侍女マリアの日記12
あのお茶会以降、リネージュ様は物思いに耽るようになられました。
「リネージュ様…」
やはりクロス侯爵のことが気になるのでしょうか…
私は少しでもリネージュ様の憂いを取り除きたいと思っておりますが、こればかりはどうしたら良いのかわかりません。
クロス侯爵が今更なぜリネージュ様とお会いしたかったのか…
直接ではありませんでしたが、今クロス侯爵の話題はリネージュ様に心痛をもたらしたのではないかと考えてしまいます。
「…マリア」
「はい、リネージュ様」
窓の方を向いてベッドに横たわるリネージュ様のそばに行きました。
それでもリネージュ様の視線はずっと窓の外でした。
「別れた夫のことを考えてたの…彼は今幸せなのかしら」
今こちらに来て、しかも貴女のお茶会の隣に居ましたとは口が裂けても言えません…
「さあ…どうでしょうか…」
そして、ふとリネージュ様は私に視線を合わせられました。
柔らかく微笑んでこういうのです。
「私は彼の幸せを願うほどできた人間じゃないのかなと、殿下と話してて思ったの。彼から話題を振られて、改めて考えてみたわ…。私怒って良かったんじゃないかなって」
「そ、そうです!リネージュ様は優しすぎます!!」
私は思わず声を大きくしてしまいました。
「し、失礼いたしました。でも…リネージュ様は何も悪くございません」
「いいえ、彼の子供を産めなかったわ」
それは彼の方が種無しのだったからです!!と言って差し上げたい気持ちが込み上げてきました。
ナミル医師から「機を見ていうから今は言うな」と言われているので歯痒い気持ちになります。
「それでも…だからと言って蔑ろにしたり、不倫をしたりするのは違うと思います。確かに血を繋ぐことは大事だと思います。しかし、他にも方法はあったのではないかと」
リネージュ様は表情を変えずに私の言葉を聞いておられました。
「申し訳ありません、出過ぎたことを申しました」
私は頭を下げました。
「良いのよ…確かに不倫を知った時は悲しかった。離婚を言い渡された時は虚しかったわ。それでもあなたたちはクロス侯爵家に仕える者として私を支えてくれた。それに気づけたのも事実なの。さっきも言ったけど、私怒れば良かったのよね。不倫はやめて!離婚したくないって…結局離婚することになったとしてもそうやっていれば、気持ちは多少消化できたかもしれない。生き埋めにしている私の気持ちが少なかったかもって殿下と話してて思ったの。だから、これからは少しでも変わらなくちゃって思ったの」
「それは…」
「ありがとう、マリア。私のために怒ってくれて。今日は少し気持ちが楽になった感じがしたの」
そう仰ってリネージュ様は目を閉じられました。
どこかすっきりしたような穏やかな表情で…