる」
ソルトが、パッと動きを止め、口にパンケーキを入れたまま話す。
「ほんと? また作ってくれる?」
「えぇ。アタシは嘘は嫌いなの」
「「いえーい!!」」
双子は顔を見合わせ、ハイタッチする。
その日を境に、
アタシは二人から『オネェ様』と呼ばれるようになった。




