侍女マリアの日記10
「まぁ!とても素敵な場所ですね。」
と大きい声ではないですがはしゃぐリネージュ様の声が聞こえます。
「よかった、君がそう言ってくれるなら、安心だな。」
ランバート殿下は少しホッとしたような口調で答えられます。
「はい、日差しが当たりすぎずとても素敵だと思います。こちらは落葉樹でしょうか?もし冬場だと少し寒いかもしれませんが、葉が落ちるのであれば、また冬も趣が違って、少しの間でしたらこちらで過ごせるのかなとも思います。」
「そうか、落ちる葉とそうでない葉か…庭師はその辺うまくやってくれていると思うが確認しておこう。冬も外でお茶会をしたりするのか?」
「あまりされないと思いますが、こちらの施設の特徴的にやはり部屋でずっといると気が滅入る場合もあるかと考えます。そういったときに気分転換の一つとして、冬でも少しの時間寒さ対策をして外で過ごすのもいいんじゃないでしょうか?」
「なるほど。私は寒い日に外でお茶を飲んだりしないから考えたことがなかったな。」
「寒い日の空気がシンとした中でお茶を飲むのも楽しいものですよ。」
「なるほど、少しは冬が楽しみになるな。」
私はこの会話をきいて、ひたすらドキドキするだけでした。
いつ切り出すのだろうか、和やかな会話が続きます。
そんななかふとリネージュ様がこう言われました。
「冬のお茶会…といっても私一人でお茶を飲んでただけなのですが、その冷たい空気の中で見る空には
一枚の布のような雲が広がっていまして…それを見ているとすべてを覆い隠してくれるんではと眺めていた次第です…」
クロス家でのことを思い出されたのでしょうか、その顔には幾許かの寂寥感を滲ませておりました。
「そうか…。」
すこしシンとした空気になり、それぞれ一口、紅茶に口を付けられました。
「レディ・アントレット」
おもむろにランバート殿下が口を開かれました。
「はい?」
「少し尋ねたいことがあるんだが…これは答えたくなかったらいいんだが…。」
「いえ、大丈夫でございます、何でございましょう?」
「君はクロス侯爵にもう一度会えるとしたらどうする?」
「…え?」
「君の個人的な情報は…すまないこちらで患者の大体の情報は知っているんだ。先ほどの表情を見てて、もし会えるとしたらどうするのかなと…個人的なことを聞いてしまったな。」
「…そうですね…。」
どのくらい時間が経ったのでしょうか、もしかしたらそれほど時間はたっていないのかもしれません。
私は待ち続けるしかありません。
リネージュ様の答えが自分の考えと違ったとしても…
はぁ…
と大きく息を吐かれたリネージュ様はその顔をランバート殿下に向けられました。
「会いません。」
ただ一言シンプルにリネージュ様は言われました。