「宿題勝負」の結果
空手部の道場に、パシン、と手の打ち合わさる音が響いていた。
いつも通りの稽古が始まる直前。風花とカナは、畳の上で向かい合っていた。
他の部員たちはまだ来ていない。今日は、2人だけの勝負が先だった。
風花は、昨夜の疲労がまだ残っているのか、腹を押さえる仕草をしながら口を開いた。
「……さて、じゃあ言おっか。昨日の宿題の結果」
カナは腕を組んで、すっと顎を引く。
「うん。ちゃんと、数えてある」
2人の間に、静かな緊張が走る。
まず、風花が言った。
「……私はね、63発。ダンベルを腹に落とせた」
表情は真剣そのもの。勝ちたい気持ちが、言葉の端々ににじんでいる。
カナは、ほんの少しだけ眉を動かしてから、低く答えた。
「私……66発」
風花の肩が、すっと力を抜いたように落ちる。
「……そっか。負けたか。3発差かぁ」
くやしい。でも、どこかで笑いそうにもなっていた。
本気でやった。限界までやって、なお差があった。それが、悔しさよりも清々しかった。
カナは微笑んで言う。
「でも、正直びっくりした。昨日、痛いのをめちゃくちゃ我慢して回数増やしたから、風花とはだいぶ差が開いてるかと思った」
「ふふ、こっちも本気だったよ。これでも限界ギリギリまで頑張ったんだから」
風花は立ち上がると、自分の腹をぺしっと叩いて見せた。
「じゃ、罰ゲームだね。ちゃんと、5KGボールで“落として”もらわなきゃ」
カナも立ち上がると、器具置き場に向かいながら言った。
風花は悔しそうに漏らす。「ここ数日、限界を超えた回数を毎日やっててお腹ヤバいから、今日こそは免れたかったんだけど、また負けちゃった。めっちゃ痛いんだろうなー」
「言っとくけど、手加減しないから」
「うん。手加減されたら、もっと悔しいもん」
2人の間には、勝敗を超えた信頼と、競い合う者だけが持てる誇りがあった。
こうして、「宿題勝負」第一回目は、カナの勝利で幕を閉じた。