幸せを呼ぶ日めくりカレンダー
12月はカレンダーの季節。社会人1年生の私は、会社から幸せを呼ぶという謳い文句の日めくりカレンダーを持ち帰った。取引先から貰ったものだ。
元旦、早速ぺりっと捲ると「ぎいいやああああ!」という野太い悲鳴が鼓膜を貫いた。一人暮らしだから部屋には誰もいない。隣人か、事件か頭を回転させていたらーー
「痛いわよ! もっと優しくめくってくんない?」
カレンダーが喋った。
翌日「あん」翌々日「いやん」と捲られる度に野太い色気のある声を出すこいつは、オネエキャラのようだ。この三日間、何処に目があるのか服装から食事など、私生活に口を出してきた。
「ちょっと! ジーンズにパーカーなんてだっさいわよ! 若いんだかはもっとオシャレしなさいな」
仕事始め、早速会社に相談したが、初夢だとか頭打ったのかと精神科の受診を勧められた。
家に連れてきた人には聞こえず、私にしかこの声は聞こえないらしい。そんな日めくりカレンダーの名前はカレンらしい。
「男な声で女の名前って……」
「失礼ね! 心は乙女よ」
カレンダーと会話する私も大概である。
そんなカレンは毎朝六時になると目覚ましのように私を起こし、朝食や化粧にもケチをつけ、良く言えば超世話好きなオネエだ。
何処が幸せを呼ぶのか。私生活に文句をつけられるなんて、不幸せじゃないか。
春。
1週間ぐらい喋らない日が続いた。静かでいいと思っていたら、「ただいまー!」と突然機嫌よく叫んだ。カレンダー界の旅行に行ってたらしい。
夏。
「体の調子が悪いの、日々身を削られてるっていうか」と言い出した。
確かに毎日めくっているから、身は削っている。
「あたし、年内まで生きられるかしら」
この頃になると、カレンとの生活が当たり前になってきて、少しだけ心に刺さった。
11月。
私に彼氏ができた。カレンのアドバイスに従って化粧や服装を変えたらだ。初めて感謝した。
12月。
だんだんとカレンの元気がなくなってきた。
そんな時、新しいカレンダーを入手した。
「浮気者!」
カレンは真っ先にそう言った。いや、カレンダー変えないと。とはいえ、カレンと離れるのもちと寂しい。
そして大晦日の夜。
「今までありがとう。幸せになれた?」
「うん。カレンのおかげで一年間楽しかったよ」
「ふふ、良かった……がくっ」
なぜか効果音を喋って、息を引き取ったようだ。
年明け早々に結婚したので、幸せを呼ぶ日めくりカレンダー『カレン』の効果はあったらしい。
ありがとう、カレン。