「宿題、始めよう」
ただ残るのは2人の荒い呼吸と、鉄球が床に転がる音。
風花は、150発という常識を超えた回数の「激突」を受け止めたダメージでボロボロになった腹を、両腕で包むように抱えながら、マットに腰を下ろしていた。汗で濡れた髪が額に張りつき、目元には疲労と達成感が混じっている。
カナはその隣に座ると、しばらく沈黙して、ふっと笑った。
「ねえ、風花」
「ん?」
「……あんたさ、自分であんな苦しい道、選んだよね。私だったら逃げてたかもしれない。でもーーそれ見て、私も頑張ろうって思った」
風花はきょとんとした顔で、カナを見た。
「……カナでも、そんなこと思うんだ?」
「思うよ。私たち、同じ目標に向かってるんだもん」
そして、カナは唐突に切り出した。
「だから、提案なんだけどーーこれから毎晩、宿題しない?」
「宿題?」
「うん。腹の打たれ強さを鍛える“宿題”。寝る前に、自分の腹にダンベルぶつけるの。メディシンボールと同じ感じで。何発耐えられたか数えて、翌日の部活でお互いに報告するの」
風花の目が、ぱあっと輝いた。
「それ……めっちゃ楽しそう!!ワクワクするね、それ!!」
「でしょ?」
「それで、少なかった方が――?」
「もちろん、負けた方はその場で“罰”。ボール落とし。5KGのやつで、しっかり鍛えてもらう」
風花はにんまり笑った。
「いいねぇ……負けられないなぁ。毎晩が勝負じゃん」
「ふふ、でも今のあんた、ものすごくお腹痛いでしょう?私を上回る回数叩くのは無理だよね。明日の罰ゲームも風花かな?」
「負けないよ。すっごく痛いけど、根性で耐えるもん!」
2人は互いに拳を突き出し、軽くぶつけ合う。
その音は小さいけれど、確かに、強く結ばれた盟約の音だった。
こうして2人の“宿題勝負”が始まった。
眠る前のひとときに、自分の腹と向き合うという、誰にも真似できない特訓。