宿題
第一夜ーーそれぞれの「宿題」
夜ーー。
街の喧騒が消え、窓の外にはただ静かな風が吹いている。
家の中も静まり返り、世界は眠りに向かっている。
だが、その眠りとは無縁の少女が、今まさに“戦い”に挑もうとしていた。
風花の部屋
パジャマの上着を脱ぎ、肌着姿になった風花は、自室の床にヨガマットを敷き、ダンベルを手に持った。
それは2KGの小さな鉄の塊。だが、腹に大きなダメージを負っている今の彼女には、十分に過酷な“敵”だった。
「……よし」
腹を露わにし、仰向けに寝転がる。
そしてダンベルを両手で持ち上げ、自分の腹の中心に向かってーー落とす。
ドンッ。
「っ……く……一発」
その重みが腹に沈み、皮膚が波打つ。息が詰まるような衝撃。
まだ試合で痛んだままの腹が、ズキリと主張を始める。
ドンッ。
「二発……!」
汗が額を伝う。喉が渇く。けれど風花は数える声を止めない。
(カナも、きっと今、同じことしてる。負けたくない……)
拳を握りしめ、次の一撃。
ドンッ。
(私は……あの子に、もう一度勝つために――!)
カナの部屋
机の横の床に座り込んだカナも、風花と同じようにTシャツの裾をまくり上げ、自分の腹をさらしていた。
手にしているのは、やや重めの3kgダンベル。
「風花……あんた、絶対無茶してるよね。だから私も、手加減できない」
小さく笑って、自分の腹の上にダンベルを持ち上げ、落とす。
ゴッ。
「……ッ。1」
きりっとした眉がわずかに動く。痛みはある。だが耐える。
試合で勝っても、気が緩んだら、すぐ追い抜かれる。
(あの子の“覚悟”に負けたくない)
ゴッ。
「2……3……」
回数が増すごとに、腹に焼けるような感覚が走る。
(明日、風花と報告し合うときに、絶対、胸を張って言いたい)
「昨夜は、○○発、耐えたよ――って!」
カナの目に宿る光は、戦場と変わらない鋭さだった。
そして夜は更けてゆく。
誰も知らない。
誰も見ていない。
けれど2人は今、誰よりも真剣に、強さと向き合っている。
まるで明日の勝負のために、今日を削るように。
こうして、「宿題」の第一夜は静かに、しかし確実に2人の腹を鍛え、心を燃やしていった――。